3個目
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薄明かりの地下通路や階段って、ダンジョンみたいでテンション上がるわぁ。
‥‥‥って言ってたのは、少し前までのお話。
「いや実際暗すぎて階段落ちたらどうするんだ、って思うようになりましてね」
「誰と話してるんだよ」
「うわ、びっくりした」
後ろからギルドマスターのカイが来ているのに気がつかなかった。
足音消すのやめてほしい。
「こんにちは。カイさんも工房に用で?それとも‥‥‥」
「どっちもだよ。あの魔法鞄使えなくなったって言ってたろ?」
「うん」
カイが、冒険者デビューした時に初めて持った魔法鞄だったそうだ。
「使えなくなった原因が知りたい。昔はギルド認定なんてしてなかったから、不良品が出回ってな」
「うん」
「入れた物が失くなったとか、食べ物が腐ったとか」
「うわ最悪」
「まあ今も他国の商人から違法に買って捕まるやつもいるにはいるが、殆どそんな話聞かないだろ」
「‥‥‥」
私のは、ちょっと違うんだろうな、とロロは思った。
突き当たりに重苦しい扉がある。
『ノック三回、返事があるまで開けるな』と、貼り紙がある。
コン・コン・コン
なるべくゆっくりノックしたが、
「うるせぇ!!!叩くんじゃねえぇえ!!!!!」
「「えぇ‥‥‥」」
怒られた。
「悪いなぁ。嬢ちゃんよぉ」
顔面がほぼ髭で覆われている大男が、ガハハと笑った。全身茶色い感じなので、大きな熊みたいだ。
メリー・バッガー。いろいろツッコミたい名前だ。
「爺、貼り紙の意味がないぞ」
「確かにな! だが、魔法付与の時が一番危ねぇんだよ。嬢ちゃん小せぇ頃にいきなり飛び込んで来たことあったろぉよ?」
はい、あります。
カイが残念な子を見るようにコチラを見ている。
あの頃は地下探検が楽しかったな。よく怒られたけど。
「ま、まあ、それは置いといて、今日はメリーさんにこのリュックの相談を‥‥‥」
「おぅ、それか。使い込んでるな。オレが昔そっちの小僧に作ってやったやつだろぉよ?」
「え?そうなの?」
「‥‥‥そうだ」
ロロは、このリュックがメリーの作った魔法鞄だと初めて知った。
ギルド認定の、この国で名前を知らない冒険者はいないような職人の、メリー・バッガーが作った魔法鞄が使えなくなったなんて、世間に知られたら‥‥‥。
ロロの顔は、見る見る青白くなった。冷たい汗が出て、耳が遠くなるほど、血の気が引いた。
「おい、嬢ちゃんどうした!?」
「ロロ、ここに座れ」
カイが、近くの椅子にロロを座らせ、冷たい手を自分の手で包み込んだ。
「ロロ、ギルドの奴らにはちゃんと口止めしてある、大丈夫だ。お前にも言ったろ?外で誰にも言うなって」
「‥‥‥はい」
「爺が気まぐれで作ったやつだから、ほらここ、爺の作ったブランドタグじゃないだろ?誰も爺が作ったなんて知らない」
「うん‥‥‥」
暗かった視界がやがて戻って、紅玉のピンバッジが付いたタグを見た。
そうだ。カイは普段通りに過ごしていた。なんの問題もないと、ギルドも。
「あのな、爺よ。ロロの魔法鞄が使えなくなった」
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