18個目
※金色の青年視点から始まります
ようこそ、冒険者ギルド【紅玉】へ!
私は本日受付担当のリリィと申しまーす!
頭の軽そうな女が言った。
普段から男にチヤホヤされているのだろうと思うほど、表情も話し方も媚びて甘えるような感じがした。まあ王都にも、こんな女はたくさんいたな、と気にするのをやめた。
本当に元A級冒険者なのか疑問だが、あの、暗い色の偉そうな中年の男が確かにそう言っていた。
恐ろしいほどの威圧を、あんな風に向けられたことなんてなかった。
案内人をしていた、神経質で弱そうな黒髪の男。アレはどこへ行ったのか、いつの間にか消えていたが、アレを怯えさせたから、怒ったのか? 問うてもさっさと返事をしない使えない人間は、すぐに辞めさせるのが普通なのではないのか?
「本日お約束は、ないようですねぇ?」
「ない。鑑定士に会いたい」
「ギルドの鑑定士に、鑑定のご依頼で宜しいですかぁ?」
「じゃあそれでいい」
「じゃあ?それで?」
受付の女の雰囲気が急に変わった。なんだ?
「鑑定士にただ会いたいだけで、嘘の鑑定依頼で誤魔化すとかはナシですよぅ?」
「‥‥‥」
「お帰りはあちらでぇす」
ピシィッとギルドの大扉を指した。
「い、依頼だ!ちゃんと鑑定の依頼だ」
「お名前をお願いします」
「‥‥‥ディーノ」
「では、ディーノ様。あちらでまずお話を伺います。レイラさーん!あれ?」
キョロキョロと探し出した。左奥の扉から別の女と、優男が出てきた。
「こっちよ、リリィ。お待たせ致しました。こちらへどうぞ」
落ち着いた色気のある紅い髪の女だ。こちらへ来て、右奥の応接室に案内された。狭い部屋に顔を顰めたが、座って待つと、女は無表情で紅茶を出してきた。二十代後半くらいか?もう少し笑えば可愛げがあるのにな。
女が出たあと優男が部屋に入ってきて、扉を閉めた。
「ディーノ様、私は副代表のマルコ・プラムと申します。本日は、鑑定のご依頼と伺いましたが」
こいつが副代表?思ったより若いんだな。身形は良さそうに見えるが、平民か?
「鑑定するのは、どういったものです?」
「鑑定士に見せるだけじゃないのか?」
「確認させていただいてから」
「お前が?」
「私が。何か問題でも?」
垂れ目で柔らかい印象だが、眼の奥が笑っていないのに気がついた。気持ちが悪いな。
「失礼ですが、何を警戒されて?信用がなければ成り立ちません。冒険者ギルド【紅玉】の副代表じゃ、不服ですか?」
「そんなこと言ってないだろう!」
「そうですか、良かった!」
にっこりと笑った。
このギルドは、思い通りにならない。
一人で来てしまったことに、ディーノは後悔していた。
* * * * * * * * * * *
「カイさん、白パン食べるからジャムちょうだいな」
「なんだ、まだ食べるのか」
「別腹は一つではないのかもしれない。この白パンを、ホワッと焼いてくださいな」
「よし、ホワッとだな」
ロロがリュックから出した白パン二つを、カイの手に乗せた。子供の頃から何度も頼まれていたので上手くなったが、微弱火力魔法は難しい。ロロが微弱霧水魔法をパンにかけたら、カイがすぐに魔法をかける。焦がさずホワッと。
「美味しそう!一個ずつ食べよう、カイさん」
「ははっ、俺にもくれるのか」
カイがデスクの引き出しからジャムを持ってきた。イチゴのジャムだ。
「カイさん、チョコレートはともかく、なんで引き出しからジャムが出るの?」
「ああ、爺に引き出しを魔法収納にしてもらった」
「趣がない!」
メリーさん扱き使われてるな‥‥‥と思いながら、イチゴの果肉たっぷりのジャムをつけて白パンを美味しくいただいた。
* * * * * * * * * * *
不機嫌そうな金色の青年が、白いハンカチをテーブルに置いた。ハンカチにはカフスボタンが包まれていた。
「これを鑑定しろ。わかること全て」
「金の細工と真珠ですね」
「それくらい誰でもわかる」
「持ち主が貴方ではない?」
「わからないから依頼するのだろう!」
またイライラしている。子供みたいだな、とマルコは思った。
「失礼ですが、盗品であればギルドマスターが騎士団に連絡します。鑑定でわかること全て、とはそういうことです」
「それは!ダメだっ!」
ダメって‥‥‥。マルコは小さく溜息を吐いた。
扉がノックされた。ディーノが慌ててカフスボタンをハンカチに包んだ。
「お話し中に失礼します」
「ディーノ様、ちょっと席を外します」
マルコが立ち上がり、扉の外へ出ると、少し緊張しているレイラが、マルコから受付のほうへ視線を移す。
「ディーノ様の、お連れの方がいらっしゃいまして」
「は?」
受付に、白い髪の少年がいた。
切り揃えた前髪が顔半分までと長い。背は随分と低いが、年齢不詳だなと思った。そして何よりあの髪色は‥‥‥。
彼がこちらを向いた。白い髪がサラリと揺れる。
応接室の扉が開いて、ディーノが出てきた。
「シロ!」
「ディーノさま」
シロと呼ばれた白い少年の口が、弧を描くように、笑った。
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