新郎が攫われた?!!…え、まさか私も?
思いつきでサッと書いてみました。
あらすじにもあった通りBL・GL表現があります。
苦手な方はご注意ください!
リーン…
ゴーン…
春の暖かな日差しに照らされて、教会の鐘が鳴り響く。
パイプオルガンから響く音色が祝福の音を鳴らす。
神父の前には純白のウエディングドレスを着た美しい女と、彼女の対になるように佇む男の姿。
「ーー健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
にこやかな笑みで神父は朗々とした声で女に問いかける。
彼女は少し緊張した面持ちで、しかしとても幸せそうに微笑むとゆっくりとその口を開いたーー瞬間。
「は「ちょっと待ったぁーー!!!」…ぃ?」
バターン!!と大きな音を立てて扉を開け放つと突如、黒い礼服を着た男が式場へと飛び込んできた。
「…え?」
「なに…?」
「誰あれ?」
「え?この展開ってまさか…!」
ザワつく会場の中を堂々とした足取りでその男は新郎新婦の前へ進んでゆく。皆の注目が集まるその中で、男は語った。
「っ…やっぱり、俺お前のことが諦めきれないっ!お前のことがどうしようもなく好きなんだっ!!愛してるんだ!!頼むどうか…この手を取って、俺と共に生きてはくれないか?」
苦しそうに眉間に皺を寄せる男の瞳にはどうしようもなく焦がれて仕方が無いのだと…君を愛しているのだ、と詭弁に語っていた。
「っ…!」
そのあまりにも熱く、一途な眼差しにカァッ…!と思わず頬に熱が集まる。そっと、目の前に差し出された男の手と横に立つ己とお揃いの純白の衣装に身を包んだ…この日伴侶となるはずのその人を見比べた。
しかし、悩んだのはほんの一瞬。
「っ、ありがとう!!さぁ、行こう!」
「うんっ…!」
黒い礼服に身を包んだ乱入者の手をしっかりと握りしめて、今日1番の幸福の笑みを浮かべた2人は会場を颯爽と去っていった。
後に残されたのは、祝いの席に集った新郎新婦の親族友人。
そして…
「は…?」
純白のウエディングドレスに身を包んだ、新婦である。
シーーーーン…
水を打ったような静寂に包まれる式場の中で、怒りと悲しみそして何より羞恥心でブルブルと肩を震わせる新婦。
ヴェールを被ったままの彼女の顔は誰にも見られることは無かったが、ボロボロと零れ落ちる雫から彼女が泣いていることは一目瞭然であった。嗚咽を漏らすことも無く、ただ静かに泣き続ける彼女の姿に胸を痛める神父と招待客の人々。
誰も何も言えぬ空間の中で…微かにどこからか音が聞こえてきた。
音は次第に鮮明になってゆく。
コツコツ…とどこからか足音が聞こえてくる。
その音は、開け放たれた扉の先(乱入者の男とその手を取って逃げていった新郎が消えていった)通路から聞こえてくる。
ゆっくりと、しかし確実に近づいてくるその音はやがてなんとも言えない空気に包まれた部屋の中へと悠然と入ってきた。
やがて、泣き続ける新婦の目の前でその歩みを止めたのは真っ黒のドレスに身を包んだ美しい女の姿。
彼女は妖艶な笑みを浮かべると、彼女に問いかける。
「ねぇ、どうして泣いているの?」
あまりにも無神経で残酷なその問いかけに、ガタリと新婦の両親が思わず立ち上がる。
しかし、不思議と体はそれ以上動かすことは出来ず、声を上げることも出来なかった。
「そうしてただ泣いているだけの弱い自分に手を差し伸べてくれる人がいると思うの?さっきのアレみたいに、攫ってくれる人を待っているの?ふふ、とんだ茶番ね」
「っ、…さぃ」
「惨めだと思わないの?恥ずかしくは無いのかしら?」
「ぅるさいっ!!うるさいうるさいうるさい!!!あなたに何が分かるのよ!!私の、気持ちなんてっ…!こんな、こんな…っ!!」
遂には座り込んでしまった新婦に、女は同じように座り込むと笑みを浮かべて、彼女の涙で濡れてびしょびしょのヴェールに手を伸ばした。
「あら、話せたのね。水を垂れ流すだけの壊れたお人形さんか何かかと思ったわ」
「うるさいっ!!」
バシッと女の手を弾くと、新婦は目の前の女をきつく睨み返した。その目はもう、悲嘆にくれた暗い目はしていなかった。
女は、薄いヴェール越しに見えるその瞳をじっと見詰めながら静かに語った。
「…さっきもそうやって声をあげればよかったのよ。ただ隣で見てるだけじゃなくて、選ばれることをただじっと待っているのじゃなくて。声を上げて、手を伸ばして、逃がさないように掴んで引き停めればよかったのよ」
「っ、そんなの…」
「『そんなの』無理って?無理じゃないわ。どうしても彼のことが好きでどうしても離したくなかったらがむしゃらになって追いかけて捕まえてたはずよ。どうしてそうしなかったの?なぜ泣いてるだけだったの?彼が戻ってきてくれるとでも思っていたの?…バカねぇ」
ふわり…と優しげな笑みを浮かべて、女はそっと新婦を抱きしめた。先程までのきつい物言いは何も無かったかのように、優しく、暖かなその腕の中でジワリ…と、また涙が溢れた。
「だって…ぅ、うぅ」
「ほらほら、あんなクズの為に泣くんじゃないわよ。せっかく綺麗な格好してるのだから、ね?」
「でも、でもっ…!」
「もぅ、本当におバカちゃんなんだから。ほら、行くわよ」
「ぐすっ、い、行くって…どこに?」
「ふふ、馬鹿で可哀想で…何より愛おしい貴女を私が迎えに来てあげたのよ。神父さん、誓いの言葉お願い出来る?」
手を引かれて、慌てて立ち上がっれば泣きすぎて少しクラクラする体を女は自然と腰を抱いて支えてくれた。
「は?え?」
「ほらほら早く言って!」
「は、あ?…え、えーと。あ、貴女は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、彼女を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか…?」
「誓うわ」
女は堂々とそう宣言する。
「え?え?」
「神父さん、ほら言って」
「は、はい…す、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、彼女を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「え…?は、え??」
あまりの展開についていけず、思わず女を見上げれば…彼女は心底愛おしそうに、しかし少しの不安を滲ませた瞳で新婦を見つめていた。
ドキリ…と胸がなる。
「…正直ね、彼らには感謝してるのよ。これで貴女を私のものにできるって。ねぇ、おチビでおバカで可哀想で…何よりも愛おしい貴女を、貴女だけを私は愛すると誓うから、あなたも…誓ってくれる?」
「は、ひゃいっ!」
心底愛おしいと言うように、頬を撫でられ思わず返事をしてしまえば大輪の薔薇が花開くように笑みが咲く。
「ふふ、ありがとう…愛してるわ」
「ふぁ?!」
ヴェールを捲られ、そっとキスを落とされる。
誓のキスを交わし、顔を真っ赤にさせてすっかり腰砕けになった新婦を連れて女は来た時と同じく颯爽とその場を後にした。
コツコツ…と遠ざかってゆく足音を耳に。
後に残された新郎新婦の親族友人達は、なにがなんだかわからないが、何となくハッピーエンド?な雰囲気に取り敢えず拍手を送り彼女たちを見送るのだった。
新郎新婦の友人達の会話。
「新郎が攫われたと思ったら結局、新婦まで攫われて行ったな…」
「新郎攫ってったやつ凄いイケメンだったな」
「新婦の方はめっちゃ美人だったな」
「あー、俺も攫われてぇなぁ…」
「「どっちに??」」