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林檎のロロさん  作者: Tada
21/151

21個目

※リリィ視点です



 今日のお客は最悪だった。

 ギルドであんな態度をとるなんて、何しに来たのやら、あの金髪。

 それにしても、レイラさんキレてたなぁ。冒険者時代のレイラさんなら‥‥‥。


「あの男、消し炭になってたかも♡」

「え、なにそれこわ」


 【紅玉(ルビー)】の冒険者、ロロさんだ。

 枯茶色の髪のクセのあるショートボブに、露草色の瞳が素敵な、ノーカラーシャツとワークパンツを愛する女の子だ。年代物の黄土色のワンショルダーリュックが渋い。初めて会った時は『カワイイ服着ればいいのに、なんて勿体ない』と思ったが、そんなことは彼女の魅力を知れば、いいスパイスだ。


「ロロさんのこの服の色は何色なんですかぁ?」

「え?リリィさん、消し炭の話は?」

「あ、大丈夫ですぅ」

「えー」


 うふふ。気になって仕方ないって顔してる。本当に表情が豊かで、可愛らしい。


「この色はね、滅色(けしいろ)

「え、なにそれこわ」


 ロロさんは時々、みんなが知らない知識を口にすることがある。


「聞いたことがない色ですよぅ」

「ん?そう?これ私が染めたんだよ。あ、服を作ったのは私じゃないよ。【カルーダンのパン】の夫婦に息子さんがいてね。若い頃に着てた服をもらったの。私と背が同じくらいなんだって!」

「ロロさんがよく行くパン屋さんですねぇ」

「うん!パンも美味しいし、優しい人たちだよ。もらった服を修復魔法で新品同様にして、それから香草とか野菜や果物の皮で染料作って染めるんだ」


 え、もう職人だよ、それ。


 ロロさんがやってる魔法は、派手じゃないけど、とても難易度が高い。もっと稼げるレベルなのに、普通の生活できればいいみたい。

 服の色は正直言って地味だ。かなり地味だ。

 それはたぶん、目立ちたくないのだ。


「さすが、ロロさん」

「えへへ」


 うふふ。‥‥‥おっと、いけない、お仕事しなくては。


「ロロさん、副代表からの伝言があります」

「明日のことかな?」

「はい。お昼前には代表室に行ってくださいね。あ、ランチは用意してくれるみたいですよぉ」

「やったぁ!」


 わ、嬉しそう。食べるの大好きだもんね。




 私が初めてここに来たのは、約七年前だ。


 死んだ両親が世話になった商家で働き、主の指示で冒険者になり、ドロップアイテムや素材を集めるためにダンジョンに潜っていた。

 商家の息子に代替わりすると、ひたすら働かされるようになった。戻ってもすぐに次が待っていた。何年も何年も。死なないと終わらないのか、と思うようになった。笑わなくなった。


 ダンジョンやギルドで、何度かA級冒険者レイラと遭遇した。お茶を飲む間柄になり、やがて自分のことを話すようになると、一緒に仕事をしないかと誘われた。

 もう商家に義理も果たせただろうし、いい加減に命をかけても報われない現実に疲れていたので、あっさり辞め、ただの冒険者になった。レイラとパーティーを組み、自分のために仕事をした。


 B級だった私が、薦められた昇級試験でA級になったが、しばらくして、少し落ち着きたくなった。

 すると、ギルドの職員としてここで働かないかと【紅玉(ルビー)】のギルドマスターに誘われた。

 レイラのもうひとつの仕事は、ギルド職員のスカウトだった。折を見ていつか私に言うつもりだったそうだ。本当に信用できる人間しか誘わないのよ、と言ってくれた。なんだか嬉しくて、誘いを受けた。


 ギルド内をよく探検している小さな女の子がいた。目が合うと笑いかけてくれて、愛想のいい可愛い子供だなと思った。後で、記憶をなくしてここに来たことを知った。そんな境遇でも皆に笑顔を向ける彼女の、ロロの強さに惹かれた。


 私の仕事は受付で、普段はにこやかにギルドの顔になり、危険な人間が来た場合は、案内人の次にギルドを守る門番になることだった。

 私は、わざと口調を変えて、笑顔を作り、のん気で明るい女になった。最初は恥ずかしかったが、そのうち慣れてきて、演じることが楽しくなった。

 少女は、そんな私の演技に気がついていても、ずっと変わらず接してくれた。

 このギルドの日々の中で、彼女は、純粋で眩しくて、癒やしだった。



 ここ最近、周囲が騒がしくなってきて心配は尽きないけど、彼女の面白さにも磨きがかかって、目が離せない。この先、誰と恋をするのかも、気になるところだ。


「リリィさん、ありがとう。また明日ね!」


 ここに来て、良かったな。

 守る場所も出来て、守りたい人たちにも出会えたから。

 

「はい、ロロさん!また明日!」



読んでいただきありがとうございます。

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