第三打:フォース
内側はドロドロの群雄割拠って訳か
「真島さん、この荷物はここでいいですか?」
「うん。アリガトー。なんか悪いね。雇い主のお孫さんに手伝ってもらって」
「いえ!気にしないでください。おばあちゃんの思い付きで、こんな事になってしまったので、私で良ければ何でもお力になりますよ」
というわけで、小春婆さんの家の離れに荷物を運んでいるわけで
そんでもって心優しい沙耶ちゃんが手伝ってくれてるわけで
そんな優しい沙耶ちゃんの微笑みにちょっとグラッとキてまして
『涼!居候の分際で何をチンタラやっておるのじゃ!とっとと本宅の方に来な!!』
頭の中にババアの声が流れる。
くっ!ババア…
いい雰囲気ぶち壊しやがって!
「ババ…理事長に呼ばれたんでちょっと行ってくるね。」
「あ、私も行きます。それよりケガは大丈夫ですか?」
「牛乳飲んだら直った!」
俺と沙耶ちゃんは一緒に本宅の方へ向かう
「お呼びでしょうか?理事長」
「遅い!とりあえず、貴様は明日から光世学園へ通ってもらう。これがカードだ」
小春婆さんから渡されたのは黒いカード
「なんだ?このカード?」
「このカードは光世学園の生徒と教員に配られるIDカードで、それを持たない者は学園内へ入る事は出来ないんですよ。銀は学生、金は教員、黒は特別人物、と色分けされ、時間帯によっては金、銀のカードを持っていても学園内に入ることはできないんです」
沙耶ちゃんがカードの説明をしてくれる。
丁寧な説明どもありがとうございます。
「そういう事じゃ。無くすなよ!」
「うぃ。して理事長。今日の晩飯は何が食いたい?」
俺の問いに唖然とする婆さんと沙耶ちゃん
「お前が作るのかぃ!?」
あんたが作れ言うたんじゃないか!何をビックリしておるのだ
「真島さんはお客様なんですから、そんな事しなくていいですよ!」
「そーはいかないよ!お金貰ってる訳だし、それにお客様じゃなく使用人で御座います。お嬢様」
俺は沙耶ちゃんに片膝をつき頭を下げる
「沙耶、涼、お前たちは何を勘違いしておる。涼、貴様はこの高円寺家の家族じゃ!沙耶も客人扱いはやめなさい。この家にはこの3人しか居らんのじゃ。仲良くやろうではないか」
優しく微笑む婆さん
さっきは居候呼ばわりだったのに… この婆さん喰えんっ!
そんな婆さんの姿を見て、俺と沙耶ちゃんは顔を見合わせる
「つーわけで、よ、よろしくな!沙耶ちゃん」
「は、はい!涼兄さん」
「兄さん?なんで兄さん?」
「だって私より1つ年上ですもん!だから沙耶って呼んでください!」
明るく笑う沙耶
なんか家族が出来ました。
ちょっと照れくさくムズカユい感情が俺の心に生まれた
「涼!泣いてる暇があるなら早く飯にしておくれ!しょっぱいのはイヤさね!とっとと顔洗って買い出しに行きな!」
「バッ!泣いてねーよ!!人使いの荒い婆さんだな!」
俺は顔を袖で拭い立ち上がる
泣いてなんかいないんだからねッ!
「涼。ほらお金」
「いらないよ。今日は俺がご馳走してやるよ… 母ちゃん…」
金を受け取らずボソッと一言残し部屋を出る
さて?何を作ってやろうか?
「兄さん、私も一緒に行きます!」
小走りで俺の元に来る沙耶
「おう!ところで沙耶、婆さんって何が好きなんだ?つか、いっつも2人で何食ってんの?」
俺の肩くらいの身長の沙耶を見る
なんか赤い顔してブツブツ言って俺の質問に答えてくれない
「沙耶?」
「え?は、はいっ!?なんすか!?」
なんすか!?ってなんすか?
俺が沙耶の顔を覗きこむとテンパった様子で一歩後ずさる
「俺の話聞いてた?」
「うぅ〜。聞いてませんでした…」
真っ赤な顔で俯く沙耶
ひとつひとつの仕草が可愛いな!このやろう!
「すいません。兄さん。男の人に名前呼ばれたの初めてだったので…」
「そっか。俺も兄さんなんて呼ばれるの初めてだったから照れちゃったぜ!ハハハ」
「兄さん、手を…繋いでも……いいですか?」
真っ赤な顔で俺に問いかける沙耶
「かまわんよ。ほれっ」
俺は手を差し出し沙耶の手を握る
柔らかく小さな手
つーか、手を握っただけでそんな照れなくても…
「兄さんの手、あったかい…」
まだ赤い顔で沙耶は呟く
俺も顔赤くなってんのかなぁ?だとしたらハズいなぁ…
沙耶と手を繋ぎ商店街に出る
「兄さん、今日の晩ご飯は何にするんですか?」
「ん〜。和食で攻める。安く美味く日本の心をご家庭に。これが今日のテーマです。」
色々な食材を眺めながら沙耶の質問に答える
貧乏料理の真骨頂は値切り!食材さえあれば、何とかなるからね。
目に付く食材を片っ端から値切り交渉
貧乏人ナメんじゃねー!!
「兄さん…すごいですね……ほとんど半額以下の値段で買うなんて…」
俺の交渉術に唖然としてる沙耶
買い物袋の中にはウニ、ボタンエビ、鮑などの海の高級食材が入っている。
俺の予想だと小春婆さんは脂っこいモンは苦手とみた。
そして奴はグルメ!ガラガラヘビよりグルメ……!だと思う。
なら、海の幸だ!つーか、俺が肉より魚が食いたい!そんだけっ!
「よしっ!こんだけありゃ充分だろ?帰ろう。」
「はい… 兄さんが買い物した店の人達、みんな泣いてましたけど…大丈夫なんでしょうか?」
「気にしちゃいかんよ。お互い納得しての売買だったんだし。ケケケ!」
買った物を魔法で高円寺邸に送ってもらい、俺達は来た道を帰る
「なぁ沙耶?光世学園って、そんなに荒れてんのか?」
「ん〜。私も今年の春に入学したばっかりなんでよく分かんないんですけど、生徒会執行部っていうのが教師以上の権限を持っていて、裏で学校を牛耳っているって噂を聞いたことがあります。執行部のメンバーは教師以上の魔力と知識を持っている人達で構成されていて、その人達に認められたら卒業した後もかなり高い社会的地位につけるとか…その他にも色々な派閥があるとか、ないとか」
「ふーん。表側はエリート学園だけど内側はドロドロの群雄割拠って訳だ」
なーんか面倒臭い仕事になりそうだな…
サラッと学園内の状況を理解した所で高円寺邸に到着
「ただいま戻りましたよっと」
「ただいま〜」
魔法で転送されて玄関先に置いてあった荷物を持ち、家の中に入る
「おかえり、沙耶。遅いわっ!小僧!!早よ飯にせいっ!」
なに!?この態度の違い!
さっきの俺の涙を返せババア!
あ、いや、泣いないよ。さっきのはアレだよ。心の汗だよ。
「すぐは無理だ!茶でも啜って待ってなさい!」
「まぁ!口の悪い子だね!ババアに追い込みかけようってかい!」
うるせーババアだなぁ!
誰も追い込みなんてかけてねぇだろ!
「ごめんなさい。兄さん。私、手伝いますから」
「あぁいいよ。休んでな。疲れたろ?すぐ作るからさ」
沙耶をリビングで休ませキッチンへ向かう
腕まくりをし、食材を調理し始める
あの口うるさいババアの事だ、下手な料理作ったらネチネチ言われる違いない。気合い入れねーと!
調理開始から30分
ようやく完成ですっ!
道場六三郎もビックリな出来上がりですよ!
ババア喰って腰抜かせ!
食卓へ料理を運び、沙耶と婆さんを呼びに行く
「ほほぅ!見た目はなかなか。しかし、味はどうかな?」
「兄さん!スゴいです!プロの料理人みたいです!!」
2人とも驚いた様子で席に着く
「どうぞ。召し上がってくれたまえ」
料理を口へ運ぶ2人
「ほう!」
「美味しいですっ!兄さん」
なかなか好反応。良かったぁ〜!
「兄さんはどうしてこんなに料理が上手なんですか?」
「魔法使わなくても出来るから。でも、どこも雇ってくれないのな!魔法関係ねぇだろっつーの」
「魔法は生活の一部だからね。あんたみたいに才能が有っても魔法が使えないとなると働く以前の問題だからね」
ババア遠回しに誉めてんのか?
才能有るって言ったよな?
「涼。あんた、酒はイケる口かい?」
「ああ。それなりかな?」
婆さんは小さく頷くと指を小さく動かす
すると、酒瓶と猪口がテーブルにフワフワと浮かんできた
スゲー!マスターヨーダみてぇ!!フォースか?
婆さん、ジェダイの騎士か?
「飲みな。」
猪口を俺の手元に落とすと、そのまま浮いていた酒瓶を傾ける
「婆さん、そりゃ反則だ」
浮いていた酒瓶を手に取り婆さんの猪口に酒を注ぐ
「人に注いでもらう。その行為もまた酒の肴ってね。」
「生意気な。」
と言い、婆さんも俺の猪口に酒を注ぐ
お互いニッと笑い酒を飲み干す
それを穏やかな微笑みで眺める沙耶
って!!
「婆さん!!若返ってね!?」
「あぁ酒を飲むと魔力の流れが良くなって、全盛期の姿になるんだよ。」
なんじゃそりゃ!!ババアスゲー!!!!
めっちゃ美人やんけ…ッ!
世界観グヂャグヂャ〜lml(゜Д゜)lml