34個目
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『お前など知らない』
『だがその瞳は間違いないな』
『貴方など知らないけど、今までどうしていたの?』
『何がしたいの?』
『面倒なことになったなぁ』
「私が、何をしたっていうんだ!」
* * * * * * * * * * *
金細工のカフスボタンを手に持ったユルの顔には、すでに眼鏡はなく、青碧の瞳が、淡く光っている。
「‥‥‥鑑定します」
ユルは先ず、カフスボタンに残る魔力を視た。
ディーノの魔力をまずは除外しなくてはならないので、最近のカフスボタンに触れた魔力を視るが、新しい魔力はマルコのものだった。
彼には、魔力がない?
もし、ディーノが王族である場合。
魔力で彼の置かれている立場がわかる。
一、彼から何の魔力も感じないのは、稀にいる魔力なしの王族であるため。
二、何らかの罪により王位継承権を剥奪された者であり、魔力を封じられているため。
三、初めから王位継承権を放棄している王族は、そのまま魔力を持って成長できるのだが、放棄していたにも拘らず、魔力を封じられたため。
彼を鑑定出来ればいいが‥‥‥いや、これは依頼には関係のないことだ。
持ち主の魔力は、何だ?‥‥‥何かが邪魔をする。
魔力の消費を考えて、先にカフスボタンの取り扱い店を調べることにした。
職人は自分が作った表示を作品に付けなくてはならないので、冒険者ギルド・商業ギルドに記録がある。
ユルは、無色透明の魔石を用意した。職人の表示を探す。金細工ではなく、真珠に書き込まれているようだ。
真珠をメインに扱う宝飾店。店番号は四十番。
魔石に記録をコピーした。
そして、この、先程から邪魔するものは、なんだろう。
拒絶?‥‥‥自分が?
『平民のくせに、娘の専属を断ったそうだな!生意気な!』
髪を掴まれ、引きずられ。
殴られる、その、振り上げた、子爵の袖口。
金細工、真珠。
「‥‥‥くっ!」
「ユル!」
「ユルくん?」
逃げるな。
ユルは唇を噛んだ。
あの子爵の魔力なら知ってる。しつこい娘に父親の持ち物を鑑定させられたことがある。
『私の専属鑑定士になりなさい。そうしたら●●●●殿下を紹介してあげるわ』
『美しいけど、緑じゃないのね』
『学院を卒業したら、殿下との繋がりがなくなってしまうのよ!』
『ユル、殿下がお会いしてくれないの。ねえ』
『お前は、私の専属になりなさい!』
惨めな女だった。
『お父様の指輪よ、鑑定してちょうだい』
ユルの唇から血が出ていた。カイとマルコは、それでも、鑑定中のユルを待つことしか出来なかった。
ほんの僅かな、黒の魔力と黄色の魔力。貴族にしてはかなり少ない。そう、思っていた。
リカルド・カートン子爵。
ユルがゆっくりと深呼吸をして、顔を上げた。
「ユルくん、大丈夫か。唇が切れてる」
「‥‥‥失礼、しました」
ポケットのハンカチで拭い、眼鏡をかけた。
「よく、鑑定してくださいました。あなたにも深く押し込めていたものが、ありましたか」
「‥‥‥」
ユルは、シロの言葉で沈黙し、それからディーノを見た。静かに眠る、美しい青年を。
目を閉じてもう一度深呼吸をすると、またあの香りがふわりと包んだ。
「‥‥‥本当はわかっていたのではないですか?」
「鑑定士ユルさん、あなたの鑑定結果を知りたいのです。カフスボタンのことだけでなく、わかったことを全て話してみてください」
ユルは、腕を組んで黙るカイと、顔を顰めて指を組むマルコを見た。話して良いということだ。
「‥‥‥このカフスボタンは、真珠をメインに扱う宝飾店、四十番の店です。百番以内の数字は王都の店。商業ギルドで、確実に店も職人も特定できます。職人からカフスボタンの購入者がわかるでしょう」
「でも、あなたにはその持ち主がわかっている」
「‥‥‥はい。一度、鑑定したことがある魔力です。リカルド・カートン子爵」
「「‥‥‥っ!」」
カイとマルコが息を呑んだ。王都でユルに暴力を振るった貴族。ユルとの関連とは、この事か。
「‥‥‥正式に結果を残すのであれば、この魔石を差し上げますので、これをカフスボタンと一緒に商業ギルドへ」
「ユル、子爵は‥‥‥その」
「‥‥‥?」
カイが言葉を濁しているので、ユルは首を傾げた。
「子爵は、もう、死んでいるんだ」
「‥‥‥え?」
「ごめんね、ユルくん。もう名前も聞きたくないだろうと思って、言わなかった。ユルくんがガルネルに来て直ぐに、馬車で事故死している」
「‥‥‥そう、でしたか‥‥‥」
あの男は、もう死んでいたのか。
「‥‥‥祖父も両親も黙っていたのですね。本当に私は‥‥‥」
守られてばかり。
「それだけ、愛されているということでしょう。皆さんに感謝することが大事です。この先、あなたが幸せになることで、恩返しになりますよ」
シロの言葉に、三人は目を丸くした。この白い髪の少年、やはり彼は、見た目通りの年齢ではないのだろう。
「‥‥‥ディーノ様は、魔力なしですね?」
「そうです。どの理由が浮かびましたか?」
マルコは、まるでシロがユルの先生のような会話だと思った。
ユルは、先程の鑑定で考えていたことを言ってみた。彼が、王族であるならば、と。
「そう、答えは、三番目。彼は、王位継承権を放棄していたにも拘らず、魔力を封印されたのです」
「「「‥‥‥!」」」
衝撃で言葉が出なかった。
「この東の国・イーステニアの王子王女の名前は言えますか?マルコさん」
「アーサー王太子殿下・イザベラ第一王女殿下・エレノア第二王女殿下・ライリー第二王子殿下、以上です」
マルコは、自分まで生徒になった気分だった。
「そうです。ですが、真実は違うのですよ」
シロがディーノに顔を向けると、皆もディーノに視線を移した。
「彼は、ディーノ・イーステニア王子殿下。皆の記憶から消された、第二王子殿下だった人です」
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