第14話「きわどい危険牌を通すことができるこの読みと、最速の手筋こそが、俺の最大の武器――!」
三七八八③⑤⑥⑦123789 ドラ:南
打七萬。
受け入れ枚数が多い順に、
打七萬、打三萬、打③筒、の順番となる。
「くっつき一向聴の時、雀頭の隣の孤立牌は弱くなる」という牌理に従う。
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(最速の手筋がある)
東2局 七巡目。
二二二四12334r56⑥⑦ ツモ1 ドラ5
最も受け入れが広いのは打四。
1索ツモ切りや打3索を一瞬考えたくなる形だが、
123467索で⑤⑧筒待ち。
⑤⑧筒で147索待ち。
⑥⑦筒でもカン2索の黙聴が効く。
(最速の手筋を常に選ぶことができれば、麻雀で勝つことは難しくない)
最速の手筋を間違わずに選ぶことが、勝ちにつながる。
イーシャンテンの好形について深く研究してきたからこそ、俺は打四萬を間違わない。
では、その四萬が通るかどうかが問題である。
ヨロクの親番。
ドラの5索をポンしてドラ3の驚異的な手が見えている。
ヨロクの河:
西北①2發⑧三
ヨロクの牌姿:
??????? 555 ④⑤⑥
④⑤使いの⑥チーで打三萬。
場が急に重たくなった。
「(おい坊や、チー出しが三萬だぞ。四萬はほぼ通らねえ)」
「(通るさ)」
マオが小声で耳打ちしてきた。俺が四萬に手を伸ばしているのをみて、流石に見かねて忠告してきたのだろう。
しかし俺は構わず四萬を手にかける。
嘘だろ、とマオが息を呑むのを背後から感じ取る。
それでも俺は、十中八九この四萬は通ると確信していた。
普通であれば三萬のソバが打てなくなる場面。
なぜなら、チー出しの三萬は、三三五や二三三などで使われていたフォロー牌である可能性が高いからである。
もし仮に、ヨロクがイーシャンテンを最高効率に構えていると仮定すれば、チーして出るのは最終形の待ちの関連牌。つまり三萬のソバが危険となる。
これが有名な格言「チー出しのソバテンは危険」といわれるゆえんである。
加えて言えば、安牌候補の二枚切れの發がツモ切りされているということは、三萬は安牌よりも重要だった牌、となる。
無関係な牌を手に残すことはない。無関係な牌は将来的な危険牌になりかねないので、先に切るはずなのだ。
それなのに安牌よりも三萬を温存したということは、三萬は最終待ちの関連牌である可能性が高い。
ここで打四萬とするのは暴牌といえる。
「(……確かに坊やの手はドラドラの勝負手だ。だが、まだイーシャンテンだぜ? 見えてる親満に立ち向かえるほどじゃねえ。その四萬は三割、いや四割以上当たりだ)」
「(大丈夫。5%もないよ)」
マオの忠言をさらりと聞き流す。こういう時、俺はちょっと嬉しい。
マオほどの打ち手でも、この四萬は読めないのだ。
ポイントは、直前に三萬を河に捨てている他家がいること。
チーの直前に、対面のタコナキ氏が三萬を切っている。
この場合はどうなるか。
細かい情報だが、読みの範囲が一気に広くなる。
(もし、ヨロクがすでに聴牌なのだと仮定して――)
三萬をポンしていない、というのはおかしい。
例えば、仮に三萬が対子となっている、下記のような牌姿だったとしよう。
66888④⑤ 二三三 555
ドラ4が確定しているのだから、ここはどう考えても三萬ポンで③⑥待ちに構えるはずである。
66888④⑤ 三三五 555
も同じ。三萬は鉄鳴きである。
つまり、三萬が対子形になっていれば必ずポンをするはずなのだ。
では逆に、三萬が対子になっていない場合はどうなるか。
66888④⑤ 一一三 555 から打三萬 → 一萬待ち。四萬は通る。
66888④⑤ 二二三 555 から打三萬 → 二萬待ち。四萬は通る。
66888④⑤ 三四四 555 から打三萬 → 普通は四萬切るのでありえない。
66888④⑤ 三五五 555 から打三萬 → 五萬待ち。四萬は通る。
66888④⑤ 三五七 555 から打三萬 → 六萬待ち。四萬は通る。
よって、ポン聴が取れるチャンスがあったのに取らなかったチー出しの三萬が関連牌となって聴牌しているのだと仮定すれば、当たるのは一萬、二萬、五萬、六萬。
すなわち、四萬切りは通る。
しかも、一萬、二萬、五萬、六萬から、まだまださらに危険牌を絞り込むことができる。
俺の手に二萬が三枚あるので、二萬シャンポン待ちは枚数的に否定される。
一萬シャンポン待ちも、タンヤオの動きをしているので可能性が薄い。
(さらに言えば、尖張牌はほぼ俺の山に死んでいる。三萬を二枚積み漏れていたのはちょっと失敗だが、これを加味して考えると……)
ここで読みは終わらない。
俺にはまだ、読みの手材料がある。
それは山。俺が積んだ山には偏りがある。尖張牌がほとんどこの山に封じられているのだ。
すなわち、俺の山に七萬が殆ど死んでいるはずなので、五七萬使いの嵌六萬の可能性も薄くなる。
よって可能性が高いのはシャンポンの五萬待ち。萬子は、五萬以外はほぼ通る。
「!」
(そんなに驚くなよ、ヨロク。通るとわかってる牌は切るさ)
これで最速のイーシャンテン。
10種類で聴牌できるということは、34種類のうち約30%で聴牌できる。
耳元でマオの安堵の吐息が聞こえたが、俺からすればさほどのことでもない。
(ここでツモ五萬が怖いからといって四萬を残すのはナンセンス。出和了が効く前の局と違って、今回は出和了が効かない。
よって、ここは怖くとも最速でリーチを打ってヨロクを抑え込む必要がある)
ポイントは出和了の枚数。
この形は、前の局の
三三三五七七七⑦⑦⑦678
のようなダマテンの効く形にはならない。
(きわどい危険牌を通すことができるこの読みと、最速の手筋こそが、俺の最大の武器――!)
「リーチ!」
供託を出す。
2索を引く以外は手役がなく、逆にカンチャンの2索待ちに受けてもめくりあいで勝つ自信はない。
よってリーチを放つほかない。
二二二112334r56⑥⑦⑧ → 打3索
147索待ち。リーチドラ1赤1で打点十分。これならめくりあいで勝てる――と判断したが、その瞬間だった。
宣言牌の3索に「ロン」と声がかかる。
え――と驚くのも束の間、対面の牌が倒される。
六六六2466④⑤⑥南南南
「……リーチのみ。1600」
【暗殺術】のリーチ。
裏は乗らない。だが、点数以上に価値のある和了。
(……ヤミに聴牌が入っていたか)
いつ聴牌したのか全く読みづらい。
タコナキ氏やヨロクの鳴きのように、明確な情報があるならまだしも、ヤミの気配はほとんどなかった。
(……ヨロクのチャンス手は何とか潰したけど、微妙な振り込みだな)
勝負はまだ、終わらない。
東二局終了時点。
ヤミ:34100
ヨロク:22800
ロン:26400
タコナキ:16700
◇◇◇
(やっぱりあの子供は判らない……こちらがチーして手出し三萬だというのに、あの少年、平気で四萬を切ってきた)
五萬と②筒のシャンポン待ち。四萬は隣である。
チャンス手を潰されたヨロクは、苦い気持ちで自分の手を見た。
タンヤオ、ドラ3
親の満貫手。
これを相手にぶつけてしまえば一気に勝負のケリが付いた。
しかし、結果は両方ともあがれず。
(……全ツッパのくせに、どうしてなかなか、咎めるのが難しい)
二度もチャンス手をつぶされてしまった。
そして、次またこんなチャンスが巡ってくるとは限らない。
ここまでほとんど勝負に参加できていないヨロクは、謎の少女ヤミと、謎の少年の一騎打ちを、臍を噛むような思いで眺めていた。
◇◇◇
(ここまでうまく打ちまわしてきたんだ。そろそろ俺にもチャンス手が来てもおかしくないはずだ、が……)
東三局。とうとう親番を迎える。
淡々と手を進めて、とうとう絶好の牌姿にたどり着く。
②④⑥⑥⑥2345二三四四 ツモ③ ドラ7
目に見える三色。俺は5索に手をかけた。
「(……5索? 手狭じゃないか?)」
「(……かもな。だが負けている今、三色は崩したくない)」
マオからの耳打ち。しかし、ここは打5索に構える。
同じ仮テンでも違いがある。
打四萬ならダマでも待ちが広く、三面張変化も残る、という利点があるが、索子にくっついたときに三色が崩れる恐れがある。
一方、打5索の四萬残しのほうは、萬子にくっついても三色が崩れにくい。反面、一萬での出あがりは不可能となる。
和了率を高めるなら打四萬。
だが、打点を追うなら打5索。
8000点ほど負けている今、ここは四萬残しに構える。
(……本当は、両面変化の1346索と三五萬の数の差を考えると、5索を残すのが俺らしい麻雀だけど)
三色とタンヤオの消える1索を有効変化だと考えず、さらに三色が崩れる危険性のある36索を半分ぐらいの価値だと見積もったとき、本当に嬉しい索子の変化は4索ツモ、次に6索の三面張がまあまあぐらい。
萬子のくっつきとの差は、先ほどのあまり嬉しくない両面変化の価値がどれだけあるか、で左右される。
負けている今は、ピンフのみになるような上記変化を望んでいないのだ。
もちろん、筒子を引くのが一番なのだが――。
(……しくじったな、ピンフのみやタンヤオのみになってもすんなりあがって、親の連荘になってもいいじゃないか)
6索、③筒、と無駄ヅモが続く。
6索に至っては完全に裏目である。
少々苦い気持ちになっていたところに二萬をツモってくる。
(……カン三萬に取るのは不服。かといって、ツモ切りしても、三萬五萬引きの両面変化の片方がフリテンになってしまう。もう潮時だな)
四萬のくっつきの価値が半減した。
巡目も10巡目と中巡目。
これ以上四萬を引っ張る意味はないと考えて、二萬受けに変える。
(亜両面の二五萬。待ちの枚数としてはそんなに強くないが、二萬は俺の山に積まれた三萬の壁で使いづらくなっている)
使いづらい牌ということは、それだけ黙聴の出和了を狙える牌、ということでもある。
二萬は、五萬をツモったときに押し出される、潜在的な余剰牌なのだ。
例えば、二三四の出来面子。
五萬をツモったとき、五萬との危険度の比較で、二萬をスライドで打ち出す打ち手は多い。
他にも。
二四のカンチャン。
二四六のリャンカン型。
これらの形でも五萬をツモったとき、二萬を打ち出す形になる。
尖張牌の三萬が俺の山に死んでいる。
つまり、出来面子からのスライドの可能性は減っているが、逆にカンチャン・リャンカンを残している他家からのロンのし易さは高まっている。
二三四四の四萬片あがりの仮テンよりも、二二三四で仮テンを取った方が微差で優秀。
(……筒子を引けばリーチ。だが今は仮テンに受けて十分)
ヤミを見る。
ヨロクが出してもロンするし、タコナキ氏が出しても倒すが、ヤミから狙うのが一番である。
図らずとも悪くない待ちになっているこの二萬。
だが、目のあったヤミの口元が歪んでいるのが分かった。
(……笑っている?)
一瞬嫌な予感が脳裏をよぎる。
うまくは言えないが、もしかするとヤミが二萬を止めてしまったのではないか、という懸念が胸の内に湧き上がってきた。
◇◇◇
(10巡目。対面の少年は、四萬の手出し。ツモって来たのは、跨ぎ筋の二萬。三萬の情報は一枚も河にない)
22456四五八八八②④④ ツモ二
イーシャンテン。ツモ切りの一択だが、ヤミはもう手じまいを考えていた。
対面の少年が③筒を一枚切ったせいで、カンチャンの②④があまりにも苦しい。それに、先ほどからツモが異様なのである。
ペンチャンは全く埋まらない。
ツモが異様に456の方向に偏る。
(……聴牌を狙うなら、ここは当然の打二萬だけど)
親にドラが固まっている可能性は十分ある。
(③ツモ切りは、下の筒子が完成してるのか、⑤⑥、⑥⑦あたりの両面が既にできているか、かしら。二五萬が打てない以上、今は苦しい筒子のターツを払いたいけど、②筒が通るかしら)
――打②筒。
◇◇◇
(打②筒? ⑤筒でも引いて②④⑤→打②筒、とでもなったのか? それとも無筋の危険牌をツモって降りたか、だが……)
一瞬、対面のヤミの打牌が気になったが、情報がないので推測を一旦止める。
ツモ④筒、となったところで、手が止まった。
②③④⑥⑥⑥234二二三四 ツモ④ ドラ7
①④⑤筒待ちの聴牌。そのうち、黙聴の効く④⑤は三色がついて高目。
当然打二萬として①④⑤に受け変える。
(当然、二萬のほうが出和了は期待できる。だがこっちは、高目のツモ和了の枚数が三倍近くある。こちらのほうが有利……)
③筒は俺が一枚手にあるし、一枚河にツモ切っている。
⑥筒は俺の手元で暗刻になっている。
だから、④⑤が普通より使いづらい、という側面もある。
黙っていればポロッと出てロンできるかもしれない。
◇◇◇
22456二四五八八八④④ ツモ五
(……どうしたものか。二五八の筋が固くなってしまった。でも今通ったのは二萬だから……)
二四萬と落とせる。次に切るのは、五萬、その次は2索のトイツ落としだろうか。
(……対面の子は、四二と嵌張外しをしている? となると他の部分で嵌三萬よりもいい待ちを作っている、かしら)
想定する。
仮に、あの四萬二萬が嵌張外しだとすると。
四→二と嵌張を内切りしているということは、四萬が瞬間的に五萬ツモで両面変化する受け入れを拒否しているということになる。つまり他の待ちは両面以上である可能性が高まる。
ロナルドの河:
西發九八西56③中四二
(手出しは西、發、九、5、四、二……)
よくあるケースは、二四六七からの四→二外し。
となると、待ちは六七萬使いの五八萬となる。
手にある五萬と八萬は、暗刻筋ということも合わさって、あまり切りたくない牌になってしまう。
だが、河に八萬が捨ててあるのでその可能性はなくなる。
そうなると、他の両面があるということになる。
次によくあるケースは、二四四五からの四→二外し。
だが、順番がおかしい。
普通は、リャンメントイツの四四五の四シャンポン待ちを大事にするので、牌理としては四→二と切るより、二→四と切るのが正しい切順になる。
二四七八、は九萬が河にありフリテンなので気にしなくていい。
二四五六なら四萬を切っているのでおかしい。
二四三四も二四二三も違和感がある。
つまり、萬子は変則待ちを除き、両面待ちが殆ど無いように見える。
(……打5索の時点でイーシャンテンに見えたけど、気のせいかしら)
ロナルドの河:
西發九八西56③中四二
手出し:
西、發、九、5、四、二
(手出し5索、その後のツモ切り6索が奇妙ね。556から5を切ったら6をツモってきた、かしら? それとも35に2をツモって、5切り?)
索子も、147索の筋を警戒すればほぼ通せそうに見える。
筒子は③筒のツモ切りのみ。
こうなると、相手の待ちは筒子が本線のように見える。
(……四二嵌張外しが真実だとすると、まだイーシャンテンぐらいで、全然シャンテンが進んでないように見える。危険牌の④筒を切るなら今のうち。でもこれが聴牌だとすると……?)
四二外しは単騎待ち変えの可能性も僅かにある。
――打二萬。
◇◇◇
ヤミの打二萬を見る。
(……待っていれば出してくれた二萬、だろうか。それとも読まれて止められた二萬か)
振り返る。
俺の手出し5索でイーシャンテンぐらいと読み、手出し四萬でダマの聴牌を警戒したのだとすれば、ヤミは相当俺を警戒していることになる。
二萬ぐらい、まだぎりぎり通る、危険だから今のうちに切ろう、と思いそうなものだが。
そこまで警戒しているということはつまり。
(……ヤミはまだ聴牌してないし、手も安い、ということだろう。オリに回ったか)
オリている、となれば、おそらくもう筒子は出てこないだろう。
④⑤筒の出和了が期待できない以上、ここはリーチとなる。
①でもツモ和了する。
(……⑧ツモで⑥⑥⑥⑧の形になって、⑦⑧待ちの面白いリーチになったが、ここはツモ切りでリーチでOK。⑦筒が山に死んでいる)
逡巡の後、⑧を横向きにして河に置く。
「……リーチ」
◇◇◇
(……ツモ切りリーチということは、聴牌だったのね)
そうなるとやはり四二萬の嵌張外しは、単騎待ち変えの可能性が濃厚になる。
下の萬子にくっつけた待ちから、他の色の出来面子にくっつけた待ちに変化した可能性が濃厚。
四萬より二萬が大事になる形は、二三四の形や、一一一四五六などの出来面子の形だろうか。
ともあれ萬子はほぼ大通し。
(……⑧をツモ切りしてリーチというのは、直前の私の打牌を見てリーチを決めたのか、それとも⑧ツモが裏目だから今の待ちでリーチ、のどちらか)
前者なら、黙聴でも出ないだろうと判断してのリーチ。
後者なら、例えば⑥⑥⑦⑧の亜両面を仮テンにとって、何かの好形変化を待っていた、だが裏目のツモ⑧が来た、などが考えられる。
(……後者ならともかく、前者だとまずい。得点で負けている癖に黙聴に取ったということは、高打点の可能性が高くなる)
22456四五五八八八④④ ツモ六
(五萬を切って仮テンね。次に筒子をツモったらオリ。果たして、⑤、⑥をツモったとき④は勝負できるかしら)
――打五萬。
◇◇◇
三萬、4索、と裏目のツモを引き寄せたとき、俺は苦笑してしまった。
(なんだこれは)
筒子に待ち換えしなかったら、カン三萬で和了している。タンヤオ三色一盃口。
もしくは索子の5索を残していれば4索ツモで和了していた。ピンフタンヤオ三色。
(こんなに裏目を引くなんて、そんな馬鹿なことあるはずが……)
2索。
5索を残していれば、もしかしたらこの2索でもツモ和了していたかもしれない。
(……まさか、な)
そっと2索を河に並べたとき、対面の少女が顔を上げた。
「ロン」と細い声。
倒される牌。
22456四五六八八八④④ ロン2
「タンヤオ。1300」
東三局終了時点。
ヤミ:36400
ヨロク:22800
ロン:24100
タコナキ:16700