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林檎のロロさん  作者: Tada
16/151

16個目



 マカロンに合う、くせのない紅茶を飲みながら、今日も幸せをありがとう、と感謝する。

 良い顔で食べる飲むを繰り返すロロに、代表室の二人の視線がなにやら温かい。飼育?観察?されているようなこの感じは。


「セクハラです」

「またそれか!どういう意味だ?」


 セクシャルハラスメントと言って‥‥‥と説明すると、カイたちが渋い顔をする。


「今のどこがセクハラなんだよ!」

「なんとなく」

「こわ、ロロちゃんの匙加減なのが。え?じゃあ頭を撫でるのもダメ?」

「許可します」

「良かったー」

「エラそうだな」


 お腹いっぱいで、もうランチはいらないかな?と思ったが、別腹が出現するかもしれない。


「ところで、マルコさん。呼んだのはこのこと?」


 マルコの服装をもう一度しっかり見た。いいね。


「違う違う。これはちょっとした実験? ふふっ。メイナのことだよ」

「メイナさん」

「いろいろ話をしたいだろうから、今度ここに呼ぼうと思うんだけど」


 くいっと親指で防音室を指した。


「俺がナナシーと遊んでるから、マルコと三人で話すといい」

「三人で?」

「お前の話と、お前を見つけた二人の話。いつか話す時を考えていたんだが、どうだ?」

「私が【記憶失くしの森】で見つかった時の?話してくれるの?」

「ロロちゃんが望むなら」

 

 前世を思い出し、大人として生きたロロならば、理解できると思ったのだろう。まだロロの身内らしき人は現れない。自分が誰なのか今更どうでもいいし、むしろ知りたくないと思っているが、メイナたちとの出会いは知りたい。あの頃は何もわからないままギルドに来たから。


「お願いします」

「わかった、今日メイナに伝えておく。俺たちと合わせるから、決めるのはまた今度な」

「うん」

「ロロちゃん、紅茶とお菓子のおかわりは?」

「じゃあ、紅茶だけ」


 マルコがティーカップと空いた皿を片付けて、給湯室に運んでいった。少し嬉しそうなのは、妹のメイナにしていた秘密がなくなることで、心が軽くなったからだろう。


「あ、そうだ、カイさん」

「ん?」

「マルコさん、これからはずっとあの格好でいてくれるの?」

「そうするか?」


 カシャン!と給湯室から音が聞こえた。


「まあ、それは冗談として」

「冗談なのか」

「今日ユルさんが案内人になったのは、どうしたのかなぁと」

「ああ」

 

 カイもマルコから聞いて驚いた。鑑定人としての最低限の人の関わりはしてきたが、自ら人前に出ることは今までなかった。


「あいつなりにいろいろ抱えてるのさ」

「でも目立ってたよ」

「だろうな」




 * * * * * * * * * * *




 立ち仕事がこんなに大変だとは。

 

 動いているほうがマシだと思った。通行人の視線を浴び、道を聞くだけの女性やお年寄り、近隣の店の人から「頑張りな」と飴を貰ったりなど。

 初めてのことばかりで、早くも疲れていた。


 まだ昼前だというのに。


 いつも引き受けてくれる冒険者たちに、もっと感謝しなくては。精神も肉体も鍛え方が違うのだなと思った。


 何かを変えたかった。自分には出来ない、ではなく、出来ることがあるかもしれないと。あの少女の前向きさが、自分を奮い立たせた。


 だが、とりあえず、案内人の仕事は向いていないことがわかった。



「おい、そこのお前」


 左側を向いていたので、声がした右側へ振り向いた。自分の背より少し下に、金色の瞳があった。こんな場所で見るような色ではないはずと、思考が停止した。


「聞いているのか?」

「‥‥‥は」

「さっさと返事をしろ。ここは冒険者ギルド【紅玉(ルビー)】だな?」


 高慢な話し方の男だった。髪も見事な金髪で、身形の良い青年。年齢は自分より少し下に見えた。


「‥‥‥そうで」

「鑑定士がいるだろう?話がある」


 ユルは顔を顰めた。自分に用があるらしいが、ギルドに話も通さずにするつもりか。まずは受付に案内しなければと思った。


「‥‥‥ま」

「なんだその顔は!案内人だろう?お前は!」


 話を、しようとしているのに。


「おい!」


 襟を掴まれそうになり、ユルは思わず男の手を払ってしまった。


「‥‥‥あ」

「お前‥‥‥っ!」


 金色が怒りに染まった。

 あの時の貴族の、人を人と思わない、言葉が伝わらないあの理不尽さを、思い出してしまった。


 家族も、祖父の周りの人も、このギルドの人たちや冒険者も、ユルが考えて受け答えをすると知っているので、人より遅れる返事を待ってくれる。


 声を聞いてくれる。


 ユルは、たくさんの人に守られている現実を改めて知り、その幸せと、目の前の恐怖を、感じていた。

 


読んでいただきありがとうございます。

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