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1-2 とりあえず露天風呂を創造してみる

 日本での生涯を終えて、わずか一ヶ月のある日の夜。

 松野市在住の現人神こと松野祐子は、その能力を使う訓練を始めなければならなかった。


「何から何まで闇任せでいいと思うけど」

「闇ちゃんはねー、忙しいのよー」

「語尾のばすな、わざとらしい」

「相変わらず祐子は辛辣だわ、新しい何かに目覚めそう」


 闇の創造主の端末は、百年間にわたってこの星のインフラ整備を担ってきた。最初の町建設だけでなく、爆発的な人口増加に応じて、ある時期までは住宅の建設もしていたらしい。闇の言うところの、無気力住民ばかりだった頃の話だ。


「無気力なのに子どもは作るっておかしくない?」

「無気力だから、動物に近い行動を取ったのかもねー。祐子もヤッてる時はさかりのついた野獣になるでしょ?」

「私に相手がいなかったことぐらい知っているんでしょ。神なんだから」


 自意識がぼんやりしている健康な男女は、類人猿の一種みたいなもの。だから種の保存のために生殖活動に励んだ…と、なんだか想像したくない歴史。

 ただ、この星の人類の出生率は、百年前が爆発的に高く、五十年ほど前から徐々に下がっているという。下がったと言っても、出生率は五に近いけど。

 爆発的な頃は二十を超えていた。何しろ百年間の不老不死を与えられたので、百歳の男女でも肉体的には二十代のまま。子育てがしんどいという意識が生まれなければ、百人生み続けることだって可能だった。あ、物置は想像するなよ、絶対だぞ。



「それで、最初に造るのがお風呂ってさー、祐子って狙いすぎじゃない?」

「何を狙うって」


 百年の猶予期間が終わった今、端末の仕事は限られていた。それでも、役場の補修などは端末任せ。まぁそれは、端末にしか現状変更が出来ない仕様にした闇のせいなんだけど。

 その問題は、もう解決した。

 創造主の神は、人々――だけではなく全生物――に自由を与えた。なので神が与えたものだろうが、好きに変えられる。その代わり、放っとけば経年劣化する。生命体の不老もなくなったから、もうこの星は普通の星になったのだ、と宣言した。

 だからいずれ、端末の仕事はなくなる。端末を引き継いだ自分の仕事もなくなる…けど、その前にやっておきたいことはあった。


「じゃあまずは湯船を造りなさいな」

「どうやって?」

「イメージと意志表示。祐子は私の能力を持っているんだから、それだけですぐに出来るわよーーぉぉぉ」

「だから語尾のばすな!」


 とにかく、ミニ創造主になった以上はその能力を使えないと困る。なので、闇にバカにされようと露天風呂を造るのだ。

 理由は単に、ユニットバスが狭かったから。「最高級」のビジネスホテルのユニットバスは、闇のイメージが貧困なせいで安っぽかった。


「ちょくちょくイヤミを忘れないわねー。さすが端末を奪った女」

「イヤミではなく、闇の正体を推理してるだけです。さっさと名前教えなさい」

「ふっ、それは出来ない相談だな」

「誰の真似よ」


 よく分からないアドバイスのまま、神殿裏の空き地で露天風呂をイメージしてみる。

 悲しいことに、露天風呂に入った経験はほとんどない。なのでテレビで見た景色を…………。


「ユニットバスを石で囲むなんて斬新ねー」

「だ、誰だって失敗はあるのよ!」


 目を開けたら湯船は出来上がっていた。ぼんやり「造りたい」と思っただけで、現物が出現するのは素直にすごい。すごいけど、その出来の悪さは否定できない。


「あのねー祐子。そういう時はちゃんと資料を用意しなさい。うろ覚えで創造したら恥かくだけよー」

「資料って…。この星でどうやって手に入れるのよ」

「図書館に何でもあるでしょ? この星に必要な本が揃っているはずだし」

「…という設定なわけね」


 何度か造り直して、だんだんそれっぽく形は出来た。試行錯誤しているうちに、イメージすれば出現するという非常識には慣れた。

 ただ、それでも詰めが甘い自分。湯船の見た目は造れても、温泉露天風呂をシステムとして造ることは出来ない。結局、肝心な部分は闇に任せた。



「すごい身体だわー、祐子って」

「貴方の身体でしょ!」

「私はぁーもうちょっとぉー大きいけどーぉ」

「うっさいなぁ、語尾のばすな!」


 出来上がった露天風呂に二人で入った。真っ黒な闇と、その闇の身体を元にした自分。ほぼ双子のようなものだけど、片方が人間の姿をしていない。

 そして相変わらず、自分の身体を見て鼻血が出そうになる。ただし、目の前の本物にイヤミを言われると、さすがに萎える。どうせ地球時代はこの半分もなかったよ!


 闇はそれでも、イヤミを交えつつ一通り教えてくれた。

 例えばこの露天風呂は、一応街路に面してはいないけれど、その気になれば覗ける場所にある。しかし、隠蔽するよう命じれば、囲いを造らなくとも誰にも見えなくなる。そういうのもイメージで解決するらしい。

 そして、温泉のお湯だ。ここに泉源はないのにどうしているかって? 闇はどこかからお湯を引いてきた。離れた泉源と空間をつないだ。もう何がなんだか分からない。


「つまり、こういうことよ」

「ひっ! な、何すんの!!」


 突然アレを揉まれて、みっともない声をあげてしまう。

 …………。

 闇は離れたところにいる。目の前には何もない…のに、今も自分のアレは形を変えていた。


「やってみなさいよ、祐子」

「…………」


 かなりむかついたので、試してみる。どうすりゃいいのか見当もつかないけど、とりあえずアレを握りつぶせと命じた。

 すると確かに、闇にその手が届いた…気がした。


「何もつかめないけど」

「残念ねー、この姿をつかめたら良かったのにねー」


 ふざけるな、と腹を立てても方法はなかった。自分は攻撃されない状態で、こっちを攻めるなんてずるい、ずるすぎ。というか…。


「いつまで揉んでるのよ!」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」

「自分のを揉めばいいでしょ! そっちの方が大きいんでしょ!」

「この程度の違いは許容範囲だから」

「語尾のばせ!」

「祐子は面倒くさい子ねぃぇぃぇぃぇぃ」


 あー鬱陶しい。振り払おうとしても触れないから、無視して肩まで浸かった。

 頭上には満月が輝く。

 日本をベースに闇が創造した星は、地球とうり二つのサイズで、ついでに太陽系すらうり二つ。


「星空までそっくりなのね」

「コピーしたからねー」

「何を」

「宇宙まるごと、よほほほほぉー」

「いろいろ遊ばなくていいから」


 知っていても頭が受け入れようとしない現実。

 こんなふざけた真似をしている闇が、宇宙を複製してのけた。理由は簡単、地球と同じ環境がほしいから、地球の生命体以外はうり二つの宇宙を用意しただけ。口にするだけで頭痛がする。


「祐子も自分の宇宙がほしい?」

「謹んでお断りします」

「まぁ断わったって、この宇宙は祐子のものだけどねー……っと、この辺が弱いでしょ」

「そんな攻撃が効くか、闇の邪神め」

「邪神なの? こんな立派な身体を無料であげたのにー?」


 傍から見れば風呂場で騒ぐ子どもだった。

 はっきりしたのは、闇に揉まれても興奮しないという事実だけ。もしかしたら、まだ自分の身体を受け入れられないだけかも知れないけど――――。

※異世界モノのお約束の露天風呂は、男性読者向けのサービスとして有効なんだろうけど、押し付けがましい感じがして好きになれない。と思っている奴が書くとこうなるわけでござる。

 闇と祐子はここまで仲良しになる予定じゃなかったので、今後どうしようか悩む。まぁ出たとこ勝負で。

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