10個目
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外はすっかり暗くなっていた。
いつものガルネル中央区の街の灯りが、今日は特別な景色に感じる。
二階の代表室の窓から街を見ていたカイが、少し前の話を考えていた。
「紅茶、入れてくるよ」
マルコが、ひと通り終えた書類整理で凝った肩をぐるぐる回しながら、給湯室に向かった。
「はあぁ」
疲れた。本当は酒のほうがいいな、と思った。
「ブランデー入りにしといたよ」
「ああ」
よくわかったな、と苦笑いをした。
ほのかに香るブランデー入りの紅茶を受け取って、腰窓にもたれてひと息ついた。
マルコはソファーに座った。
「ロロちゃんの話、信じる?」
「信じるさ。信じて話してくれたんだから」
ロロの告白で、メリーとユルにも再び話し合う必要が出てきた。更に後日、ロロ自身に魔力鑑定をしなくてはならない。
メリーには扉止めと、ついでに蝶番も修理してもらった。次から金を取ると言っていた。
今日のところはそれで解散した。
暗くなったから、ロロはユルに近くまで送ってもらった。近くまでな、と念を押した。
「ロロちゃん、元気だったね」
「ああ、人の気も知らないでな。見たか?アレ」
扉が開けられた防音室の、テーブルを親指で差した。まだ片付けられてないティーカップと空っぽの皿がある。
「あースッキリした!チョコレートうまっ!だってよ。殆どあいつが食べたぞ」
「ははっ」
「爺は大笑いだし、ユルなんかポカンとして、あぁアレは面白かったな」
真面目な鑑定士の、いろんな顔が見られた。
カイがマルコの向かいのソファーに座った。マルコが上半身を前に傾け、小声で話す。
「にほん?だっけ?前世ねぇ。死んだ時の記憶はあるのかな?」
「いや、思い出したのは全部じゃないようだが、たぶん大往生だったと言ってたな」
「ぷっ、ロロちゃんらしい」
「何が不安だったか聞いたらな、前世持ちは王家に連れてかれるのがお約束だからって。意味わかるか?」
「極端だね。でも、まあ‥‥‥そうだね」
マルコは考えながら、紅茶を一口飲み、ソーサに戻した。
「たとえば、戦争中だとする」
「‥‥‥」
「この国にない有力な軍用兵器の開発や生産の知識を、ロロちゃんが持っていたとしたら」
「利用されるな」
「それだけじゃなく、他国に情報が渡れば、拉致されるか消されるね」
「そんな知識はなさそうだがな」
「それよりさ、ロロちゃんがあの森にいた理由に関係はないかな?」
「‥‥‥あるかもしれないな」
前世持ちの記憶をなくすため、なのだとしたなら。
「あー、とんでもないの拾ったな」
「手放す気なんか」
「ねぇよ」
とりあえず、明日はナナシーが楽しみにしてるロロとのランチだ。
ロロも、ご褒美キタ!って喜んでたな。
「マルコ、明日はメイナとナナシーも連れて来るから、一緒にランチどうだ?」
「癒やされたいから絶対参加」
* * * * * * * * * * *
「‥‥‥あの、ロロさんに聞きたいことが」
「はい、何でしょう」
ガルネルの街から少し離れた集合住宅まで、ユルに送ってもらうことになった。中央区のギルド周辺は商店や飲食店が集中しているが、午後八時を過ぎると酒を提供する飲食店が殆どになる。治安は良いといっても、まだ十五歳の少女を歩かせるわけにはいかなかった。
ロロの右手には、隣町名産のテネッタ牛の串焼きがある。店頭で香ばしく焼いている前を通り過ぎることなど出来なかった。魔法鞄がないので、こうなった。
因みに、隣の方が買ってくれました。
聞きたいこと、転生のことかな。
「‥‥‥」
ん?鑑定のことかな?
「‥‥‥」
「あ、串焼き?」
「‥‥‥料理長たちのモミアゲですけど」
そっちかー。
一日が長すぎて、すっかり忘れていた。
「あれは、二十四時間でもとに戻ります」
「‥‥‥やはりロロさんだったんですね」
「言わなきゃバレなかった!」
「‥‥‥ふっ」
笑った。
ロロは初めてユルの笑みを見た。モミアゲが役に立った瞬間だった。
「あれはお仕置きです」
「‥‥‥なるほど」
自宅近くに着くまで、ロロは串焼き片手に変身魔法の素晴らしさを熱く語ったのだった。
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『古書店の猫は本を読むらしい。』も、スローペースで連載中です。こちらもどうぞよろしくお願い致します。
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