26個目
※ほぼマルコ視点です
マルコが給湯室にいると、ロロがやってきた。片付けを手伝ってくれるらしい。使った食器を洗浄魔法でキレイにすると言った。厨房で手伝いをしていたことが役に立っているそうだ。
ロロは楽しそうに魔法を使う。
子供の頃「キレイになあれー」とクルッと回って言った時は可愛くて吹き出したが、‥‥‥今でもしてないよね?
「キレイになあれー」
「あ、言うんだ」
回らなくて良かった。そして、ピッカピカにしてくれた。本当に新品のようだ。
「ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
以前、ちょっとした騒ぎになったことがあった。
メイナが妊娠した頃のことだ。
ロロはお手伝いが嬉しくて、子供にしては高度な魔法を使った。ギルドの一階部分を一度の魔法で全てキレイにしたのだ。かなりの衝撃だったが、皆は「ありがとう」とお礼を言った。
たまたま換金のために寄った他ギルドの冒険者が、広間が新築のようにキレイなことに驚いていた。誰がしたのか聞いてきたので、ロロとは言わず「うちの秘蔵っ子です」と答えると、冒険者は「これだけ良い仕事ができれば、ここを出てもやっていけるな。ギルドの紹介があれば貴族の屋敷でも働ける。女の子なら良い嫁さんになるな!」と言った。
ロロの顔は真っ青だった。それから泣き出してしまった。「ここにいたい」「追い出さないで」と泣き叫んだ。
あの冒険者に悪気はなかった。だから誰も責めなかったし、もう大丈夫だからと、帰ってもらった。
ただロロが幼かっただけ。
記憶をなくしていても、言葉はわかるし体が覚えていたのか魔法も使えた。理解も早かった。だが精神年齢は四・五歳くらいだった。
知らない場所に来て、やっと居場所ができて、大好きなメイナが妊娠して。不安定な時だった。
それからのロロは、目立つことをしなくなった。
ナナシーが生まれてからは少し落ち着き、お手伝いも変わらずしてくれたから、皆は今までどおり「ありがとう」とだけ言った。将来どうしたいかは、いつの日かロロが決めることだと、皆が思っていた。
冒険者になり、独り立ちをして、前世を思い出した今なら、どうなのだろう。
「ロロちゃん」
「なあに?」
マルコはロロの頭を撫でて、露草色の瞳に笑って言った。
「良いお嫁さんになれるね」
泣くだろうか?
怒るだろうか?
笑ってくれるだろうか。
「セクハラです」
あれ?
「マルコさん」
「あ、はい、ごめんなさい。許してください」
マルコは困って、ロロの頭から手を退けた。シュンとしたマルコにロロは手を伸ばした。
「マルコさん、頭をこちらに」
「はい、お嬢様」
何をされるのかビクビクと頭を差し出した。料理長たちの、先日のアレが頭に浮かんだ。
ロロは、マルコの頭を撫でた。
目を瞠って固まったマルコに、ロロが笑った。
「もう大丈夫だよ。泣いたりしないよ」
グルグルとマルコの頭をたくさん撫で回して、乱れた胡桃色の髪に満足したら、先に戻るねと給湯室を出ていった。
「なんだよ、ははっ」
やられたな。
クシャクシャになってしまった髪を、マルコは直そうとして手を止めた。
「‥‥‥俺が泣きそ」
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