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林檎のロロさん  作者: Tada
36/151

36個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 食後の昼寝から起きたメリーは、ロロとザックがご機嫌だったので、何かあったのか聞いてみると、納得した。


「小せぇ財布がいいのか?」

「うん、それがいいの」


 メリーたちが新しい魔法鞄を作っていた時、ソファーで見学していたロロが、黄土色のリュックを膝にのせて大事そうにしているのが見えていた。

 作った職人としては、嬉しいものだ。


 小僧が使って、嬢ちゃんが使って、更に弟子(ザック)が財布に作り変えることになるとはなぁ。


 気がつけば自分までご機嫌になっていた。


 ポケット・ショルダーストラップ・裏地用の黒魔法布を縫い付けると、もう完成に近くなった。


「これからタグ付けと、最後に黒魔法布に異空間収納の定着だ。ザック、扉をノック禁止・立入禁止にしとけ」 

「はい、師匠」


 ザックは扉付近の棚から何枚もある紙の一枚を選んだ。扉に貼る用紙のパターンがいくつかあるようだ。貼って剥がせる魔法糊がある。前世でもそんな感じの文具があったな、と思った。

 扉に貼ると、鍵を閉めた。


「嬢ちゃん、タグはここでいいか?」


 正面から見て左上だ。コクリと頷くと、砂色のタグが縫い付けられた。


 あ、私の好きな色だ。


「同じ灰赤にすると、【紅玉(ルビー)】のピンバッジが霞んじまう。こっちの砂色のほうが映える」


 メリーがロロを見て、にやりとした。


「そこのデザイン性も大事なんですね」

「メリーさん、最高」



 

「出来たぞ」


 今までと同じ形のワンショルダーリュックにポケットが増えた進化版の完成だ。色は灰赤に。大人っぽくなった気がした。


「カッコイイ!」


 メリーが魔力回復薬をザックと半分ずつ飲んだ。


 いよいよ、異空間収納を定着する、だよね?


「今度のは、子供の遣い程度の空間じゃねぇぞ。一人暮らしの部屋くらいにしてやる」 

「え、そんなに必要?」

「嬢ちゃんの部屋は自分の家具はあるのか?大きな物は?」

「家具付きで借りた部屋だから、‥‥‥大きいのは、鉢植えと‥‥‥枕かな」

「じゃあ、鉢植えと枕だけ持って、このリュックで引っ越し出来るぞ?」

「おっふ」


 そうか。リュックの入り口の大きさ以下にすれば入るんだ。引っ越しラクになるのか。最近パンとか串焼きを入れることばかり考えてたから‥‥‥。


「嬢ちゃん、入るのは食べ物ばかりじゃねぇんだぞ?」

「お見通しだった!」

「ロロちゃん‥‥‥」

「さぁ、やるぞ」


 ザックがリュックを底が見えるほど大きく広げた。黒い布に何か文字が縫われてあるようだが、よく見えない。

 メリーが黒く輝く小さい石を持ってリュックの底に手を入れた。するとやがて、光の粒が渦巻くように見えた。まるで宇宙のようだとロロは思った。メリーの腕は大丈夫か、吸い込まれないか、不安になった。


 スッとメリーの腕が抜かれた。宇宙っぽいのがなくなっていたのでホッとした。


「ザック、試験用に何かあるか?」

「紅茶を入れるので、それにしますか」

「いいな、頼む」


 ザックが居なくなると、メリーが真顔でロロに語り始めた。


「これから言うことは、魔法鞄職人だけ知り得るものだ、嬢ちゃん。俺は予め、自分の名前・職人番号・ギルド名をリュックの底部分に黒糸で縫っていた。そこに俺の魔力を流すと異空間へ繋がるゲートになる。異空間の大きさに見合った金剛石を入れて、交換に異空間を一部もらうんだ。世間には、そこまでを全て引っ括めて魔法付与と言うようにしている」

「‥‥‥契約魔法ってこと?」

「黒の魔力を持った者でも、契約魔法が使えないと出来ねぇし、魔法鞄職人にもなれねぇ」

「どうして、職人でもない私に話したの?」

「嬢ちゃんだって、一番の秘密を話してくれたろぉよ?」

「メリーさん‥‥‥」

「誰にも言うなよ?」

「言わないよ。‥‥‥ねぇ、最初に魔法鞄作ろうと考えた人、すごくない?」

「ガハハハ!本当だな、すげぇこと考える。昔は魔法鞄は国宝級の物だったそうだ。その時の国王か王族が、皆が使えるようにと、門戸を開いたのかもしれねぇな」


 その人に感謝しないとな。


「師匠、紅茶入りました」

「よし、ザック入れてみろ」 


 紅茶入りのマグカップを三個、魔法鞄に入れてみた。


「少し待てな、嬢ちゃん」

「はぁい。あ、そうだザックさん」

「なに?」

「お財布に、何か紐を付けられるようにしてほしいの」

「装飾を付けるの?小さい輪っかの金具とかでいいのかな」


 ザックが部品を探して、持ってきた。


「これはどう?銅貨のような色だけど」

「うん、これいいかも!付ける装飾は自分で作るね」

「承りました、お客様」


 ふふっとお互いに笑って、そろそろいいかとザックが紅茶を出した。しっかり漏れずに、熱々の紅茶が三個出てきた。


「よし、依頼完了だな」 

「お疲れ様でした。良かったね、ロロちゃん」

「メリーさん、ザックさん、素敵な魔法鞄をありがとう!」



 ザックが「忘れてた」と、扉の貼り紙を剥がしに行った。


「ロロちゃん!」

「うん?」

「お迎えだよ」


 私は保育園児か?


「カイさん」

「出来たか、魔法鞄」

「うん!ほら!」


 色は違うが、前とほぼ同じ形のワンショルダーリュックを見せた。


「‥‥‥おい、これ、レッドドラゴンじゃ?」

 

 顔が引き攣っている。


「なんだ、大人しく通路で待ってたのか?」

「爺に怒鳴られるからな」

「子供か!ガハハハ!」


 素材のことは後で追及するとして、ロロの頭を撫で、良かったなと言った。

 

 ザックに後日、黄土色のリュックを預ける約束をした。

 二人にお礼を言って、地下通路を歩きながら、このまま二階の代表室へ行くという話になった。


「ギルドカードの更新をしよう」

「ん?いつ?」

「明日。その後に、その魔法鞄の登録だ」

「‥‥‥本当?明日?明日ね?」


 今日のことを話したら‥‥‥。


「ああ、明日だ」

「ふふ、楽しみ!」


 この表情が、曇るだろうか。


 弾むように階段を上るロロの後ろ姿に、カイの胸が少し痛んだ。

読んでいただきありがとうございます。

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