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第17話「河と手を見返す。 瞬間的にひらめきが走った」


 二三三三四五六七八九 ポン白白白 ツモ三 ドラ?



 打三萬or打九萬。

 三萬カンして二萬釣り出しは、おすすめしない。


 九萬を切ると待ちが五面張に増えるが、一萬の高め一通は消える。

 三萬を切ると四面張で、高め一通の可能性が残る。

 

 手にドラが一枚でもあれば九萬切りが勝る。手にドラがない場合はどちらでもよい。


 辺境伯ホウラ家は歴史ある名門貴族である。

 その傍流の一つ、マリガン子爵家もまた、格のある由緒正しい貴族とされている。

 ましてや当代のマリガン子爵は、雀才溢れる男であるとして周囲に一目置かれており、中央貴族からも覚えめでたい存在であった。



 夜。

 マリガン子爵は、愛娘であるアニーを呼びつけて晩餐をゆっくりと摂っていた。



「――天からの加護を持たないものはなぜ嫌われるのか、わかるか?」



 マリガン子爵からの問いかけ。

 それはごく当たり前の質問である。

 加護(スキル)を持たないものはなぜ嫌われるのか。



 世には一定数、そのような加護なしの人間もいる。

 が、教会から洗礼を施してもらえる家庭――つまり教会にお布施をきちんと支払えるような少し裕福な貴族の子供であれば、教会より加護を授かるのはごくごく普通のこと。



 だが、そんな金銭的事情を問うているとは思えない。



 アニーはしばらく、問いかけの意図を掴みあぐねたが、模範通りの回答を選んだ。



「……えっと、それは、正しき心の持ち主には、正しき力が宿るから……裏を返せば、加護のないものは悪しき心の持ち主だ、という間接的な証明になってしまうから、じゃなくて?」



「ふ、そう習ったか」



 口元を拭いながら、マリガン子爵は応えた。



「教会の教えは難しい。迂遠な言い回しを好む。お前にはもう少し、生々しい詳細を教えてやろう」



 貯蔵庫からより熟したワインを取ってくるように従者に言いつけてから――これは「席を外せ、二人きりで話がしたい」という意味の隠語である――マリガン子爵は、娘に教え諭す。



「神の定めたる教典(ルールブック)に背くような行為を働いたものは、天より加護を奪われてしまうのだ」



「えっ」



「加護なしは、血が賤しいか、貧困者か、もしくは不正を働いたものだ」



 血が賤しいとは、精霊からも見放された下賤な血の持ち主、という意味の蔑称である。

 貧困者とは、単純に財力に乏しく政治力などが落ちぶれつつあるものを指す。

 そして、最後――不正を働いたもの。これは、文字通り、麻雀にて不正を働いたものを指す。



「分かるだろう。麻雀にて全てが決まるこの世界においては、加護のあるなしこそが絶対。きちんと両親共々が精霊から祝福を受けており、またきちんと教会にお布施を行って洗礼の儀を受けており、そして一度も不正を働かず真面目に麻雀を行っているものであれば、加護は得られるのだ」



「……つまり」



「もしも親の一方が精霊から祝福されていない下賤な民であれば、半分流れる賤しい血のせいで加護を得られぬこともある。教会を支援しない不心得者もまた、加護を得られるはずもない。まして、不正を働くようなものに至っては以てのほかだ」



 かちり、と銀の食器が音を立てた。

 感情が籠もったのか、マリガン子爵の、肉を切り分ける手の所作がやや大げさになっていた。



「わかるかね。あのロナルド少年はどちらかだ。お前と一緒に加護を受けたのだから、考えられるのは二つ。不貞の子か、教えを破ったかだ」



「……な」



「お前なら分かるだろう? 我々は、あの少年を、見捨てねばならんのだ」



 躊躇いと戸惑いを隠せないアニーに対して、マリガン子爵は言葉をさらに続けた。



「お館様、すなわちボーテン辺境伯閣下に不貞があったことには出来ない(・・・・)。してはならん。よって、あの子が不正を働いたことにせねばならん」



「え、何言ってるんだよ、父さん……」



「父上だ、アニー。せめて父上と呼びなさい」



 アニーはこのとき、言葉の意味をしばらく反芻していた。

 友だちを、売れと言われている気がした。



 麻雀に真摯で、麻雀に熱意を注いできた友だち。

 一緒に牌譜検討を行って、共に遊んできた友だち。

 ロナルド・パーレン・ホウラ。



 そんな彼を、不正を働いた小悪党ということにせねばならない。



「……あいつを、信じて、やれよ」



「アニー。信じるだとか信じないだとか、そんな次元の話ではないのだ。そうしないと様々な貴族が困るのだ」



「……あいつが、不正を働くなんて、そんな」



 有り得ない、とアニーは言い切りたかった。

 有り得ないだろうか。



 だが、ざらついたアニーの心の中で、一抹の疑問が拭えぬままに残ったのも確かであった。



 ――本当は、あの危うい少年ならば、不正をやってもおかしくない、と一瞬思ってしまったのではないか?



「あいつが不正を働いたなんて、そんな……!」



「そうだ。分からん。だが、事実は暴かないほうがいい。お館様を詮索するような真似はいかん」



「……」



 マリガン子爵の言葉は重々しかった。



「せめてもの手向けだ。お前がとどめを刺せ。大人の政治的都合で、少年一人を処刑するのはあまりにも酷だ」



「しょ、処刑って」



「家宝にケチをつけたのを忘れたのか? あの少年は、あろうことがホウラ家の魂に物言いしたのだぞ」



 限りなく出生の怪しい少年。もしくは不正行為を働いた前科持ちの少年。

 そして、貴族の家訓を辱めんとした不遜な少年。



 周囲の貴族に穏健なものが多かったからよかったものの、そうでなければ、頭と胴体が泣き別れとなってもおかしくはない。



「お前がとどめを刺せ。お前とポーダンジェで、しっかり決着をつけろ。そうすれば、ホウラ家での次世代の最強の打ち手は、お前とポーダンジェになる」



「……」



「あの少年が、曲がりなりにも“未成年の中で二番目に強いホウラの血族”というのがよくないのだ。お前が勝てば、マリガンの家名もより誉れ高いものになる」



「……でも、あいつは……」



「あの少年が強いということが問題なのだ。強いから皆、焦って始末するのだ。弱ければ、脅威にはならん。あの少年を助けたいなら、ぼろぼろに打ち負かせ」



 幼い子供には到底聞かせられないような、あまりにも生々しい事情である。

 だがアニーはそれを聞かされている。

 そして判断を迫られている。



 すっかり食欲の失せたアニーに対して、マリガン子爵は容赦なく、そして直截に言葉を告げた。



「考えても見ろ。もしポーダンジェとお前が共々、あの少年に負けてしまったらどうなる。ホウラ家の家訓を貶し、更には加護さえ持たぬあの少年に負けてしまえば、ホウラ家の権威と体面は崩れ去るのだぞ」











 ◇◇◇











 三巡目。

 二二8②②④④東東南白白中 ドラ8



 自分の河:

 1九發



 手はほとんど七対子の方向に整っていた。

 配牌から既に四対子の手牌だったところで、不要牌を捨てるうちに更に対子を作った形である。



 そこに来て、鳴きの機会が訪れた。



 ――東。



 タコナキ氏から出た東を鳴くか一瞬ためらう。

 この手は、鳴けばトイトイ東白が見える。

 鳴いて満貫。そうでなくても、7700が容易に狙える。



 だが、役牌から鳴いては、ホンイツの方を警戒されて、ヤミやヨロクに絞られる可能性がある。

 タンヤオも匂わせつつ、仕掛けるなら二②④から仕掛けたい。それにドラへのくっつきもある。



 しかも今は、すでに七対子一向聴。

 七対子の目も残したい今、一枚目の東への仕掛けはぎりぎりスルーとなる。

 一枚目をふかすことで、最高のドラツモの七対子字牌待ちの可能性を残すのだ。



「(……何で鳴かないんだ! 坊やお前、ぬるいぞ!)」



「(……そうだ、鳴くべき、なんだけど)」



 鳴くべきこの手。

 だが、ドラをツモって字牌待ちになれば、ヤミから9600の直撃を引き出せる。

 いっそドラなんて手の中になければ、迷うことなく鳴くのだが。



「(……ヤミに読まれてはだめなんだ)」



 16500の差。9600の直撃か、親満ツモで一発逆転。

 手のひらに汗がじんわり滲む。痺れるほどの緊張感。

 鳴くか鳴かないかの判断一つが、これほどまでに重苦しい。











 続く四巡目。

 二二8②②④④東東南白白中 ツモ③ ドラ8



 想定になかった③ツモ。



(ドラ切り? 役牌のどれか? ……七対子含みでメンツ手への渡りも残すなら南切りだが……)



 引き続き七対子ドラドラのイーシャンテン。

 一盃口のあるメンツ手にするぐらいなら、一気にホンイツ寄せまで見た方がいい。



 だが、9600イーシャンテンを一気に三シャンテンに戻して間に合うだろうか。



 仮に、ホンイツを見ないのだとしても、東や白を鳴いたら、ほぼドラが使えない牌姿になって、1500~2900の手になってしまう。

 逆に、東や白を鳴かないのだとしたら、二萬・東・白の3ヘッド形がネックとなる。とくに順子に育たない2ヘッドは暗刻にするしかなく、有効牌が6枚しかないので、相当遅くなってしまう。



 ただ和了がほしいだけなら両天秤は有効である。打南で問題はない。だが――。



(本線は七対子。ホンイツは惜しいが、チートイドラドラで打点は十分)



 ――打③筒。











 ◇◇◇











(1九發③、ね。四巡目で③筒をツモ切り出来るなんて、早そうな河ね)



 だが一方で、ヤミの手も十分整っている。



 345568⑥⑦五七九北北

 二向聴。典型的なピンフ系の手で、567の三色も仄かに見える。

 黙聴にかまえてあっさりと局を流してもいい。さらに鳴いてもいいと考えれば、柔らかい手である。



(③⑤⑥、③⑥⑦、③⑥⑧、それともただの孤立③……。色々あるけど、筒子の下はないのかしら? あるとしても、①②③③、あたりかしら?)



 七対子はほぼない(・・・・・・・・)

 1九發の早切れから、普通の面子手進行である。

 萬子も筒子も索子もバランスよく出ているので、ますます普通の面子手らしい進行のように見える。



(……私に和了目がある。ヨロクは時間がかかりそう。ならば私が手を進めるとして、ヨロクには絞ってもらおうかしら)











 ◇◇◇











 七巡目。

 二二8②②④④東東南南白白 ツモ④ ドラ8



 ここで来た④筒が、奇貨となった。



(ツモ④筒?)



 今すでにチートイドラドラの聴牌。

 だがドラ待ちでいかにも和了目は薄い。

 そこに来て、暗刻となるツモ④筒である。



(確かにドラ待ちの七対子は和了りにくい。ヤミもヨロクも、この場面でわざわざドラを出すようなぬるい相手じゃない……)



 とはいえ。

 いくら暗刻が一つできたからと言って、この手を三向聴まで落とすような手筋は――。



(そうさ、そんな手筋なんて……)



 自分の河:

 1九發③五中

 自分の牌姿:

 二二8②②④④東東南南白白 ツモ④



 河と手を見返す。

 瞬間的にひらめきが走った。



 ――もしかしたらこれは、釣れるかもしれない。



 幸運なことに。

 自分で③筒を先に打っている。④筒は自分が暗刻にしている。

 他家にとって使いづらく、さらに③筒の早切りで安全そうに見える②筒は、相当鳴きやすい。



 字牌もまだ比較的鳴きやすい。

 もしかしたら、鋭いヤミには警戒されるかもしれないが、それでも打③筒のおかげで、筒子の混一の気配は薄れている。



(ツモ切りでドラ待ちの七対子継続か? いやここは――)



 ドラ待ちの七対子よりも、役牌のほうがまだ出してくれる可能性がある。



 この状況。

 このツモ。

 そこからは、もはや賭けであった。



 ――打二萬。











 ◇◇◇











「(!?)」



 まさかの聴牌崩し。

 それを見たマオは、危うく声が出掛かった。



 9600の逆転手。これをあえて崩すような手筋は、普通存在しない。



(……いや、でも、これは案外盲点……)



 ②筒と白が立て続けに打ち出され、ポン、ポン、と軽く鳴き進む。

 筒子の下を嫌った、いかにもタンピン志向の河になっていて、②筒と白の釣り出しは簡単であった。

 伴って、少年の牌姿が一気に引き締まる。



(……あ)



 ドラを間に挟んで、二萬の対子が払い切られる。

 ――ドラまで捨てて白のみの安手に見える、その手は。











 ◇◇◇









 ここに来てヤミは、うまく言語化できない奇妙な違和感を覚えていた。



 ロナルド少年の河:

 1九發③五中二8二



 ロナルド少年の牌姿:

 ??????? 白白白 ②②②



 それは、ドラ切りと対子落とし。



(ドラ8索子手出し? それに、二萬のトイツ落としも手順が奇妙ね。

 ドラを間に挟んで落として、二萬を一気に落とさなかったのは、二萬が一瞬だけ手牌の関連牌だったから? それともドラが危険だから先切り? ……いや、それならドラ切り→二萬対子落としの順番のはず)



 もし筒子のホンイツなら、③ツモ切りが、西や二萬や8索より早いのは奇妙である。

 逆に、もしトイトイならば、二萬のトイツ落としと8索手出しの時点で、すでに9600のチートイドラドラ聴牌のはず。



 そのどちらでもないのであれば、相手の手は安い。

 少年の手は、何でもない単なる安手。



 ……そのはずである。



(……この南は切れるかしら)



 もし南が当たりだとすると、役役の2900点〜役役赤1の5800点まではありそうである。



 ヤミの牌姿:

 3455688⑤⑥⑦七八九 ツモ南 ドラ8



(二向聴から望外のドラ重ね。ずっと黙聴だったところに、この生牌の南のツモ)



 ドラを重ねて相手の打点期待値を減らしつつ、出和了の効く両面待ちでずっと張っていたところである。

 平場ならそもそも聴牌即リーチで押すべき牌であるし、点差のリードが大きい現在であっても、こんなのはさくっと押すべき牌である。

 ここで連荘されるほうが、捲られるリスクを高めてしまうのだ。



 たかが生牌の南は、わざわざ降りる牌にはなりえない。



 ――だが。



(……違うわ)



 違和感は、②筒と③筒。

 ③筒ツモ切りで②筒ポンということは、②②③の形をわざわざ嫌って③筒を切っておいて、それなのに②筒を鳴いたということになる。

 ――対子手。



 それなのに、ドラ8索を捨てて、二萬をわざわざ対子落としするなんて奇妙な動きをするということは。



(いいえ、有り得ないわ。そうよ、トイトイ含みの対子手だとしたら、二萬なんて対子落とししないし、そもそも9600点のチートイドラドラを捨てるはずがないもの……何か、見落としが……)



 生牌の南に手を掛ける。

 指先に力が入るが、息を整えてしばらく黙考する。



 ここで降りて、連荘のチャンスを与えてしまうのはあまりにもぬるすぎる。

 しかもポン出し牌の二萬の関連牌でもないし、特に情報のない字牌。

 こんなのは、手を崩して降りるような牌ではない。



 切るべき、と合理的な結論が導かれる。

 これを切れないのは勇気がないだけ。

 臆病な本能が、絶え間なく続いた緊張が、ヤミ自身の冷静な判断能力を奪っていた。



(――――――)



 河に牌を並べる。

 たっ、と指先から牌が放たれる。



 口元を歪め、手に汗を握って、恐る恐るヤミが切り出した牌は。











(……駄目ね、こんな南が切れないなんて……私は、もう……)



 ――打8索。

 対面の少年には当たらず、ヨロクへのドラアシストにもなり、南を頭にして張り返しも狙える――だがあまりにも気弱すぎる一打。

 聴牌を放棄した、ぬるい手筋。



(……対子手でありながら、二萬の対子落としとドラ8索を捨てて、七対子を捨てる可能性は、僅かにある。

 ……唯一、唯一の可能性として、混一トイトイ(・・・・・・)に寄せた可能性が)



 ③筒の早切りが迷彩。

 そんな、馬鹿げた可能性。



 その僅かな可能性が、ヤミを蝕んでいる。



 間一髪の回避か、それともただ恐怖に負けて手を曲げたか。

 何度も何度も際どい局面を凌いできた、その緊張がヤミを摩耗させていた。

 ――八割以上、相手はただの安手なのに。



(……捌いて、ヨロク。無理なら、降りて)











 ◇◇◇











 ヤミのドラの打ち出しを眺めながら、ヨロクは小さく首を振った。



(……駄目だ、ヤミ。こちらの手は絞りで腐っている。和了目はない……)



 この局面で、ヤミにとって不運だったのは。



 ヨロクはヤミの指示通り、自分の手の和了よりも、ロナルド少年への絞りを優先して、忠実に行っていたこと。



 ヤミ自身が南を止めてしまったこと。



 ふたりとも、親は安手である可能性が高い、と判断して、次の局に望みをつなごうとしてしまったこと。



 そして、タコナキ氏が分かりやすく全ツッパであったこと。











 ◇◇◇











「――さっき鳴かれなかったのだ、これは通る!!」



 そう言ってタコナキ氏から切り出されたのは、二枚目の東。

 確かにその牌は、生牌の字牌よりも安全度の高い牌である。



 だが、この局面に限っては。



「……ロン」



 ――それこそが、俺の和了牌である。



 牌を倒す。場が静まる。

 その一撃が、決定打だった。



「……混一トイトイ東白。18000は19200」



「!?」



 ④④④東東南南 白白白 ②②② ロン東



 渾身の跳満。

 俺は、長く深い溜め息を吐き出した。











 どこからでも出和了の効く、きれいな逆転手。

 ヨロクの表情が強張り、そしてヤミもまた目を見開いていた。



 この東は読めない(・・・・)

 生牌の南はかろうじて止める理由があるかもしれないが、こんな東は止まるはずがない。



 打点9600点の聴牌を捨ててから、他家からロン牌を引き出した、綱渡りの手筋。

 だが、だからこそこの一撃には価値がある。



 飛び終了による終局。

 ヤミ:38000

 ヨロク:23300

 ロン:41700

 タコナキ:-2000



 最後の最後で、ヤミを捲っての首位。

 乾坤一擲、起死回生の一手。



「――――――」



 対面のヤミは、その透き通るような黒い瞳で、ただ俺の牌姿を眺めていた。

 何を考えているか読めない表情のまま、彼女の口元は固く結ばれていた。



 鋭い彼女は、もしかしたら読んでいただろうか。

 それとも俺は、この彼女の読みの裏をかくことが出来ていただろうか。



(……まさかやめてくれよ、俺がここまでしたってのに、当たり牌を止めていたんだとしたら、そりゃもう化け物だぜ。それも一枚切れの東だったとしたら、俺の手には負えない……)



 あまりにも苦しかった激闘の終末。決着は、紙一重で俺の勝利であった。






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