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林檎のロロさん  作者: Tada
31/151

31個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



 地下通路の途中、右の扉にあった不在のプレートがなくなっていた。


 トムさんたち帰ってきたんだ。コイルさんのグラス商品化するのかな?


 先日、ザックからもらったコイルの試作品の青いグラスは、自宅でも使っている。水を入れただけでひんやり冷たい。そして冷たさが続く。冷却魔法が出来ない人や魔法鞄を持てない人にとっては嬉しいものだ。


「あ、ロロさん、お久し振りですね!」

「コイルさん、おはよう!」


 ちょうど扉から出てきたコイルは、これから厨房にグラスを持っていくところだった。短髪の小麦色の髪と瞳の青年だ。斜め掛けの魔法鞄から青いグラスを取り出した。


「カフェでこの冷グラスを使ってもらうことになりましたよ」

「涼しげでキレイ。より美味しく飲めるね、楽しみ!」

「ありがとうございます!嬉しいな」

「温かい用のも作るの?」

「‥‥‥う、頑張ります!」


 あ、余計なこと言った?でも期待していいよね。


 コイルと別れ、奥の扉をノックし「ロロです」と言った。ゆっくりと扉が開かれて、眠そうなザックが顔を出した。薄黄の髪もボサボサだ。


「ザックさん、おはよう。‥‥‥早過ぎた?」

「いや、大丈夫だよ。朝一番にって約束だったから。泊まり込みで作業してたから、こんな顔でゴメンね。どうぞ」

「お邪魔します」


 奥で顔を洗ってたらしいメリーが手拭いを首にかけて「おはよう嬢ちゃん」と言って、ドスンと大きめの椅子に座った。今度はザックが顔を洗いに行った。戻ると、作業台の椅子を二つ運んできて、木箱で作ったテーブルを置いた。


「ロロちゃん、コイルが王都の土産に珈琲(コーヒー)をくれたんだよ。飲んでみる?」


 コーヒー!


 この世界でまだ飲んだことがなかった。なんて懐かしい‥‥‥。飲みたい、と頷いた。


「上手くできないから厨房で頼んでくるよ、ちょっと待ってて」

「私パン買ってきたから、朝食も一緒にいい?」

「おお、助かるなぁ」

「ありがとう、ロロちゃん!師匠、ちょっと行ってきます」


 お腹が空いていたのか、ザックは嬉しそうに出て行った。


「メリーさん、コーヒー懐かしいよ」 

「そうかそうか、良かったなぁ」


 ゴツゴツした手で頭を撫でてくれた。ザックがいない間に、鑑定では全属性だったことを話した。目を丸くして驚いたていたが、悪いことじゃないと笑った。ユルにも良かったと言ってもらえた、と話すと「言うなぁ、あの坊主」と褒めていた。坊主‥‥。


「あ、これ、メリーさんたちにも」


 作った香り袋を二つ渡すと、また目を丸くした。


「嬢ちゃんといると、顔洗うより目が覚めるなぁ」

「え、何それ」

「守り袋だな。皆を守ってほしいと願って作ったんだろぉよ?」

「うん、魔除けだし」


 オバケ除けだし。

 キノコ少年の横の、わからない存在が気持ち悪かった。


「微かに白があるなぁ。他にもあるかわからんが、持ってるだけで有り難いもんだ」


 おうふ。防腐魔法しただけだったのに。なんか混ぜちゃったのか。


「小僧に、ギルマスに今後の相談しろな。魔法鞄もベースは出来てるぞ?」

「え!本当?」

「ザックが戻ったら朝食にして、それから取り掛かろぉな」

「はい!」


 ザックが戻ってきて、木箱にクロスを掛けたら、魔法鞄から温かい珈琲が出てきた。苦いから慣れるまでは砂糖とミルクを入れたら飲みやすいと言ったら、ミルクティー用にあったのをザックが出してきた。ロロはロールパンサンドを配った。


「本当だ!こっちのほうが飲みやすい!パンにも合うね」


 ザックは甘党なようだ。ロロも少し砂糖を入れて、ミルクなしで飲んだ。久しぶりの味に感動する。


「沁みるわー」

「ぶほっ」

「嬢ちゃん‥‥‥」


 魔法鞄職人たちに残念な顔をされた。





 朝食を済ませ、クロスを取った木箱の上に、メリーが光沢のない灰赤の革を乗せた。


「偶然にも、その服と同じ色だなぁ」


 ロロが着ている服を見てメリーが笑った。赤といっても渋い色で、好きな色だ。


「これは?」

「レッドドラゴンの腹部分を鞣した革だ」

「‥‥‥」

「師匠、ロロちゃんが白目になっています」


 高級品‥‥‥レアすぎて無理。


「貸しがある商人からもらったもんだから、金のことは気にすんな。どうだ?良い色だろぉよ?」

「ハイ、トテモスバラシイデス」

「いいなぁ」

 

 ザックの薄黄の瞳が輝いていた。滅多に手に入らないものらしい。


「レッドドラゴンだから、熱や炎に強い。もしもの時の盾にもなるぞ」


 いやぁ、もしもの時は来ないでほしい。


「もちろん革自体が強化されてるから、同じドラゴンか、S級冒険者くらいにしか傷付けられないだろぉよ」


 それもう修羅場だって。


「本当に、これ私のに使っていいの?メリーさん」

「ピッタリだろぉよ?ピンときて奪い‥‥‥もらいに行った」


 いま、奪いに行ったって言おうとした?大丈夫?商人さん泣いてない?

 二日ほど留守だったのはこれをもらいに行ったからだったようだ。


「嬢ちゃんはそのリュックと同じ作りがいいか?」

「うん。これと同じワンショルダーリュックがいい」

「ロロちゃん、この前話してたポケットの数を増やしてもらったら?」


 確かに、通常のリュック使用に外ポケットが欲しいとザックさんに話してた。


「ザック、ポケット部分やってみろ」

「え!」


 思わぬ話にザックが目を丸くして驚いた。


「ロロちゃん、いい?」


 申し訳なさそうに言ってきたザックに、頷いた。


「ザックさん、期待していい?」

「頑張る!ありがとう、ロロちゃん」


 今日はしっかり見学していけ、と言ってくれたので、奥のソファーに座ろうとして、思い立った。


「メリーさん、ちょっと肩を貸して」

「んん?」


 メリーの後ろに周り、肩に手を置いて目を閉じた。身体が驚かないように、弱めにゆっくり血液の流れを感じて‥‥‥。今日もお疲れさ魔法(マッサージ)・弱。


「‥‥‥おい、ザック」

「‥‥‥はい」

「まだ誰にも話すなよ?」

「勿論です」


 薄紫色に光るロロの姿を、ザックはしっかり目に焼き付けて、記憶に鍵をかけた。



読んでいただきありがとうございます。


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