ユニコーンだから
「恋人だったんだよね?」
おれは被害者丸山玉男の顔写真を頭に浮かべながら、眞尋ちゃんに聞いた。
「はい」
眞尋ちゃんはおれから目をそらしたまま、うなずいた。
ぐちゅり
嘘の匂いが動いた。やはり彼女は何かを隠している。どうやらそれがおれへの恋心でないらしいことが残念だ。
「彼のこと、憎んだりとか……してたの?」
「いいえ」
彼女が静かにかぶりを振った。嘘の匂いがしなかった。
「愛してたの?」
「そうですね」
「じゃ、どうして?」
「何べんもお話した通りです。ムカつくことを彼が言ったから、つい、突き落としてしまっただけです」
また嘘の匂いがした。
「じゃあ、事故だったんじゃないの? 軽くどついたつもりが、彼がバランスを崩して、落ちちゃったんじゃ?」
「いいえ。私は彼を殺害するつもりがあって突き落としました」
嘘の匂いが強くなった。
「ねえ、ここは寒いよな?」
別に寒くはなかったが、俺は寒がりのふりをした。
「上の喫茶室行って、話さねぇ?」
「私、犯罪者ですよ?」
眞尋ちゃんは驚いたような顔になり、すぐにくすっと笑った。かわいい。
「いくら刑事さんでも、そんなこと出来ないでしょ?」
おれは正直に自分のことを話すことにした。
「おれさ、人間に見えるだろうけど、実は人間とユニコーンのハーフなんだ。だから人間社会の常識にあんまり忠実じゃない。だから、いいんだ」
おれは上から持って来ていた錠前をポケットから取り出すと、牢の鍵を開けた。
「ユニコーン……なんですか?」
眞尋ちゃんは目を丸くした。口だけ笑っている。
「面白い人ですね。でも、本当にいいんですか? 出ちゃって……」
「いいんだ。すべてはおれが責任をもつ」
おれは彼女の手を握りしめた。
おれは信じてる、彼女は無罪だ。
彼女の無罪を証明できればなんてことはない。むしろ冤罪者への刑の執行を未然に防いだとして、表彰される行いになるだろう。