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林檎のロロさん  作者: Tada
24/151

24個目

ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。



『お祖母ちゃん本気?』

『本気、ダメ?』

『私が読んでるの、異世界ファンタジー小説だよ?』

『楽しそう!家の本は何度も読んだし、私とても暇なのよ』

『スマホ買ってどうするのかと思ったら‥‥‥』

『写真だって撮ってるよ?ほら、ね?それで、どうしたらいいの?教えて、』




「‥‥‥名菜ちゃん」




「ロロさん!ロロさん!しっかりしてくださいよぅ!」

「‥‥‥んん」


 温かく、柔らかいものに包まれているような。


「谷間、いただきました」

「良かったぁ!いつものロロさんだぁ」


 リリィの胸の中で、ロロは現実に戻った。

 また受付カウンターの角で、足の小指をぶつけたのを思い出した。


「もう、白目で座り込むから心配しましたよぅ!」

「え、白目?」


 それもうホラーだよ。怖かったねリリィさん。


「それほど痛かったんですねぇ」

「痛いというか何というか‥‥‥なんで、ここ限定なのか」


 あれは、孫との記憶だ。名菜ちゃん、名菜ちゃんだ。

 

 私やっぱり、おばあちゃんになるまで生きたんだな。



「いい人生だった」

「やめてくださいよぅ!」




 * * * * * * * * * * *




 毎晩練習していた今日もお疲れさ魔法(マッサージ)が、昨夜初めて成功した。

 気分も身体も軽く起きたロロは、上機嫌でクローゼットを開けた。

 今日は、ユルの鑑定の日だ。ロロの魔力を再鑑定してもらうのだ。気合を入れたいところだが‥‥‥。


「困ったら白シャツ」


 襟付きシャツにリボンタイをしよう。リボンは細めがいい。

 端切れでいくつか作ってある色の中から、一番自分の瞳の色に近い青色を選んだ。これでプリーツスカートだったら学生服みたいかも。ロロはクスッと笑い、スカートは持ってないのでパンツを選ぶ。なんとなくユルを思い浮かべ、唯一ある黒色のクロップドパンツに手を伸ばす。


「うん、これにしよう」


 決まったら、いつもの流れで顔を洗って蜂蜜配合クリームを塗り、座ってモーニングティーを飲みながら、上に目を向けた。

 天井の物干し用具から紐でぶら下げているナナシーから貰ったブーケは、順調にドライフラワーになりつつある。満足気に頷いて、カップを洗浄し、用意した服に着替えた。

 鏡を見て、私ってなかなか美少女じゃない?と思ったのは、日本人だった自分を思い出してからだ。無頓着だった頃は、周りに美形が多すぎて、ロロの顔は普通だと思っていたし、目立ちたくもなかった。


「ふむ。地味過ぎず派手過ぎない、ヘアピン買おうかな」 


 ちょっと大人っぽくなるのもそろそろ考えなきゃね。

 クセのある髪を指でくるくると遊んで、耳にかけた。あ、ピアスもいいかもしれない。カイさんの許可がいるのか?と、過保護な赤紫色の壮年の男を思い浮かべた。


 黄土色のワンショルダーリュックを持って、火の元よし!と確認して部屋を出た。



「パンを一個だけ食べようかな」


 【カルーダンのパン】が見えると、人が並んでいた。焼きたてのカンパーニュの列だ。スライスしたのも売ってるので、最後尾に並んだ。


「あ、ロロちゃん」


 前に並んでいたのは【ローラン精肉店】の女店主モリー・ローランだった。三十代後半でなかなか美人な褐色の肌の元冒険者だ。


「おはよう。モリーさん」

「おはよう。良かった、最近会えなかったから。ちょっとうちに寄ってくれないかしら?カンパーニュ買うんでしょ?テネッタチーズと生ハムの端っこあげるわ。挟んで食べたら美味しいわよ」

「やった!ありがとう!」

 

 ラッキーなことに、素晴らしい朝食になりそうだ。

 

「いらっしゃい、ロロちゃん!カンパーニュのスライス?」

「おはよう、カルーネさん。一枚くださいな」

「最近少食なのねぇ。あら、なんか今日は大人っぽいわね?うふふ」


 いつも通りに真ん中に切れ目を入れて、具を挟みやすいようにしてくれた。カルーネは魔法鞄のことを知らないので「金欠ッス」と明るく言っておいた。かわいそうに思ったのか、パンの端っこもくれた。ごめんなさい。


 パン屋を出てモリーの店に行くと、開店前だが入口が開いていた。


「ロロちゃん、こっち」


 モリーが中で手招きをしている。失礼します、と入ると、厨房のテーブルに案内された。


「ロロちゃん、これ、この前買ってくれたトロトロ黃鶏肉のハムよ」


 皿に、黄色いハムを一枚置いた。食べてくれる?と言われたので、さっそくいただいた。


「‥‥‥」


 美味しい。美味しいが、この前のとは違う気がする。


「それから、これが先輩‥‥‥ドット料理長が作った鶏ハム」


 もう一枚、黄色いハムを置いたが、もう見た目から違う。黄色が先程より濃く、ハムに艶がある。軟らかいので落ちないように急いで口に入れた。


「これ、こっちがこの前食べたやつだ‥‥‥あ」


 言ってからしまったと思ったが、モリーは苦笑いで「いいのよ」と言った。

 モリーは冒険者時代、ドットの教え子のようなものだったそうだ。

 

「ドット料理長に、私の鶏ハムは『ロロには食べさせられない』と言われたのよ」


 ロロは遠い目をして、あの料理長、容赦ないな、と思った。モリーのために言ったのだろうが‥‥‥。


「あの後、時間を作ってもらって基礎から教えてくれたわ。トロトロ黃鶏は、若鶏よりも成鶏のほうがハムに向いていて、熟して色濃く美しいのよ。情けないことに知らなかった」

「‥‥‥」

「必ず、美味しい鶏ハム作るから、待っててね」


 トロトロ黃鶏はレアな鶏だ。養鶏は難しく、隠れているので姿を見せない。土色で目立たず、普通の鶏の半分以下の大きさだ。モリーが望む成鶏が入手できたら作れるのだろう。


「うん、楽しみにしてるね」 


 カンパーニュのスライスを出して、約束の生ハムとテネッタチーズを中に入れてもらった。


「あの、ロロちゃん、ドット料理長によろしくね」


 この顔は、憧れの人を想う顔だ。やるな、料理長。


 モリーの店で食べさせてもらいお茶もご馳走になり、お礼を言って店を出た。



「おはよう、ロロちゃん」

「おはよう、リッツさん」


 今日の案内人は、栗色の髪の双子の冒険者リッツさんだ。一卵性なので、皆ホクロで見分けている。兄のリッツさんは左目の下にホクロがあり、弟のルッツさんは、お尻にあるらしい。‥‥‥誰情報?


 さて、トロトロ黃鶏肉のハムのことで、料理長たちは私に隠して取り替えていたとわかった。賄で使ってしまったことにして、私に美味しいほうを食べさせたのだ。


 本当にもう。お仕置きしてしまったではないか。


 胸の奥がちょっとじんわりしつつ、受付のリリィに「おはよう!今日もカワイイね!」とおっさんみたいなことを言い、そして。


 カウンター左に行くところで、右足の小指をぶつけたのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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