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林檎のロロさん  作者: Tada
34/151

34個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



『お前など知らない』 

『だがその瞳は間違いないな』

『貴方など知らないけど、今までどうしていたの?』

『何がしたいの?』

『面倒なことになったなぁ』



「私が、何をしたっていうんだ!」




 * * * * * * * * * * *




 金細工のカフスボタンを手に持ったユルの顔には、すでに眼鏡はなく、青碧の瞳が、淡く光っている。


「‥‥‥鑑定します」


 ユルは先ず、カフスボタンに残る魔力を視た。

 

 ディーノの魔力をまずは除外しなくてはならないので、最近のカフスボタンに触れた魔力を視るが、新しい魔力はマルコのものだった。


 彼には、魔力がない?

 

 もし、ディーノが王族である場合。

 魔力で彼の置かれている立場がわかる。



 一、彼から何の魔力も感じないのは、稀にいる魔力なしの王族であるため。


 二、何らかの罪により王位継承権を剥奪された者であり、魔力を封じられているため。


 三、初めから王位継承権を放棄している王族は、そのまま魔力を持って成長できるのだが、放棄していたにも拘らず、魔力を封じられたため。



 彼を鑑定出来ればいいが‥‥‥いや、これは依頼には関係のないことだ。


 持ち主の魔力は、何だ?‥‥‥何かが邪魔をする。


 魔力の消費を考えて、先にカフスボタンの取り扱い店を調べることにした。

 職人は自分が作った表示を作品に付けなくてはならないので、冒険者ギルド・商業ギルドに記録がある。

 ユルは、無色透明の魔石を用意した。職人の表示を探す。金細工ではなく、真珠に書き込まれているようだ。

 真珠をメインに扱う宝飾店。店番号は四十番。

 魔石に記録をコピーした。


 そして、この、先程から邪魔するものは、なんだろう。

 

 拒絶?‥‥‥自分が?



『平民のくせに、娘の専属を断ったそうだな!生意気な!』



 髪を掴まれ、引きずられ。

 殴られる、その、振り上げた、子爵の袖口。

 金細工、真珠。

 


「‥‥‥くっ!」

「ユル!」

「ユルくん?」


 逃げるな。


 ユルは唇を噛んだ。


 あの子爵の魔力なら知ってる。しつこい娘に父親の持ち物を鑑定させられたことがある。

 


『私の専属鑑定士になりなさい。そうしたら●●●●殿下を紹介してあげるわ』

『美しいけど、緑じゃないのね』

『学院を卒業したら、殿下との繋がりがなくなってしまうのよ!』

『ユル、殿下がお会いしてくれないの。ねえ』

『お前は、私の専属(モノ)になりなさい!』


 惨めな女だった。


『お父様の指輪よ、鑑定してちょうだい』



 ユルの唇から血が出ていた。カイとマルコは、それでも、鑑定中のユルを待つことしか出来なかった。


 ほんの僅かな、黒の魔力と黄色の魔力。貴族にしてはかなり少ない。そう、思っていた。


 リカルド・カートン子爵。


 

 ユルがゆっくりと深呼吸をして、顔を上げた。


「ユルくん、大丈夫か。唇が切れてる」

「‥‥‥失礼、しました」


 ポケットのハンカチで拭い、眼鏡をかけた。


「よく、鑑定してくださいました。あなたにも深く押し込めていたものが、ありましたか」

「‥‥‥」


 ユルは、シロの言葉で沈黙し、それからディーノを見た。静かに眠る、美しい青年を。


 目を閉じてもう一度深呼吸をすると、またあの香りがふわりと包んだ。


「‥‥‥本当はわかっていたのではないですか?」

「鑑定士ユルさん、あなたの鑑定結果を知りたいのです。カフスボタンのことだけでなく、わかったことを全て話してみてください」


 ユルは、腕を組んで黙るカイと、顔を顰めて指を組むマルコを見た。話して良いということだ。


「‥‥‥このカフスボタンは、真珠をメインに扱う宝飾店、四十番の店です。百番以内の数字は王都の店。商業ギルドで、確実に店も職人も特定できます。職人からカフスボタンの購入者がわかるでしょう」

「でも、あなたにはその持ち主がわかっている」

「‥‥‥はい。一度、鑑定したことがある魔力です。リカルド・カートン子爵」

「「‥‥‥っ!」」


 カイとマルコが息を呑んだ。王都でユルに暴力を振るった貴族。ユルとの関連とは、この事か。

 

「‥‥‥正式に結果を残すのであれば、この魔石を差し上げますので、これをカフスボタンと一緒に商業ギルドへ」

「ユル、子爵は‥‥‥その」

「‥‥‥?」


 カイが言葉を濁しているので、ユルは首を傾げた。


「子爵は、もう、死んでいるんだ」

「‥‥‥え?」

「ごめんね、ユルくん。もう名前も聞きたくないだろうと思って、言わなかった。ユルくんがガルネルに来て直ぐに、馬車で事故死している」 

「‥‥‥そう、でしたか‥‥‥」


 あの男は、もう死んでいたのか。


「‥‥‥祖父も両親も黙っていたのですね。本当に私は‥‥‥」 


 守られてばかり。


「それだけ、愛されているということでしょう。皆さんに感謝することが大事です。この先、あなたが幸せになることで、恩返しになりますよ」


 シロの言葉に、三人は目を丸くした。この白い髪の少年、やはり彼は、見た目通りの年齢ではないのだろう。


「‥‥‥ディーノ様は、魔力なしですね?」

「そうです。どの理由が浮かびましたか?」


 マルコは、まるでシロがユルの先生のような会話だと思った。

 ユルは、先程の鑑定で考えていたことを言ってみた。彼が、王族であるならば、と。

 

「そう、答えは、三番目。彼は、王位継承権を放棄していたにも拘らず、魔力を封印されたのです」

「「「‥‥‥!」」」


 衝撃で言葉が出なかった。


「この東の国・イーステニアの王子王女の名前は言えますか?マルコさん」

「アーサー王太子殿下・イザベラ第一王女殿下・エレノア第二王女殿下・ライリー第二王子殿下、以上です」


 マルコは、自分まで生徒になった気分だった。


「そうです。ですが、真実は違うのですよ」


 シロがディーノに顔を向けると、皆もディーノに視線を移した。


「彼は、ディーノ・イーステニア王子殿下。皆の記憶から消された、第二王子殿下だった人です」


読んでいただきありがとうございます。

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