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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】

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その十九 おまえの相手は俺がしてやるぜ


 焼けてなくなってしまったギルドの入り口を見て、ギルドの主人が紅蓮のショウに怒りの声を上げる。


「おいこらてめえ! よくも俺のギルドを……!」


 袖をまくって、筋骨隆々とした身体をいからせながら主人が赤髪の男へと向かっていく。


 赤髪の男は舌打ちを漏らすと、パチンと指を鳴らした。その途端、小さな火球が猛スピードでギルドの主人へと飛んでいって、その身体が紅蓮に包み込まれる。


「ぐああああ!」

「ハッ、飛んで『火』にいる夏の虫ってか……! 虫ケラは黙ってやがれ!」


 紅蓮のショウが周囲へと大声を張り上げた。


「俺は『紅蓮のショウ』だ! こいつみてえに焼け死にたくなかったら、黙って見てるんだな虫ケラども!」


 その声に、その名前に、周囲にいた人々が恐怖のつぶやきを漏らしていく。


「マジかよ、紅蓮のショウだって……⁉」

「それって、あらゆるものを絶対に燃やし尽くすチート能力者の……⁉」


 波紋のように広がっていく恐怖のなか、少年が燃えているギルドの主人へと駆けていく。対象物を絶対に焼き尽くす炎に包まれてから、まだ数秒ほど……。


(俺の力で消えたんなら、これはチート能力……いまならまだ間に合うはず……!)


 少年が、ギルドの主人を包む炎に触れて、その炎が消滅する。即座に少年は振り返って、


「早くこの人を治してください! イブさん、ハオさ……」

「あたしが治すわ……!」


 彼が言い切る前に、金髪の少女がすぐさま近付いて、火傷姿のギルドの主人へと手をかざした。回復魔法の光を発生させながら、金髪の少女が少年にだけ聞こえる声で言った。


(あのバカが使う『回復』は、あいつの能力のコピーってことは分かってるわよね。だから……こんなときにこんなこと言うのもあれだけど……明日の『発表』までは口を滑らさないように。遅かれ早かれパニックは起きちゃうとしても、できる限り小さく収めたいんだから)

(…………)


 もし青年が『超回復』を使えば、ジャセイの能力と似ているそれを見た誰かが不審に思うかもしれない。彼女の忠告はそれを防ぐためのものだ。


 無言のまま金髪の少女を見つめた少年は、思い悩むような顔を、燃やされてしまった男へと向ける。


 人の命がかかっているこの状況なのに、そんなことを考えている余裕なんて……少年はそう思うが、それと同時に、金髪の少女の不安も分かってしまうのだ。


 何の事前準備も予防策も打たず、またその事実に対する前後関係も明らかにされないままで、この街と修道会を支配していたジャセイが『いなくなった』という事柄だけが流布されてしまったのなら……。


 人々が起こすパニックは大きなものとなり、修道会に対する不信感や陰謀論なども大きなものとなり、流さなくてもいい血を流すことになってしまうかもしれない……金髪の少女はそれを危惧しているのだ。


 少年と金髪の少女、そして少し離れたところにいる青年と白髪の少女を見ながら、紅蓮のショウが口を開く。


「たった一晩でずいぶん友達が増えたみてえだな、クソガキ。サトリの女はどうした?」

「…………」


 敵意に満ちた言葉をぶつけてくる赤髪の男を、少年は見返す。


 見てくるだけのそんな少年を、赤髪の男はせせら笑った。


「ククク、俺様が怖くて何もしゃべれねえってか! まあ、サトリよりもいまはテメーを殺……」

「……誰だか知りませんけど、サキさんやみんなを殺そうとするのなら、そんなこと俺が絶対にさせませんから……!」


 少年のそのセリフは、赤髪の男が半ば想定していたものだった。ただ一つ、予想外のことがあるとすれば……。


 『誰だか知りませんけど』、少年はそう言った。つまり、少年は赤髪の男のことなど完全に忘れていたということ。昨晩のことなのに。少年を殺すために、赤髪の男はこの街のあちこちを探したというのに。赤髪の男の顔に青筋が浮かび上がる。


「……誰だか知らねえだと……クククク、あっさりブッ倒れた俺様のことなんか、覚えてる価値もねえってわけだな……!」

「……え……? ……あ、もしかして、昨日の……!」


 少年はたったいま、やっと思い出したらしい。


 ……ブチン……! 紅蓮のショウの頭のなかで何かがブチ切れた。


「ブッ殺す! テメーの存在そのものを完全に焼き尽くしてやる!」


 紅蓮のショウの周囲に、爆ぜるような業火が巻き起こる。その業火は渦を巻くようにうねると、赤髪の男の腕にまとわっていき、一振りの炎の剣としてその手に握られた。


 その業火の剣は、昨夜使った技と同じもの。だが……いまの赤髪の男は、少年を絶対に殺すという憎悪をたぎらせている。


「どういう原理か知らねえが、テメーが俺の炎を消せるってんなら、消せなくなるまで焼き続けりゃいいだけだ!」

「……!」


 紅蓮のショウが少年へと駆ける。駆けながら、手にした炎の剣を振り抜いて、その刀身から炎の波を撃ち出した。


 その炎の波が少年に達するまで、まだ距離がある。避けようと思えば、そうするのは容易いだろう。しかし少年にそれを避けることはできない……いや、正確には、もし避けてしまえば、


(ダメだ……! いま避けたら、イブさんとこのおじさんが……!)


 少年は助かっても、金髪の少女とギルドの主人が焼け死ぬことになる。それだけでなく、周囲にいる他の人々も巻き添えを食らってしまうだろう。


 だから、少年は炎の波へと手をかざした。金髪の少女や周囲の人々を助けるために。炎の波を消すために。そして炎の波が少年たちに達しようとした、そのとき。


 突如として少年たちの前に大きな水の壁が張り巡らされて、迫りくる炎の波を飲み込んで……水と炎、その双方が同時に消滅する。


「何……ッ⁉」


 目を見開く赤髪の男へと、横合いから氷の塊が撃ち出された。炎の剣を横に振って、赤髪の男はその一撃をしのぐ。


 勢いを殺がれてその場に立ち止まった赤髪の男と少年との間に、ひょうひょうとした雰囲気の青年が割り込んで、


「紅蓮のショウだっけ? 悪りいけど、おまえの相手は俺がしてやるぜ」


 余裕のある笑みを浮かべながら、そう言った。




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