2個目
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※冒険者ギルド【紅玉】代表、カイ・ルビィ視点です。
今日も、妻が入れてくれたお茶が美味い。
五歳になったばかりの愛娘の早起きで、ゆっくり出来るはずもなく、朝の涼やかな空気の中で初夏の草花の匂いと紅茶の香りを楽しんでいた。
小さな庭だが、薄紫の花を好む妻の花壇には香草も植えられていて、三人掛けのベンチに腰掛けながら、花と香草を摘んでいる娘に声をかけた。
「ナナシー」
「はぁい」
「それをどうするの?」
「ロロちゃんにあげるの」
なるほど。俺が仕事に行く前に渡したかったのだろう。
冒険者ギルド【紅玉】の代表、カイ・ルビィは、少し伸びた鮮やかな赤紫の前髪をかき上げて、飲みかけのマグカップをベンチに置いた。
「明日、一緒にギルドに行くか?メイナも仕事の日だ。三人で行こうか」
振り向いた娘の薄紫の瞳がパァーッと輝いて大きくなると、こちらへ駆けてきたので、抱き上げて膝に乗せた。
ああ、可愛い。今日休みたい。
妻と同じ胡桃色の髪を愛おしく撫でた。
「かあさまにブーケのリボンをおねがいしないと!」
「じゃあ、リボンを選んで結んでもらったら、メイナの魔法鞄に入れてもらいなさい。明日ナナシーがロロに渡したいだろ?」
「とうさま!それステキ!」
薄紅色に頬を染めて、嬉しそうにカイの胸にスリスリしてきた。
天使?天使か?天使なの?俺の娘は?
ああ、休みたい。いいよね?今日休んでも。
約束ないし、副代表がいればなんとかなるだろ。
「よし、休もう」
「ダメに決まってるだろ」
ビシッと頭頂部に手刀が入った。
元冒険者の妻のチカラが強すぎて、地味に痛い。
「かあさま!かあさまのバッグにいれてください!」
「ああ、いいよ。キレイにブーケに出来たね。それから今朝はベンチで朝食にしよう。スクランブルエッグと野菜とベーコンとチーズを全部サンドイッチにした」
「「うわぁ‥‥‥」」
メイナは料理も豪快だ。もともと料理や家事全般が苦手だったが、子供と一緒に日々成長している。紅茶も結婚したばかりの頃は、かなり苦かったものだ。
「あしたは、ロロちゃんとカヘでランチたべたい」
「ふふ、いいね。そうしよう」
カフェの発音が出来ないナナシーの口の端についたスクランブルエッグを指でとって食べながら、メイナが笑って頷いた。
ロロを保護したのは、当時まだ二十二歳で冒険者だったメイナだ。
この東の国・イーステニアと、北の国・ノストルドムの、国境付近にある【記憶失くしの森】と呼ばれるその場所で、七年前に見つかった少女は、十五歳になり、今年の春まで住んでいたこの家から独り立ちした。
ロロにやった魔法鞄が使えなくなったんだよなぁ。まいったなぁ。
さて、愛妻と愛娘との時間は惜しいが、仕事に行くとするか。
地味で色気のない格好を好む、ちょっと生意気そうなもうひとりの娘の、ロロの顔が浮かんだ。
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