ダメ刑事は鼻をひくつかせる
おれの名前は愛田谷善三。27歳。刑事だ。
仕事よりも女の子が大好き。出来れば1日中、女の子の匂いを嗅いでいたいのだが、残念ながらそういうわけにも行かない。じいちゃんが無駄にでかい屋敷とだだっ広い土地を残してくれやがったので、それを維持するために働かねばならんのだ。
人手に渡すという手もあったが、じいちゃんとの約束なのだ。この屋敷と土地はおれが守ると宣言してあるのだ。
とはいえやっぱり無理なので、そろそろ売り渡そうかと思っている。しかし、買い手がないのだ。二束三文でもいいから誰かに買ってほしいのだが、なんていうか、額からツノを生やした幽霊みたいなのが出るという噂がついちまってるらしい。
まぁ、売れねえのなら差し押さえられちまえばいいさ。勝手にしろ。それより今、おれは1人の女の子のことがとても気になっている。
彼女の名前は東尋眞尋。26歳。両親は何を考えてこんな、よりによってヨエロスンが2つもつく名前を娘につけたのか知らないが、まぁ名前はともかく、顔は可愛い。匂いもなかなかの……何と言おうか……そう、むっちゅぐちゅとした良い香りがする。
彼女はある殺人事件の容疑者として署の地下に拘置されている。
被害者は丸山玉男32歳。カレーショップの店員だ。
眞尋ちゃんは白昼堂々、ショッピングモールの3階から玉男を突き落とし、殺害した容疑で逮捕された。
っていうか、容疑も何もない。確定している。殺害は賑やかなショッピングモールで行われたのだ。多くの人が見ていた。殺したことを彼女自身も認めている。
謎なのは動機だけなのだ。
彼女が玉男を殺すわけがない。そのことだけが、このおれには引っかかっている。
彼女の刑は確定している。しかし、おれだけが信じていなかった。自信をもって言えるのだ、彼女は玉男を殺していない。
動機がなくて、人が人を殺せるものか。
おれは幸い、鼻が警察犬以上に利くこと以外はダメ刑事だと思われている。『お前の鼻が必要な事件が起こった』と言われるまで、必要とされてない。
おれは単独で捜査を開始した。眞尋ちゃんの無実を証明してみせる。そして彼女と結婚するのだ。
あるいは本当に彼女が玉男を殺したのだとすれば、おれはその心理がどういうものなのかを解き明かしたかった。おれはもちろん真っ先に、当の眞尋ちゃんに話を聞きに行った。