表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
林檎のロロさん  作者: Tada
28/151

28個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。

  


 防音室の扉が開いた。

 マルコが椅子から立ち上がると、カイが疲れた顔で出てきた。


「マルコ、紅茶を頼む」 

「直ぐに用意する」


 給湯室に向かう途中マルコは、開いた防音室の扉の中を見た。テーブルに肘をついてぐったりしたユルと、一点を見つめたロロの姿があった。


 ユルは黙ってロロの反応を待った。



『‥‥‥鑑定の結果、ロロさん、あなたは全属性(オールラウンダー)です』



 ロロはずっと魔石を見ていた。もう無色透明な状態に戻っている。不思議だ。十三歳の時はこんなことにも気がつかなかった。

 青色と僅かな黄色の魔力だったはずなのに。


 全属性とは?

 転生の記憶が原因?

 私の魔力?

 ロロの?私の?誰の?


 そうだ。私は誰だった?

 前世の孫の名前は思い出しても、自分の名前が思い出せない。


 ふと、顔を上げると、黒髪の青年と目が合った。

 青碧の瞳は美しく、少し揺らいでいて、額には汗が滲んでいた。


 ああ、違うな。いま必要な言葉は‥‥‥。


「ユルさん、どうもありがとう」


 ユルは目を瞠った後に、少し微笑んだ。



 開いていた扉をコンコンとノックしたカイが「紅茶が入った」と呼びに来て、また戻っていった。ユルは額の汗をハンカチで拭き、眼鏡をかけた。


「‥‥‥ロロさん」

「はい」

「‥‥‥あなたの魔力が、青色を基本としていることは変わりません」

「はい」

「‥‥‥黄色の魔力が増えたので、想像魔法の幅も広がりますね」

「はい」

「‥‥‥赤も、白も、黒も、緑も。微かな魔力しかありませんが、()()()()()()引き出したものです。たくさん魔法の練習をしたのでしょうね」

「‥‥‥はい」

「‥‥‥ロロさん、あなたは、」





「‥‥‥ロロさん、あなたは、あなたが望めば何にでもなれます。全属性で良かったですね」


 ユルの穏やかで優しい言葉を、カイとマルコは代表室で静かに聞いていた。


 ユルのやつ、良いとこ全部持っていきやがった。

 だが、まあ、感謝しないといけないな。


「はい!先生!」


 ん?


「‥‥‥え?先生?」

「「ぶはっ」」


 まったく、あの二人は、最後まで締まらないな。


 仕方なく、カイはもう一度呼びに行った。ロロの顔を見て、ユルにチクリと呆れ顔で言ってやる。


「おいこらユル、お前なにロロを泣かせてんだよ」

「‥‥‥あ、いや、その、申し訳ありません」




* * * * * * * * * * *




「レイラさーん?」

「ここよ」


 応接室にいたレイラのところに、リリィは顔を出した。


「扉に何してるんです?」


 レイラが熱魔法で金属を溶かし、室内側の頭の高さ程の場所に取り付けていた。更に魔石装飾が付いたリースを飾る。


「オシャレに模様替えですかぁ?」

「ふふ、そういう感じに見えるようにしてるのよ。この魔石の装飾は静音効果の魔法道具。ピアスと同じような作りで、トムさんにお願いしたのよ」

「ほおぉ。つまり、扉を閉めれば、中の会話や怒鳴り声が外から殆ど聞こえなくなる?」

「そうよ。何を話しているかわからないほど小さくなるけど、不自然にならない程度に聞こえるの」


 蔓とローズマリーで作られたリースに、深紅のリンゴ型の魔石と、フェイクの魔石の装飾もいくつか散りばめられてある。【紅玉(ルビー)】にピッタリなリースだと、リリィは思った。


「いいですねぇ。せっかくなら他にも飾りたいですねぇ」

「いいわね、考えましょうか」

「トムさん、いつ王都から戻られたんですか?」


 トム・メンデスは、ユルの祖父ケルンの弟子で、現在ギルドの地下工房をメインに仕事をしている魔法道具職人だ。トムの弟子コイル作の魔屑石の冷グラスの登録をするために、付き添いで王都の商業ギルドに行っていた。


「今朝よ。ピアスのアレンジだから、直ぐに出来るって作ってくれたのよ」

「レイラさんのお願いですからねぇ」

「?」


 リリィは、トムがレイラのことが好きだと思っている。トムは四十代前半で、丸眼鏡の細身の男で、真面目な職人のイメージだ。

 レイラの方は全然なんとも思ってなさそうだ、と残念なリリィだった。


「これってあの金色くん対策ですよねぇ」

「まあね。要人や信用あるお客様は代表室に案内するし、一般の方や冒険者は応接室だけど」

「まだ信用できないけど高貴な人かもしれない?ですからねぇ。‥‥‥あ、ロロさん!お帰りですかぁ?」


 二階からロロが一人で下りてきた。


「うん、明日は朝一番に来るよ。メリーさんの工房にお邪魔する約束なの」

「ロロちゃん、雨が降りそうよ。気をつけて帰ってね」

「あ、どおりで関節が痛いんだわ」


 え、ロロさん、おばあちゃんみたい。


「ありがとう!レイラさんリリィさん、また明日ね!」


 手を振って帰るロロを見送りながら、レイラが「ロロちゃんて、時々おばあさんみたいなこと言うわね」と呟いていた。

 

 そういえば、足の小指は大丈夫だろうか。あの白目で座り込んでた状態は怖かったけど斬新だったし、ユルまでお姫様抱っこしようとしたのも、面白かった。二人の尾行も楽しかった。


 明日の厄介な客は、ギルドにとって邪魔になるようなら排除したいなぁ、と物騒なことを思う受付嬢だった。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ