ラブ・ハングリー・マン
「おい、愛田谷。また部外者の女性にちょっかいかけてんのか? いい加減にしろよ?」
先輩がおれ達の横を通って行く時にそういって声を掛けて来た。
気づいてないようだ、おれが向かい合って座っている女性が殺人容疑で拘留されている眞尋ちゃんだということに。まぁ、先輩は情弱だからな。
喫茶室の小さなテーブルを挟んで、眞尋ちゃんは紙コップのミルクティーを美味しそうに飲んでいる。おれが貸したおれの上着を羽織っているので、彼女が着ている堅苦しい囚人服みたいなのも隠れていた。
しかし、いいな。女の子が自分の匂いの染みついてるスーツの上着を羽織ってくれてるってのは。
「よく部外者の女の子をここに連れ込んでるんですか?」
軽蔑するような冗談を込めて、聞いて来た。
「まさか。未成年の家出っぽい子を補導して家に送り返してるだけだよ。おれって愛のハングリー・マンだから、愛に飢えてる子を見るとほっとけないんだ」
本当だ。それがおれの趣味だと言ってもよかった。
「それにまひ……東尋さんは部外者じゃない。これは取り調べという仕事です」
眞尋ちゃんが少し嫌そうな表情を浮かべた。
おれの言葉に何か不快なものがあったようだ。何だ?
彼女が紙コップのミルクティーに唇をつけた。おれはそれをまじまじと見つめながら、優しく微笑み、聞いた。
「美味しい?」
「はい。ありがとうございます」
本当に美味しそうだ。冷たい拘留所の中でひもじい思いをしていただろうからな。
おれのスーツに包まれた桃色の身体がそそる。
おれはそれを充分目と鼻で堪能すると、ようやく自発的事情聴取を開始した。