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第8話「これこそがマオから教わった、コンビ打ちのやり方。アシスト役の打ち回しのコツだ」

 四五六六⑤⑥⑨⑨477發發 ツモ⑦ ドラ九


 打4 or 打六。

 456の三色が見えて、かつ三トイツ(四トイツ)の形。

 面子一つ、両面ターツ一つ、中張牌の対子と中張牌孤立牌が手にあって、いかにもメンツ手に寄せやすく、トイツほぐしでどれかを切りたくなる。

 裏目が少なく⑧引きに備えた打⑨……に見えるが期待値は打4 or 打六(トイツ目を残す)方が上。







 タコナキ遊郭は、一〇〇年以上の歴史を持つ老舗である。

 かつては、遠方から来た貴族をもてなす指定業者に選ばれたこともあり、数々の貴族が足を運んだこともある由緒正しい娼館である。

 そのため、タコナキの看板には一定の価値があった。



 しかし、時勢は変わるもの。

 近年、競合が増えて経営が苦しくなってから、借金がみるみる嵩んだのだという。ここしばらくの不作続きで遠方の貴族たちの客足が細くなっても、高級遊女を抱え続けたのが遠因である。

 人を容易に切り捨てない経営が裏目に出たのだ。



「……緊張しているのかい?」



「まさか」



 嘘だ。マオに気遣われたので、とっさに口では強がりを言ったまでである。



 何せ初めての代打ちである。緊張しないはずがない。

 積み込みなんてぶっつけ本番では成功する保証がない。ガン牌(魔眼)のネタも最後まで暴くことはできなかった。後はぶっこ抜きだが、これも本番の状況でできるか怪しいものである。



「……でも、今日戦うのは格下の代打ちなんだろう? このあたりでは負け知らずのマオだったら、いとも簡単に倒せるはず――」



「おいおい、アンタが(・・・・)勝つんだよ。甘えちゃ駄目だかんな。いざとなったら見捨てるからな」



 ぴしゃりと言われてしまう。俺の弱気を見透かしたような釘差しであった。

 いざとなったら見捨てる。

 それはつまり、"俺が頑張らなくてもマオが勝ってくれる"なんて日和ったまま過ごすことはできない、という意味である。



「……そうか、頑張るよ」



 初めての依頼人、ノータリン・タコナキ氏のために。

 震える手に力を入れて、俺はいよいよ戦いに臨むのだった。











 ◇◇◇











 用意された部屋は、遊郭の一室。

 お互いの卓上に見せ金として積まれた、うなるほどの金貨。



 詳細は知らない。

 ただ、タコナキ遊郭の名前と経営権を欲している金満家の貴族が、今回の勝負を吞んでくれた、と聞いている。この貴族をカモにするのが今回の俺の仕事である。



「では、場決めから行います。打ち手は卓について伏せ牌を手に取るように」



 今回の勝負では、コンビ打ちが認められている。

 向こうは二人、こっちも二人、二人の成績の合計がよいものが勝利となる。



 向こうには、それなりに腕利きのうち手が入るらしい。

 ハヤブサのセンリ、隠し刀のヨロク、と聞いたことのない名前であるが、二人がかりであればマオも抑え込める、と期待されているうち手だという。

 今回は、マオと一緒に入るのが俺という素人なので呑んでもらえた、という側面もある。



 つまり、俺はマオのお荷物だと舐められているのだ。



(だが、怒りはしない。むしろその侮りを利用させてもらう)











 ひりついた空気。遊郭の利権を巡って麻雀が行われる。



 手牌は以下。

 東一局 西家 3巡目 ドラ三

 一七八①②④⑤⑧⑧22799



 通常の何切るでは、どう考えても一切り一択なのだが。



(この手は三向聴。押してもいいが、下家のマオのほうが強そうだ。ならば……)



 上がれそうかどうかをマオに目くばせする。マオの回答は、上々、といった次第であった。

 瞬間、決意する。

 この局に限っては、アシスト役は俺で、上がり役がマオである。



 打⑤。

 ここは無理チャンタに受ける。これは列を組むときのやり方で、アシスト役がよくやる手口だ。



 無理チャンタに構えておくと、中盤での差し込みや鳴かせが不自然じゃなくなる。

 中張牌を切り出す口実がいくらでも立つのだ。

 トラブルになったときも、三色目やチャンタを意識した、とか適当に言っとけばいくらでも言い逃れができる。



(これこそがマオから教わった、コンビ打ちのやり方。アシスト役の打ち回しのコツだ)



 単なる虚仮威し。だが万が一上手くチャンタ三色に寄れば打点は十分である。



 いきなりの⑤切りに相手の二人はピクリと反応したが、特にそれ以上の反応はなかった。



 まあそんなものであろう。だがこうも強気な切り出しをすれば、俺が素人とはいえども最初は(ケン)に回るに違いない。

 俺の打ち筋や、俺がどれほどの力量なのかを見定めようとするはずである。



 それを利用するのだ。

 この無理チャンタをみれば、俺は全然上手くない、と思うはずである。

 弱いやつという印象を抱いてもらえば、警戒度が下がるため、俺の今後の打ち回しも楽になるはずだ。



(俺は別にチートイ目もあるし、マオに一牌渡しておくか……)



 卓の下で、こっそりと④をマオに渡す。

 これで俺は少牌、マオが多牌である。



 当然だが、多牌側はシャンテン数を上げるのがとても早くなる。

 ターツ選択に差し迫られることが少ないからだ。











 五巡後。

 七八⑧⑧⑨122799西 ツモ7(少牌)



 ①②を山につけて処理しつつも、あまりシャンテン数の変わらない手牌をずっと続けることしばらく。



 789の三色目に繋がらないツモで、いかにもつまらない手である。

 七対子に向かうにもようやく四トイツ。

 むしろ混一色の方に浮気してしまいそうである。

 マオからこっそり不要牌を受け取り、マオの多牌解消と俺の少牌解消を図った時、俺は自分のミスに気が付いた。



(……そうか、しくじった。トイツ手は駄目だ。ぶっこ抜きを多用してもトイツ手には寄せにくい。そもそも暗刻系のメンツは、関連牌があんまりないんだ)



 これがトイツ系の手の難しさである。

 両面ターツが順子になるには二種八牌受けがある。カンチャン・ペンチャンでも一種四牌。

 しかし、孤立牌が対子になる受け入れは一種三牌、対子が暗刻になる受け入れは一種二牌しか存在しないのだ。



 七対子とチャンタの両天秤、なんて悠長なことをやるぐらいなら、とっとと普通のタンピン系の順子手に分解すればよかったのである。



 いっそ染め手に走ればよかったか、と後悔しはじめたころ、とうとう対面の親からリーチが入る。

 まだいくらでも立ち回れたものを、と思うももう遅い。



 マオからの視線が痛かったが、これは俺の判断ミスである。



(マオと俺の山にほとんどの尖張牌を殺しているから順子手は遅い。場は自然とトイツ寄りになるから、トイツ手でも戦える。そう高を括っていたが……)



 マオへの当たり牌は⑧である。

 打⑧でマオに刺しに行く。



 これでもう終わりだ、次にいこう、と気を切り替える。



 しかし。



(マオが、和了(あが)らない……?)



 一瞬時が凍る。

 もしかして俺がサインを読み間違えたか、と呆然とするも動揺を顔には出さず、手を進める。

 もう一打、⑧を打てば当たってくれるだろうか。それともマオは、俺に対して別のことを求めているのだろうか。



 不可解なまま場が進む。

 それならマオの当たり牌を相手につかませてやれ、と⑧を相手のツモ山にそっと乗せて対処する。



 が、やはりマオは上がらない。

 俺はこの時、嫌な予感を覚えていた。



 そして十四巡目。



「――ツモ! 4000オール!」



 対面のハヤブサのセンリがツモ上がる。リーチ、ツモ、ドラ2の親満。最初から大きなビハインドを背負った形になる。



(なんでマオは、和了(あが)らないんだ……)



 自分の中で、違和感が如実に大きくなった。

 もしかして、自分は今マオに嵌められているんじゃないだろうか――そんな猜疑心がちらりと脳裏をよぎった。











 ◇◇◇









(ちょっと早いが、アイツにはいい試練になるだろう。この戦いは成長のためのいい機会、いい試金石になるはずさ)



 当惑する弟子を傍目に、マオは淡々と洗牌(シーパイ)の作業に入った。

 いうなれば、この戦いは賭けであった。果たしてあの少年が本物かどうか。すべてはそこにかかっていた。





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