17個目
「レイラです」
「入れ」
ノックの後にレイラが代表室の扉を開けた。
「失礼します」
レイラはロロの存在を確認したあと、マルコに「よろしいですか?」と聞いた。
「どうしたの?」
マルコがレイラに歩み寄った。二人で何やら小声で話をしている。マルコが頭を掻いた。
「ちょっと行ってくる。必要があればカイさん、アンタに対応してもらうよ」
「そうか」
「ロロちゃんは、ゆーっくりしてて、いいからね!」
レイラとマルコが出ていった代表室で、カイとロロはお互い黙ってお茶を飲んだ。マルコが入れてくれた今度の紅茶はナッツの香りだ。
あ、チョコレートに合いそう。
察したカイが自分のデスクの引き出しのチョコレートを出してきた。
「ありがとう」
「ああ」
マカロン全種類食べたのに、やっぱり別腹ありましたわ。このチョコレート、ほろ苦いけど美味しいなぁ。
ロロは大人の味を堪能した。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「私、足止めされてる?」
「ぶっ、ケホッ、ケホ‥‥‥、お、お前」
「もう紅茶飲んじゃったから暇だな」
「‥‥‥まあ、ゆっくりしていけよ」
「えー」
よくわからないが、行くなということらしい。まあ、逆らうつもりもないので、仕方なくカイの話し相手になることにした。
* * * * * * * * * * *
「悪かったな、ユル、交代だ」
突然後ろから肩に手が乗った。
殴られるかもしれないと固くなっていたユルの体が、ビクッと跳ねた。
「用があるなら、案内人が中に連れて行くから、受付で手続きしてくれ。それが、このギルドのルールだ」
いつの間にか開いていた大扉から、銀灰色の髪の冒険者が現れ、ユルの後ろに立っていた。ユルよりも少し上から聞こえる落ち着いた低い声と、背中に感じる温かさが、ユルに力をくれた。
「‥‥‥ゲイトさん、あの、ありがとうございます」
「遅れて悪かったな、休憩するといい」
いや、今日ゲイトは案内人の仕事を受けていない。
明日からダンジョンに入るから、魔法鞄に入れるための大量の食事を受け取りに、厨房前のカウンター席にいたのだ。
騒ぎに気付いて、来てくれた。
「俺が案内する」
「‥‥‥ふん、さっさとしろ」
ユルは、どこまでも高慢な男に苛立ったが、ポンポンと背中を叩かれたので、自分の立場を思い出した。
自分は【紅玉】の鑑定士だ。
あとはギルドの判断に任せるべきだ。
「‥‥‥宜しくお願いします。私は、自分の仕事に戻ります」
「承知した」
金色の瞳など、ユルの中ではもう欠片も残っていなかった。
「ギルドは初めてか?」
「‥‥‥何が言いたい」
金色の長い髪の男は、前を歩く男の威圧をピリピリと感じていた。
「ギルドにはギルドのルールがある。それを知らないのは、初めて来た人間か、馬鹿しかいない」
金色の瞳が、銀灰色の後髪を睨んだ。
「もしも冒険者を名乗るなら、身分など関係ないものと思え。誰だろうと関係ない。貴族だろうが、王族だろうがな」
「‥‥‥っ!!」
「まあ、客ならば話は別だ。リリィ」
「はい、ゲイトさん」
「お客さんだ、話を聞いてくれ。ああ、それから、これは忠告だが‥‥‥」
冒険者ゲイトはカウンターに手を付き、本日の客に最後の案内をした。
「ギルドに依頼があるなら、ギルドを敵に回さないことだ。因みに、ここの正規職員はそこのリリィも含めて、元A級以上の冒険者だ」
読んでいただきありがとうございます。




