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1-3 町を拡大する

 非常識なことは、さっさと終わらせたい。

 創造主の仕事をなくすために、百年前の課題を片づける。


「祐子様、我らからの要望はこれですべてでございます」

「ごめんなさいね市長さん、急かしてしまって」


 闇の神が、ゲームの舞台のためだけに創造した星は、一見すると普通に人間が暮らしているようだけど、細部におかしな部分が目立つ。

 二十世紀半ばかそれ以上の文明水準みたいなのに、電気もガスも水道もない。まぁ水道と照明は魔法でどうにか出来るらしいけど、今後は一気に町が汚れていくだろう。

 どうにかしようにも、行政は役場改め市役所だけ。市長は百年前から町長だったし、職員の半数も百年同じ職場。一応、人口増加に応じて役場も大きくなったけれど、基本的に神の庇護下にあったから業務は限定的だった。

 警察もあるけど、例えば家財一式は百年間護られていたし、飢えることも老いることもない社会で犯罪は少なかった。人類総無気力だった最初の数十年は、犯罪も全くなかったようだ。


 それらを創造主が解決する…というのはない。創造主は神話上の存在になって、端末もすべて撤去されなければ、この星は普通にならない。

 そのために、いびつな箇所だけ最低限手を入れて、後は任せる。新生松野市役所には、そのための下準備を頼んでいた。


 市長が運ばせてきた書類は、ダンボール箱三つ分。たった一週間でこれだけの量になったのは、市民に好きなことを書かせて、ただ集めて運んだためだ。

 普通なら集計を取ったりするけど、その必要はない。

 創造主の能力は非常識だから、届いた瞬間にすべての書類の内容は頭に入ったし、勝手に整理された。それどころか、一枚一枚の書き手の記憶すら流れ込んでくる。松野祐子の意識を向けすぎると、その膨大なデータで人間としての意識が飛ぶので、なるべく考えないようにしている。

 もちろん、役所に頼まなかった理由は他にある。

 要望は要望であって、聞く気はない。だって創造主だもん。


「闇の意見は聞く。というか、闇任せ?」

「祐子がやんなさいよー」


 闇の神、つまりこの星の創造主は、一応は上司みたいなものだ。そして、混乱をもたらした張本人だから、これからやることはすべて闇がやった形にする。実際は私がやったとしても、闇が責任をとった形にするわけだ。あーなんて上司思いのやさしい部下なんだろう。


「記憶を覗かれてるのに堂々と嘘をつくって、祐子は大物だわー」

「胸のサイズは小物ですみませんねっ!」

「許容範囲だからー」


 で。

 神殿一階の会議室のテーブルに、巨大な地図を広げている。

 それは紙だけど、何とかマップみたいに拡大縮小出来る便利なもの。神がそうしたいと思えば実現してしまう。

 今は松野市の人間が居住する範囲のすべてが見えている状態だ。


「道路が滅茶苦茶」

「最初は整然としてたはずなのよー。一応、長安みたいな碁盤の目にしたから」

「なんで長安?」

「そりゃ一の町は始まりの町だからさー、都城って感じにしたのよ。センスいいと思わない?」

「平安京でいいのに」

「そこは大元の方がいいでしょ? でっかいしー」


 まぁ確かによく見れば条里制の都市っぽい。ただし闇がそれを造った百年前、一の町の人口はせいぜい一万人。その人数で巨大な都城を与えられても、持て余すのは当然だった。

 しかも、都城の形はしているけど、造られたのは大路だけで、間はスカスカ。というか、大路が全然広くない道だ。

 その上、役場は国会議事堂だし、街並みは昭和の日本だし。皇帝の宮殿造られても困るけど、こんな街並みにするならもっとふさわしいモデルがあったはず。


 結果、百年の間に大路はびっしり住宅で埋まった。しかし間はスカスカなまま、道も狭いまま。そして、あぶれた人たちのために端末はどうしたか。機械的に道を延長しただけだった。

 おかげで都城の長方形はズタズタ、もはやモデルの面影は全く残っていない。

 その上、現状は西が狭く、東にひたすら道路が延びている。それは西側に役立たずの線路が通っていて、道路がそこで止まっているせいだ。

 踏切が一切造られなかったのは、線路が神に与えられたため…って、踏切を造るのも神じゃないんかい!


「すごいわねー祐子。都市シミュレーションをオートで進めたみたい」

「貴方が感心してどうするの。当事者でしょ?」

「一応は当事者だから、祐子の補佐役やってるのよー」

「一応じゃないっ!」


 今後、この星をどうするかは「自由」になった。

 実際には、神の統治区域という部分が残る。それは要するに、人間が開発しない区域という意味で、星全体の半分に及ぶ。

 半分と言えば巨大に思えるが、現時点で人類が関与する面積は星の一パーセントにも満たない。それに、神の統治区域には高山や深海などが含まれる。地球でいうところの国立公園や天然記念物みたいな指定区域を、人類が立ち入る前にあらかじめ設定しておくだけだ。

 なぜ神が統治するかって? そりゃ、闇の神が迷惑をかけたのは人類だけじゃないから。人類以外の生命体にも詫びを入れるのが筋ってものでしょ。



「この道は祐子様街道と名付けられた」

「闇の街道でいいです」


 神明明神の裏、料亭が並ぶ柳小路の一本東側を、新たな中心路とする。どこかにそういう道を通すと告げて、市民の意見を募った結果、そこに決まった。

 現在の中心路の松野銀座通りは、拡幅消極派が多かった。商店街がだだっ広い道になるのは歓迎されないようだ。

 ともかく、新中央通りはそのまま南北に延長され、それぞれ二の町と三の町への街道となる。闇がやらかした問題の上位に数えられる、隣町へ行く道路がない問題を解決する。

 残念ながら、松野市から直接つなげられる町は二つだけ。とにかく、すべての端末に命令して、端末のある町は一斉に街道でつなぐ。


「鉄道と航路は後回しね。闇もちゃんと考えてよ、私は詳しくないし」

「しょうがないなー。じゃあ、その時は専門家を呼ぶから」

「専門家? というか、闇に仲間がいたの?」

「仲間じゃなくて、彼氏ですけど何かー? 二十四時間ラブラブですけどー」

「うっざ」


 彼氏の話題は聞かなかったことにする。呼ばなくていいから。


 結局、一時間ほどかけて地図上の街並みを造り替えた。素人二人で町を改造するなんて、悪い意味で神の所業としか思えない。

 中心路は片道三車線に歩道つきで、他に東西南北それぞれ八つの通りを片道二車線に。銀座通りは歩道をつけて幅を少し広げた。長安や平安京は無視したけど、元の街路をだいたい拡幅したので、それっぽい痕跡は残っている。

 なお、闇は長安をモデルにしたくせに、城壁も門も造らなかった。近代都市にとって邪魔だという認識はあったらしい。それなら最初から近代都市をモデルにすれば良かったのに。


「祐子はイヤミを言わないと生きていけない生物ねー」

「創造主ならそれなりの責任をもってって言ってるの」

「そう? 地球に創造主がいたとして、何か責任取りそう? 恐竜が滅んだって氷河期で大量死したって知らんぷりなんでしょ?」

「貴方って、追い詰められると語尾がのびなくなるわ」


 地球に創造主なんていないから、どんな言い訳しようが無意味。もちろん私には、創造主の有無なんて分からない。でも、地球に住んでいる闇なら、自分と同じ力をもつ存在に気づかないはずがない。


「これで…いい?」

「祐子はいいんでしょ?」

「最後は貴方が決めて」


 すべての人家の再配置も終わって、ついでにすべての街路に街灯と上下水道を通す。主要道路はコンクリートとアスファルトの本舗装。至れり尽くせりの大盤振る舞い。創造主の最後の置き土産第一弾…と、町中にアナウンスが響きわたった。

 ……うん。

 松野祐子の声で。


「自分の声で告げなさいよ!」

「この町の現人神でしょ? これでありがたやランクも上がるわねー」

「そんなランクがあるかっ!」


 次の瞬間、松野市は拡大した。

 手元の地図に造った新しい町が、一瞬で現実に変わる。すべてを知っていても、心臓が止まりそうなぐらい恐ろしい。

 姿を隠したまま、闇と並んで外に出てみれば、駅前通りは日本でよく見かける広い道に化け、銀座通りも対面通行可能な幅に立派な歩道がついた。そしてあちこちの家から人々が飛び出してきて、変り果てた町を見て騒ぎ始めている。


「思ったより騒いでいない?」

「そりゃそうでしょ。端末が似たようなことをやってきたんだからねー」

「私を見ないで」


 私が乗っ取った神の端末は、頼まれればちょっとした道の延長ぐらいはしてくれた。百年間そういう生活に慣れた住民にとって、町のすべてが変わる経験は初めてでも、そこまで驚く事態ではなかったわけだ。

 そんな無茶な…。


※異世界スクラップアンドビルドって、ありそうでない? まぁなろうの膨大なストックにはいくらでもあるか。1章で鉄道まで進めて、2章は冒険者ギルド偏。予定というか、もう2章もそこそこ書いている。

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