第二打:英樹
殴られる痛み、殴る痛みを教えろってことかい?
―――なんだ此処?
真っ白の空間で独り佇む俺
なんだか寂しい場所
なんだか悲しい場所
なんだか苦しい場所
そんな雰囲気が漂う場所で俺は独りぼっちで……
これ以上この場所にいるのがすごく嫌で…
丸くなって怯えている俺がいて…
その時、声が聞こえてきた
幼い子供の声
「此処ガ何処ダカ知リタイ?」
「知りたくない… 此処は俺の夢の中だ。」
「違ウヨ。正解は……」
「越後製菓!!」
「正解は越後製菓!!」
うぉっ!!高橋英樹が出てきた!デ、デカい…!!
「越後製菓!!」
ふ、増えた!
「「正解は越後製菓!!」」
やめろー!!やめてくれー!!
「「「越後製菓!!正解は越後製菓!!」」」
やめてくれー!!増えないでくれー!!
「越後製菓!!」
「きゃぁ!!」
あ、あれ?英樹は?
ガバッと起き上がった俺
夢?なんちゅー夢を……
「あ、あの…大丈夫ですか?」
心配そうに俺の顔を覗く女の子
あれ?さっきの女の子だよね?ババアの孫娘の
「え?あぁ…大丈夫。ちゅーか、此処は?」
可愛いらしいベッドの上で寝ちゃってましたけど…
しかも、上半身裸だし…
「此処は私の家です。さっきは、祖母が失礼を致しました。」
深々と頭を下げる女の子
どして、俺は女の子の家にいるの?
「目を覚ましたかい。若僧」
「うほっ!出たな!オニババ!―んがっ!」
ベッドから出て臨戦態勢を取ろうとするが、わき腹に激痛が走る
「動くんじゃないよ。私の魔弾を喰らったんだ。その程度で済んだのが奇跡さ」
「あ、そう。どうでもいいけど、めっちゃわき腹痛いから魔法で治してくんね?」
俺はわき腹をさすりながら言う。魔法で治るんだから包帯する意味ねーじゃん
「そんな魔法ないよ。あんた、そんな事も知らないのかい?」
「えぇ!?ないの?なんだよ!使えねーな!魔法っつーのも。」
ったく。意外と便利じゃねーんだな。
「なに言ってるんだい。人間誰しも魔力が流れてるんだ。それで痛みを和らげる事が出来るだろ?それを使って早く帰んな!」
「ムリ!俺、魔力、ナイ!ムリ!」
「「は?」」
いや、は?って……
「魔力が無いわけないだろ?お前さん、ワシとの戦いで魔法使ってないんだし…」
「使ってないんじゃなくて、使えないの。どーいうワケか魔法使えないのよ。俺」
疑いの眼差しを向けるババアと可愛い子ちゃん
嘘じゃねぇっつーの!
「防御壁を引き裂いたのは?」
「実力?」
「魔弾喰らっても意識が有ったのは?」
「筋力?」
「「ええーっ!!」」
めっちゃ驚いてんね。
でも、事実だし…
「魔力のない人間なんているんだ…」
サラッとヒドい事言うね。可愛い子ちゃん
傷つくよ?
「お前、ちょっと来い!」
俺を手招くババア
わき腹痛くて歩けねーんだって!
「なんか杖よこせ」
「ないわ!沙耶、肩貸してやんな!」
「はい」
俺に肩を貸してくれる可愛い子ちゃんもとい沙耶ちゃん
「おぉ!すまんね!」
「いえ…」
少し顔を赤らめ顔を逸らす沙耶ちゃん
すまんね!上半身裸で
沙耶ちゃんに肩を借り、ババアの後をついて行く
やたらとデカいホールを抜け、エレベーターに乗り、ある一室に入る
なんかワケの分からん装置みたいの沢山置いてある部屋だな
「なんじゃここ?科学は死んだと思ってたけど、まだ存在してたんだな」
「科学とは言えば科学じゃが、この装置の動力源は全て魔力。科学だけではここまで精密なものは出来んよ。」
「ここは光世学園の第一研究室です。魔力や魔法に関しての研究が行われる場所です。」
ご丁寧な説明どもありがとう。
ま、どうでもいいけど…
「んで婆さん。学校の施設に入り込んで何する気よ?」
「人聞きの悪い言い方をするんでない!ここはワシの持ち物じゃ!」
「祖母はこの学園の理事なんですよ。」
得意気な顔するババア
すげーな!ババア!
つー事は、沙耶ちゃんは理事長の孫かい?すげーな!ニートの俺とはワケが違う
「若僧、そこの装置に入れ!その装置は魔力の量を測定できる装置じゃ!貴様に魔力があれば、ワシがある程度引き出す事も可能じゃからな」
「ふーん。多分、0だけどね。」
「それはないですよ。どんな人間も必ず魔力は持っていますから」
いやぁ。無いものは無いと思うよ。
装置の中に入り、ポーズをキメる
「普通にせぇ!クソボーズ!!」
怒られちゃったぁ…
ピシッと立ち、ジッとしてると青白い光が俺を包んだ
「ふむ……これは…」
ババアが納得のいかないような顔をしている。
もう出ていいっすか?
「小僧、やはり貴様の体には魔力と言うものが存在しないらしい」
だから、言ったじゃん
「ホントに魔力が無いんだ…」
驚き顔の沙耶ちゃん
やっぱり俺って変なんだ…
「小僧、いつから魔法が使えないんだい?」
「ガキの頃から使えねーよ。高校も行けなけりゃ、就職も出来やしねー!イヤな時代だよ!まったく」
膨れっ面で答える俺
「ふむ…」と何か思案してる顔をするババア
「小僧、この学園に通え」
は…?なに言ってんだ?このババー
「魔法使えなきゃ卒業出来ねーんだろ?それに金がねーんだよ!6741円しか持ってねぇんだぞ!1ヶ月も生活出来ねーよ!そんな事より仕事くれっ!!」
「何を勘違いしておる。貴様には特別講師として、この学園に勤めてもらう。」
仰る意味がわかりまへん。
なに?俺が講師になるの?
「無理だべ!!魔法も使えなけりゃ、学もない俺が何を教えりゃいいんだよ?」
「だから勘違いするでないって。貴様は教師に武術を教える特別講師じゃ!」
「なんでそんなモン教えなきゃなんねーんだよ!」
「この学園はな、世界トップクラスの魔法学を教える学園として有名なのじゃ。よりすぐりのエリートが集まり、中には教師をも上回る力をもつ生徒もおる。エリート故にプライドも高い学生も居ってな教師が威厳を無くしておるのだ」
ババアが哀しそうな顔で語る
つか、舐められる教師なんかクビにしちまえよ!
「早い話が学生に舐められるような教師を叩き直して、良いとこ育ちの坊ちゃん、嬢ちゃんに殴られる痛み、殴る痛みを教えろってことかぃ?」
「察しがいいじゃないか。貴様には学生として、この学園に入学してもらう。普段は普通に学生として過ごし、毎週火曜日は教師に武術を教えろ。いいな?」
「普通に学生って魔法使えねーのに大丈夫なのかよ?授業にはついていけないし、頭でっかちの生徒さんにバカにされるなんて俺ヤだよ。多分、めっちゃ殴っちゃうよ?」
過去にイジメられた経験がある俺は多分、我慢出来ずに手を上げてしまうよ
「かまわん。魔法が使えなくても恥じる必要なんかないじゃないか。痛みを知らない若者に痛みを教えるのも、お前の仕事じゃ。ただし、やりすぎるなよ?」
「オーケー!婆さん、意外と良いこと言うじゃねーか。」
ケラケラ笑う俺。まぁ就職も出来たし、憧れの高校生活も経験出来るし願ったり叶ったりだね
「貴様、雇い主に婆さん言うな。それと名を何と申す?」
そーいやぁ自己紹介がまだだったね。
「真島 涼。いちおー17歳。婆さんは?」
「婆さん言うなって言ったじゃろーが!ワシは高円寺 小春。そっちが孫娘の高円寺 沙耶じゃ。よろしくな。涼。」
「よろしくお願いします!真島さんっ!!」
相変わらずふてぶてしい態度だった婆さんだったが少し微笑んだ様に見えた。
そして、沙耶ちゃんは明るい笑顔でニッコリと笑った。めっちゃ可愛いやんけ!
「して涼や。貴様、家は?」
「一人暮らししてるけど、家賃滞納してるからもうすぐ追い出される…」
「ならば、ウチの離れを使え。飯も食わせてやる。もちろん給料だってな!」
ニヤリと笑う小春婆さん。太っ腹だぜ!
すげーぞ!ババア!!
「マジっすか!?なんかスイマセンね。何から何まで…」
「そのかわり!全ての家事は貴様がやるのだ!よいな!」
マァジッスかー!?執事兼講師兼学生っすか?すんごいね!俺、超ハードだね!
死んじゃうよ?俺、死んじゃうよ?
「出来る限り頑張ります…」
こうして俺のワケの分からん生活が幕を開けたのだった。
その気になれば断頭台で居眠りするのも可能なんだぜ lml(゜Д゜)lml