22個目
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「待たせたか?」
代表室のソファーに座った男の銀灰色の瞳は、機嫌が良いように思えた。
「いや。来てもらって申し訳ない、忙しいのに」
「問題ない。さっきは良い時間を過ごせた。あの子は面白いな」
「ロロもあなたに憧れてる一人だから、喜んだろう。あいつ、変なこと言ってないか?」
カイは苦笑いをして「何か飲むか?」と聞いたが、ゲイトはもう十分飲んだらしく、遠慮した。黒のタクティカルジャケットのポケットからメモを出した。
「これは」
「あのお客さんの滞在先だ」
「尾行したんですか?」
マルコが驚いていた。
「いや、マルコが応接室で話してる間に、街道沿いの宿に何軒か協力してもらった。髪や瞳の色を変える魔法か魔法道具を使うかもしれないが、場違いな感じがする男と少年がいたら教えてくれと」
「助かります。ギルドは無効化できますが、外に出るとなると‥‥‥」
「実際、ユルは近くで声をかけられるまで気が付かなかったようだ。金色の方も、大扉前で無効化されたのに気が付かなかったのだろうな」
「なるほど‥‥‥」
カイはメモを見た。アタッタ食堂。‥‥‥すごい名前だな。この二階の宿か。茶色い髪の男と少年、食事は少年が注文して部屋に運んで食べている、と。
外では騒ぎにならないように髪と瞳の色を変えるが、ギルドには正体が知れても構わないようだ。白い髪の少年がそう思っているのだろう。滞在先も隠すつもりはないような気がする。
「目的がわからないが、依頼された以上こちらは様子を見るしかない」
カイは実際まだ彼らを見ていないので、やはり会って確認したかった。
「俺は明日からいないが、大丈夫か?」
ゲイトがにやりとしてカイを見た。
「大丈夫、って言わないと、ギルマス失格だよ」
「ロロちゃんと仲良くパン食べてただけだしね!」
「お前‥‥‥」
「はは!」
ゲイトは、先程のロロが言ってた別腹を思い出した。カイとパンを食べた後にレモンパイを食べたのだとわかった。
「別腹がたくさんあるらしいな」
「やっぱり変なこと言ったんだな。あいつ、パンの前にマカロンとチョコレートも食べてる」
「え、チョコレートも食べてたの?」
よくまあそれだけ甘いものばかり食べられるなと、マルコは感心した。
ゲイトは、レモンパイを美味しそうに食べる、先程の少女の顔を思い浮かべた。
「ロロに、いつかダンジョンが楽しめる場所になったら行ってみないかと言った」
「「あなたと?」」
「俺と二人で‥‥‥行くのはギルマスの許可が出たら、と言った。だからそんな顔するな、マルコお前まで」
顰めっ面の二人を見て、ゲイトはとても楽しげに笑った。
「過保護も大概にしろよ」
「わかってるよ、先輩」
独身の、中年になっても大人の色気を纏う偉丈夫だから心配なんだよ、とカイは深い溜息をついた。
「ダンジョンは、そうだな、何もなければ十日くらいと考えている。その後、王都に向かう。久々にジルニールに会う。情報交換と、ロロの話をしてやらないとな」
「ウォーカー団長か」
ジルニール・ウォーカー第五騎士団長。ロロを保護した時に、現地で指揮していた。【記憶失くしの森】付近で子供を見かけた、という情報で動いていたようだが、冒険者ギルドに協力を求めるほどのことが起きていたのではと、当時は思ったものだ。情報源は秘匿とされていたのか、騎士団も何も知らされてなかったか、それから話は聞かなくなった。
まあ、何はともあれ、団長はロロを心から心配していた一人には違いない。
「宜しく伝えてくれ」
「ああ」
「‥‥‥」
「なんだ、まだ話があるのか?」
「いや、ああ、いや‥‥‥」
カイは、ロロの前世の話をゲイトにすべきか、まだ決めていなかった。
「迷っているうちはやめておけ。俺もまだ自分のことで話してないことはあるからな」
「‥‥‥あなたも?」
「話す必要があるかもしれないと思っているが、迷っている。王都から戻った状況次第で考える。それでいいか?」
「それでいい。俺も、考えるよ」
ゲイトが「そろそろ行く」と立ち上がったので、カイも続いた。
「気をつけて」
「お気をつけて」
「ああ、お前たちも」
握手をして、カイたちは、頼りになる男の背中を見送った。
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