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林檎のロロさん  作者: Tada
1/151

1個目


 初投稿で初連載小説です。

 どうぞよろしくお願い致します。



「今日のランチなら終わっちゃいましたよぉ?」


 冒険者ギルド【紅玉(ルビー)】のカフェスペースで、受付兼ウェイトレスのリリィがテーブルを拭きながら笑って言った。


 露草色の瞳と枯茶色のクセのあるショートボブに、砂色の上下の長袖ワークパンツ姿の少女が、走ってきた息を整えられないまま、溜息を吐く。


「あ、もしかしたら賄いの残りがあるかも。厨房できいてきましょうかぁ?」

「ぜひ!」


 ‥‥‥お腹空いたぁ。


 周りを見るとカフェには誰もいなかった。


 リリィは、カウンター席に座った少女に、蜂蜜レモン水を出してやった。女性と甘党の冒険者に好評だ。


「ありがと、リリィさん」 

「ふふっ、どういたしまして! あ、ロロさん、ハムサンドが少しだけあるみたいですよぅ?フライドポテトも付けるって」

「神か!」


 冷たい蜂蜜レモン水をチビチビ飲み、テーブルを拭く作業を再開したリリィの背中を見ながら、ロロは遅めの賄いランチを待つ。


 フライドポテトを揚げる、いい匂いがしてきた。

 チラリと厨房の中に視線を移すと、三人の料理人たちが不自然に目を逸らした。


 ん?




 付け合わせのフライドポテトが山盛りで出てきたよ。


 乙女色のポニーテールと大きな胸を揺らしながら、リリィが大皿で持ってきたのだ。

 

「‥‥‥」


 とりあえず空腹だったので、熱々フライドポテトをハフハフと食べ始めた。いい塩加減ですな。多いけどな。


 ところで、ハムサンドはどこだろう?

 皿を回してみると、フライドポテトの後ろに二切れのハムサンドが隠れていた。どうもメインが逆になってしまったようだ。

 手に取ると、焼き目のついたパンの間に、プルリとやわらかい黄色がかったハムがあった。

 まさか?

 ひとくち食べると、柑橘ような爽やかさが口いっぱいに広がり、蕩けていく‥‥‥。


「これ、トロトロ黃鶏肉のハム‥‥‥」


 元冒険者の料理人(おっさん)たちの焦り具合から、わかったことは───


「このハムサンドのハムは、先日私がこちらに預けた、()()()()()()()()()()()()に、間違いないでしょうか?」


 にっこり。


「大変美味しいです。これを作った料理人(シェフ)たちに御礼を言いたいのですが」


 こっち来いや。




 お腹が落ち着いてきたところで、食べながらこのあとの予定を考え始めた。


 料理人(おっさん)たちには、モミアゲを増毛してモッサモサにする変身魔法(ヘアメイク)を施したことで、ちょっとスッキリした。

 明日までそのまま過ごすといい。


 工房に寄ってみよう。

 メリーさん帰ってきてたら魔法鞄(マジックバッグ)の相談したいなぁ。


 ロロは、椅子に引っ掛けた自分のワンショルダーリュックを見た。

 先日まで、魔法鞄(マジックバッグ)()()()物だ。

 今は、ただの使い込まれた黄土色のリュックになってしまった。

 ニ年前、冒険者登録した十三歳のロロに、ギルドマスターのカイがくれたお古だ。


 修理できるならこのまま使いたいけど、ダメなら新しいの買わないと‥‥‥。

 

 魔法鞄の中は、異空間収納になっている。

 収納の大きさは魔法鞄のランクで違い、お手頃バッグは小さく、高級バッグは大容量。

 時間が進まない異空間だから、食べ物を入れておいても腐らないし、出来たての料理だってそのまま保存ができるのだ。

 

 食べたい時に食べられるって、幸せだったな。


 もう一つ、ハムサンドを食べる。

 このトロトロ黃鶏肉のハムだって、リュックに入ってたもので、少しずつ食べるつもりだった。

 三日前、突然リュックが重くなってパンパンに膨らんだので、混乱しながらも急いで入っている中身を全部出し、必要なものだけ厨房の食品収納庫(マジックボックス)に入れてもらった。

 たまたまギルドにいた時で助かったが、鶏ハム容器に自分の名前を書いておかなかったことは、とても後悔している。

 採取した薬草は受付で買い取ってもらい、お菓子やパンはその日のうちに食べた。

 

 私の魔法鞄は初心者用で異空間収納が最小だったけど、高ランク高収入の冒険者や商人が持ってるような大容量だったら、もう大事故だよ。

 

 魔法鞄は、ギルド認定の店や職人から購入したら、持ち主登録が必要になる。

 他人に悪用されないためと、持ち主側の犯罪抑止のためだ。

 世界各地に冒険者ギルド・商業ギルドがあるのだが、殆どの者が活動拠点にしているギルドを選び、登録依頼をする。

 受付でギルドカードの本人確認が終わると、応接室に案内されて、魔石加工したギルド(カラー)のピンバッジを渡される。

 魔法鞄にはそれぞれ、目立たないところにピンバッジ用のタグがあり、持ち主が魔力を流しながらピンを刺して留め具を嵌めると固定される。

 ギルドお抱えの鑑定士が確認したら、魔法鞄の登録証明データがギルドカードに追加され、完了だ。

 これで、自分だけの魔法鞄(マジックバッグ)になる。

 因みに、持ち主が死んでしまった場合、魔法鞄はギルドに届けられるようになっている。

 消息不明として見つからない場合もあるが、時が経ち、他の冒険者によって亡骸とともに発見されることもある。

 届いた魔法鞄は、あらかじめ登録手続きで受取人にしてある家族や友人立ち会いのもとに、ギルドマスターがピンバッジをはずし、遺品として渡すことができる。中の物の確認まで関わる必要はないが、依頼があれば鑑定士が有料で引き受ける。

 受取人がいない場合はギルドの所有となり、換金して修繕積立金にしたり、多額の場合は、孤児院・教会・医療機関へ、故人の名前で寄付する。

 

 ロロに家族はいないが、もしもの時の受取人を、保護責任者のカイ・その妻メイナ・娘のナナシーにしてある。

 食べ物ばかりで笑われそうだが。

 


 残したフライドポテトは後で食べるからと包んでもらい、前掛けにしたワンショルダーリュックに入れて席を立つ。

 リリィと料理人たち(モッサモサ)に手を振り、左奥の階段で地下の魔法道具(マジックアイテム)工房へと向かう。

 

 左手でリュックのタグの【紅玉(ルビー)】のピンバッジに触れる。

 紅い林檎のかたちをしていて、かわいい。


 紅玉(こうぎょく)って林檎が()()()な‥‥‥。



 遠い記憶に思いを馳せる。



 ロロは、異世界転生者だ。




 読んでいただきありがとうございます。



 ※『古書店の猫は本を読むらしい。』も連載中です。こちらもどうぞ宜しくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n5529hp/

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