12個目
ブクマ・評価・いいね、ありがとうございます。
なんということでしょう。
モッサモサの中に、天使がいます。
「エビフライ!」
なんということでしょう。
モミアゲのことを、エビフライと言う天使がいます。
「あのモッサモサを、エビフライの衣に見立てるとは‥‥‥!」
なんという芸術的な感性!
「くっ‥‥‥!モミアゲを黄金色にすべきだった!」
「やめてやれよ」
カイのデコピンが、悔しがるロロの額にヒットした。
メイナとナナシーが二階から下りてきて、カフェ入口で出迎えたのが、ギルドの料理人たち。
彼らのモミアゲを見たナナシーは、エビフライ!と可愛い笑顔で喜んだ。メイナはちょっと引いていた。
料理長たちは、満更でもないらしく、笑顔で彼女たちを席に案内する。
「ロロちゃん!」
「ナナちゃん!」
瞳と同じ薄紫と白いレースのワンピースが、ふわり、目の前で踊るように花開いた。
「「天使降臨」」
「アンタら」
カイとロロの呟きにマルコが呆れた。
血の繋がりはなくても、育て方次第で似てしまうことの恐ろしさを感じた。
「ロロちゃん、あいたかったの!かあさまブーケをください」
「はいよ」
「ロロちゃん、プレゼントがあります!」
メイナがショルダーバッグからブーケを出した。魔法鞄だ。ブーケは、白と水色の重ね紙に包まれ、薄紫のリボンで結ばれていた。ルビィ家の花壇の花と香草だとすぐに分かった。
「ナナちゃんが作ってくれたの?キレイだね」
「はい!」
「ありがとう!嬉しい!お家に飾るね!」
皆が笑い合う二人の少女を温かく見守っていた。
「よし、ランチにしよう!」
カイの言葉で皆が席に座り、料理長たちは厨房へ戻った。
* * * * * * * * * * *
「‥‥‥随分と、賑やかですね」
午後からの出勤になっていたユルは、カフェからの楽しげな声をレイラに聞いた。
「ふふ、ギルマスの家族が揃ってランチをしてるのよ」
「‥‥‥ああ、そうでしたか」
昨夜のロロとの会話に出ていたことだ。代表の娘と久しぶりに食事をする、と。
自分と違い、コロコロと表情を変えて話をする少女だなと思った。ロロとは初めて仕事以外で会話をした。
前世の記憶を持ち、ロロとして生まれてから保護されるまでの記憶がない。大変なことだ。
自分だったら耐えられるだろうか?どうしてあんな風に、笑えるのだろうか。
逃げてきた自分には、わからなかった。
* * * * * * * * * * *
ランチのスイーツはアップルパイだった。
ジンが作ったアップルパイは、初めてギルドに来たときに食べた、思い出の味だ。
「じゃあ、今日のお茶はミルクティーにしようかな」
「ロロちゃんは、リンゴが好きだね」
マルコもミルクティーを頼んだようだった。代表室に行くと、ロロ好みのお菓子や紅茶を出してくれる。いつも不思議だった。
「リンゴは昔から好き」
昔から。たぶん前世のことだろうと、カイもマルコも思った。メイナにはまだ伝えていないし、ここではこれ以上の話は出来なかった。
ナナシーが静かになった。
「ああ、ナナシーが眠そうだ。そろそろ失礼しようかな」
「メイナさん、今日はありがとう」
「楽しかったよ。薔薇ジャムありがとうね。ロロ、ひとり暮らしで困ったらいつでもおいで」
「うん」
「兄さんも」
「ああ」
メイナが立ち上がり、ナナシーをおんぶした。元冒険者だとしても、力持ちだ。
「カイ、また後でな」
「気をつけてな」
メイナは料理長たちにお礼を言って、受付のレイラと少し会話をしてから帰っていった。
「さて、俺たちも仕事に戻るか」
「はあ、楽しい時間は終わるのが早いな。俺にも薔薇ジャムありがとうね。ロロちゃんは、この後どうする?」
「メリーさんいないし、帰ろうか迷ってる」
「爺いないのか?」
「うん、留守だった」
「そうか。まあ、今日は明るいうちに帰れよ」
「はぁい。ごちそうさまでした」
「またね、ロロちゃん」
カイが厨房の料理長と話をしてる途中で、モミアゲがもとに戻り、吹き出したマルコが腹を抱えて階段を上っていった。カイも下を向いて震えながら戻っていった。
ぽつんとひとり残ったロロに、ジンが話しかけた。
「ロロ、ミルクティーのおかわりは?」
「あ、いただきます」
「新作のチェリーパイ作ったから、帰ったら食べてみて感想をくれよ。包んでおくから」
「本当?楽しみ!ありがとう!」
三人の料理人が嬉しそうにしている。
美味しかった。楽しかったな。
あ、ブーケ!防腐魔法をかけて、徐々に素敵なドライフラワーになるようにしようかな!
帰ってからの楽しみがまたひとつ増えた。
読んでいただきありがとうございます。




