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1-1 松野市誕生の巻

※第二部開始。第一部「創造主誕生編」も、あっという間に読めるのでよろしく~。

「それでは新たな町、松野市の誕生を祝して!」

「かんぱーい!!」


 元「一の町」の役場前。広場というほどの広さはないのに、ギッシリ詰めかけた市民は一万人以上。まるっきり日本の景色…というか、昔の日本みたい?

 現人神としてこの町に住んで一ヶ月足らずの私は、仮ごしらえの朝礼台みたいなものに立っている。上に乗っているのは四人。


「これも祐子様のご尽力の賜物でございます。ささ、御酒を」

「…本当にこの名で良かったんでしょうか」


 元一の町町長は、暫定松野市長に。そもそもこの星に「市」はなかったので、初の市である。

 もっとも、これは自称でしかない。何しろ、この星に国というものはないわけで。


「市民の圧倒的な支持を受けました。神さまの御名をいただけるなど、この上ない幸せでございます」

「はぁ……」


 神さまの御名。日本の居酒屋アルバイト二十代女性だった松野祐子の御名をありがたがってどうするのやら…とは言えない。

 もう既に自分は現人神だから。


 松野祐子は、隕石の直撃という冗談のような事故で死んだらしい。眠っていた自分には、死の瞬間の記憶がないので何の実感もないけど、とにかくそうして飛び出した魂は、日本をモデルに創造された異世界の星に引き寄せられた。

 さまよえる魂を求めていた星。しかし松野祐子の魂は、人間ではないものを乗っ取った。星の創造主があちこちに設置した端末の一つだ。おかげで私は、日本の記憶をもったまま、ミニ創造主になってしまう。


 まぁ―――。

 そこで拒絶すれば、闇の姿をした創造主はたぶんどうにかしてくれたはず。端末から松野祐子を分離するぐらい、本物の神にとっては簡単な話だ。


 拒絶しなかった理由はいろいろあるけど、結局は死にたくなかった、それだけだ。

 人間に魂を移した場合、記憶は失われる。いくら思い出したくない生活だったとしても、不本意な死で終わるだけなんて嫌だ。


「そういう露悪的な性格も創造主に向いてるのよねー」

「うるさいなぁ」


 どう取り繕ったって、自分のために決まってるでしょ。相変わらず予告もなしに現れる闇の神につぶやく。

 なお、闇は市長の頭の毛を引っ張って遊んでいる。市長は怪訝な表情で辺りを見まわすが、闇の姿は私にしか見えていない。それどころか、髪の毛を引っ張るたびに市長の姿も周囲から消えてしまう――闇とつながった瞬間だけ、闇の一部になる――ので、あちこちでざわついているようだ。


「やめなさいよ。この星にハゲはいないんでしょ?」

「なら祐子のリクエストもあったし、市長を第一号にしようか。どうせこれから大量発生するんだしー」

「赤潮みたいに言わないで」


 闇は闇なりにはしゃいでいるようだ。恐らく、その中身は自分と同じぐらいの年齢の日本人。時々人類には理解出来ないけど、似た者同士に思える。



 この星に存在する神の端末は、きちんと数えてみると四千。百年の間にどうやら勝手に増えていたらしい。

 大元の闇との相談の上で、すべての端末を通して、今日のこの日について伝えている。

 それぞれの端末単位で、同様に市制を敷く。さらに、端末同士を通して国を作るための協議会を開く予定になっている。

 もちろん、ほとんど交流もない町同士でいきなり国を作ることは不可能。イメージとしては国際連合みたいな形で機構を作る。そして縁が出来たところから統合の交渉に入る。


「と、ところで祐子様。わ、私がこ、こんな場所にいてよろしかったのでしょうか」

「えーと、立場上は当然ではないですか?」

「そ、そ、そうですか??」


 暫定市長、同副市長、私、そして四人目は例の冒険者ギルドの支所長。見た目は女子学生みたいな百三歳の根上さん。

 はっきり言えば、闇の神がふざけて作ったに等しい冒険者ギルド。しかしギルドなので、行政とは一応独立していて、しかも他のギルドとも独自の連絡網をもっている。だから名目上は来賓だ。あ、私も来賓。

 松野市が本格的に動き出す以上、いずれ冒険者ギルドは厄介者になる。しかし、ギルドだから出来ることもある。


「ギルドには、他の町との交流に尽力していただきますから」

「ゆ、祐子様。そんなことを申されましても、我々は名ばかりで、他の町のギルドとは何の交渉もありません」

「交渉はこれからすればいいでしょう? そのために鉄道は整備しますから」

「は、はぁ…」


 そう。国を作るにせよ交流するにせよ、交通手段がなければどうしようもない。

 闇の創造主は、町を造る際に「街道」も用意した。しかし「街道」は他の町とはつながっていない。なので、一の町としての百年間、他の町の人間と出会う機会はほぼ皆無だった。

 一人だけ、思いっきり森をさまよった三の町の人間が見つかって定住した記録がある。さまよって移動できるのだから近いというわけではない。何しろ不死なのだから、飲まず食わずで数年放浪しても生きていられた。

 まぁ、ちゃんとした街道が造られれば、二の町や三の町には馬車でも行ける距離なんだけどね。東京の隣町が仙台や名古屋ぐらい離れているってだけで。



「じゃあ祐子、宴会が終わったら特訓よー」

「語尾のばすな!」


 鉄道と街道は、創造主の置き土産にする。そしてそれらは、闇ではなく私が創造する。今のところ、ただの穀潰しみたいな松野祐子に、そんなことが出来るとは思えないのであった。


「その結論には異議ありだなー」

「だから語尾のばすな」

※小学生には刺激が強いかも知れませんが、主人公は喪女なので間違いは起きないでしょう。と前振り。

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