19個目
「ロロ、昼飯は食べたのか?」
「こんにちは。食べたけど、別腹ならいくつかあります」
カフェのカウンターで、エールを飲むイケオジに遭遇した!
「そりゃすごいな。じゃあ、隣の席に来ないか?」
「ヨロコンデ」
厨房のドットが、料理を次々に袋に入れている。T・J・Dマークのついた食品専用魔法袋だ。これに作った料理を入れて、冒険者に渡す。
「ゲイトさん、明日からダンジョンでしたよね?」
「ああ、そんなに深くまでは行かないが」
それにしてはすごい量の食事を持っていくんだな、と思った。
「他の依頼もあるからな。行くのはダンジョンだけではないんだ」
ロロが不思議そうにしていたのがわかったのか、教えてくれた。念のために多めに注文したのだろうが、たぶん一月分はありそうだ。
カウンター越しにジンがひょこっと顔を出した。
「ロロ、新作のレモンパイがある。食べるか?」
「食べる!紅茶はさっき飲みすぎたから、お水でいいよ。あ、自分でやろうか?」
「いや、厨房荒れてるからな、持ってくよ」
「ありがとう!あれ?テンさんは?」
仲良し三人組なのに一人足りない。
「テンは、ユルと俺のあとに案内人になってもらった」
「は?」
ゲイトは、ロロの顔を見て吹き出した。
「ロロは可愛いのに表情豊かで面白いな!」
頭をポンポンされた。ご褒美ですか?
「ユルさんもそうだけど、今日は何かあったんですか?テンさんまで」
「たまたま冒険者がつかまらなかったのと、後はそうだな‥‥‥ユルがちょっと客に絡まれてたな」
ゲイトはエールを飲みながらロロの反応を見ていた。
ユルに絡む?この街の人ならそんなことはしない。ロロが顔を顰めた。
「金髪の美青年だったぞ?」
「ほう、金髪の美青年」
「興味があるのか?」
「あるっちゃありますね」
ゲイトに答えて笑いかけると、ゲイトはカウンターに肘をついて、ロロの顔を真っ直ぐに見ていた。
「‥‥‥なんです?」
「ロロ、いつかダンジョンに行かないか?」
「え?ゲイトさんと?」
驚いていると、俺と二人で行くのはギルマスが許してくれたらだな、と笑った。
レモンパイが出てきて、さっそくいただいた。爽やかな酸味と甘味が絶妙だ。ぜひ夏の限定メニューに入れてほしい。美味しそうに食べるロロを眺めながら、ゲイトは再び話し始めた。
「今な、ベテラン冒険者のあいだで、若い冒険者をダンジョンに呼ぼう!って活動していてな」
へぇー。
「ダンジョンに行くにも金がかかるだろ。下に行けば行くほどな。だからまあ、手頃な金額で入れる十階までだが、その中で店を出したりな」
ほう!
「寝泊まりして、ベテラン冒険者から楽しさや稼ぎ方、基礎を学ぶ場所にしようとしてるんだ」
「お店はグルメもあります?」
「もちろんだ。ドットたちみたいな、料理が好きな冒険者はけっこういるもんだぞ」
「それなら、行ってみたくなりますね!」
「そうか!」
ニカッと笑って、ロロの枯茶色の髪を撫でてきた。
「ギルドがベテランに仕事を依頼して、冒険者を育ててもらい、そうして受け継いでいく。これからそんな風になっていくだろう」
「ゲイトさんも、育てる人になるんですか?」
「俺なんかは怖がられる」
「そんなことないです、眼福です。違った、大丈夫です」
「ん? ところで、ドットたちみたいに話してくれないのは寂しいな。なんで敬語なんだ?」
なんでみんな気にするんだろう?
「私って、格好良いと思った人には敬語になるみたいです」
本人を前に言うロロに、ゲイトは目を丸くした。それから、ニカッと笑い「ふーん、そうかぁ」と銀灰色の瞳が厨房を見た。
料理長たちが切ない顔をしていたので、可笑しくてゲイトは吹き出した。
しばらく話したあと、魔法鞄に料理を入れ終えたゲイトが、代金を支払い、これからギルマスのところに行くと言った。しばらく会えなくなるゲイトに「いってらっしゃい」と言うと、また頭を撫でられた。大人って撫でるの好きだな。
お腹は甘いものでいっぱいだ。
これからどうしようかなと、後片付けで忙しそうなドットとジンを見たロロは、閃いた。
「そうだ!テンさんの代わりに私が案内人になれば」
「「それはダメ!」」
「えー」
却下された。
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