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1-5 百三年目の看板娘

 星の創造から百年、ようやく人類が暮らす町をつなぐ街道が出来た。自分で言って信じられないけど、紛れもない事実。

 地球をコピーしたという星に対して、最初に創造した人類は少なすぎた。おかげで、隣町まで平均千キロという状況だった。

 その後の百年間で人口が増えて、神の端末の判断で新たな町も増えたが、それでも近くて三百キロはある。それだけ離れていると互いに行き来しようとも思わないのだ。

 さらに、町も街道も、端末を通して神さまに造ってもらう。ところが創造主の闇の神は、街道をつなげと命じなかったので、どの街道も山中で途切れて役に立たなかった。

 で、どうにか街道はつないだ。そして、役所と冒険者ギルドには、他の町との連絡手段――テレビ電話――を設置した。孤立から流動の時代に、その時、歴史は動いた。


「相変わらず祐子は詩人ねー」

「うっさい闇」

「そんな子に育てた覚えはないわ、創造主ちゃん悲しいなー」

「何が創造主ちゃんよ、クソ闇でしょ」


 我ながら言葉遣いが悪い。でも、それぐらい非難されても仕方ないと思う。なんたって、百年分を「早送りした」神なんだから。


 そうしてやって来たのは、一の町駅。駅前通りの突き当たりに、レトロな木造駅舎が建つ。えーと。


「モデルは二条駅だってさ。うちのダーリンがねー」

「闇のダーリンって何よ」


 あまり解説しなくないが、闇はその瞬間だけコート姿で口元に棒のようなものが見えたよ。もちろんコートはヨレヨレ…って、黒い影しかないのにそこまで分かってしまう自分が悲しい。


「うらやましい? 祐子もこの町でいい出逢いがあるのかなー」

「誰に出逢うのよ。人間は無理でしょ?」

「無理ってことはないから。祐子が気に入った男を神にすればいいだけー」

「言い方!」


 要するに、闇が私を神にしてしまったように、私も望んだ誰かを神にできる。この場合の神は、誰かに敬われるとかいう部分はなしで、単に人智を超えた力を使えること。

 今でも各町に置かれた神の端末は、私の支配下にある。だから端末が恋人になれば解決…って、考えただけで寒気がする。

 そんなことより、闇の彼氏の存在の方が遙かに重大な問題な気がするけど、正直言えばあまり興味がない。他人のノロケ話を聞かされるほど時間の無駄を感じる時ってないよね。ね?


「そろそろ仕事に移らない? 私ってこれでも忙しいの」

「ご、ごめん」

「祐子にしては素直に謝ったわねー」


 さすがに自分でもくだらない妄想だったと反省してるんだ。


 気を取りなおして、一の町駅を視察する。

 ちなみに、松野市になったのに駅名が古いままなのは、造り替えた時に合わせて改名予定だから。まぁどうせ松野駅だし、勿体ぶる理由はないけど、誰も使ってないから改名を望む声すらなかった。


 駅舎は地方の小さな駅よりは大きく、切符売り場の窓口が三つ、また待合はちゃんと独立した部屋になっている。無人の待合室には長椅子が十八も並び、奥にはキオスクを摸した売店があった。


「ええ…、こんなところまでそのまんま?」

「いいんじゃなーい? どうせ日本人だって意味知らないでしょ?」


 店には思いっきりキオスクと書いてあった。確かに私も意味は知らないけど、ここまで忠実に持ち込む必要って何?

 店舗に並んでいるものを見て、さらに呆れる。

 そこには、日本のキオスクにあるような飲み物食べ物、お土産などが並んでいる。


「タバコはないからねー。もしかして祐子は喫煙者?」

「吸わないからいいけど、もしかして人類の健康のため?」

「もしかしなくてもそうでしょ。まー、考えたのはダーリンだけど」


 いわく、鉄道は闇も詳しくないから、駅を造る時は彼氏の意見を聞いた、と。はいはい、おかげで異世界なのに地球の商品が並ぶ店が出来たのは、彼氏の責任じゃないでしょ、たぶん。

 店番のお姉さんが言うには、毎朝何もしなくとも商品が補充され、珍しいものが多いので固定客もいるらしい。

 ただし、この星の物価に比べて異常に高い。ペットボトルのお茶一本が、日本円換算で二千円。よほどの物好きしか買わないから、お姉さんは暇そうだ。

 なお余計な情報だが、お姉さんは百三歳。駅が造られたその日から看板娘を続けて百三年。悪い冗談。


 駅で働いているのは、このお姉さんを含めてわずか五人。全員が百三歳、百三年の勤務で培ったチームワークはさすがの一言…なら良かった。

 窓口業務は、年に一枚程度の入場券。

 運転士二人は、「しづか」と書かれた蒸気機関車を毎日一往復。ただし乗客はいない。三キロ進むと線路は途切れ、バックで駅に戻ること百三年。助士の義平さんは、これはおかしいと疑問を抱きつつ、神さまに与えられた職務を全うしていた。

 静御前に悪源太って何の冗談かと思うが、もう既に何もかも冗談の世界、ツッコミも枯れる。


「で、闇の創造主様、ご感想は?」

「悪かったと思ってるから、協力してるのよ。がんばれ祐子」

「貴方ががんばるのよ!」



 とりあえず、職員の皆さんにはいったん外に退避してもらう。駅舎から少し離れたところに、職員用の宿舎が建っている。これも某ダーリンが造るよう主張して、何の役目も果たさず存在していた。

 闇は駅舎内にあった備品や商品などを、すべて宿舎内に移動させた。呪文を唱えることもなく、一瞬ですべて消え失せた。

 その上で、我々も宿舎に移動、使われていない一室でまたもや地図を広げた。なお、闇と一緒に移動したので、職員には二人の姿は見えていない。


「本当は上空から確認するのが早いんだけどなー、祐子」

「無理に決まってるでしょ」

「今のうちに慣れときなさいよー」


 ちなみに、現在の松野祐子は空を飛べる…らしい。マンガで見たような魔法も使える。創造主が自ら創造した世界にいるのだから、出来ないことはない。それを頭では理解しても、松野祐子の常識が拒絶する。

 空中で確認作業なんて、気が散って出来るわけないのだ。


 作業は一瞬だった。

 事前に闇はプランを作っていた。信じられないことに。

 そしてそのプランは、私には理解出来なかった。恐らく、闇も理解する気がない。つまりそれは、闇のダーリンは実在する!

 あ、どうでもいいか。



「職員の皆さん、これからは仕事が山ほどあるそうです。最初にこれを読んでほしいと…」


 つい数分前とは何もかも違う景色に、さすがの百三歳も唖然としている。

 松野駅は巨大な高架駅になった。とりあえず、私にもそれは分かる。そして、少しだけ駅舎の位置がずれて、高架下を駅前通りがくぐった。その先がどうなっているかは知らない。


「祐子も読んでね。勝手に頭に入るから楽よー」

「な、何これ!?」


 職員に渡された書類と同じものを手にした瞬間、その情報が一気に流れ込んでくる。膨大な情報、松野祐子の意識が確実に飛ぶレベル。

 でも飛ばなかった。

 端末のハイスペックな身体は、人類には過剰な情報量も簡単に処理してのけた。


「自分が人間じゃないことを実感する」

「どうしても実感したければ、力を抑えた分身でも造ればいいのよ」

「分身がいる時点で人間捨てたよね?」

「祐子はとっくに人間捨ててるのよ。過去の自分にしがみついているだけで」


 …………語尾のばせよ、闇め。

 急に逃げ道のない台詞で追い込んでいく。本当の闇が、端末なんて話にならないハイスペックだと理解させられる。こんな程度でも。



 この日、端末のある町のすべてに意味もなく存在していた駅は、すべて高架線で接続された。

 海で隔てられた町には海底トンネルを通して、一つの例外なく鉄道はつながった。線路の規格は日本以上、超伝導リニアに似ているが魔力で浮上させ、魔力で制御するらしい。時速は七百キロは軽いらしい。

 ―――――と。

 無理矢理インストールされた知識を披露しても、すべては他人事。

 今の自分に関心があるのは、二の町や三の町とは通勤通学が出来るほど近くなること。そして、線路は町をつなぐ以外に、ゲームの残骸、ダンジョンへも通じたこと。


 そう、残骸だ。

 現人神の松野祐子は、もはや世界の異物と化したゲームの残骸を処理しなければならない。


「鉄道でこれだけ出来るんなら、ギルド関係も闇に任せたいわ」

「残念だけどねー、それは祐子にしか出来ないの」

「なぜ?」


 闇は一仕事終えた表情でふんぞり返った。闇の表情なんて分かるわけないって? 残念なことに、ハイスペックな身体は勝手に理解してしまうんだ。


「ダーリンはねー、ギルドはロマンだからそのまま残すべきって言ってるのよー」

「ダーリンはさっさとモンスターに襲われろ!」


※そんなわけであっという間に第二部終了。

 他人のお話を読んでいると、何百歳から数千歳まで長命な方がそこら中にいるが、そういう人たちの時間感覚がきちんと書けていると思う例は滅多にない。

 まぁ実際にはほぼ忘れてるはずだよね。脳のスペックが人間と大差ないのに長命だったら、生きていた時間の大半の記憶が抜け落ちているはず。この話の百三歳は、まだ地球人類でも不可能ではない寿命なのでアレだけど。

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