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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】

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その十六 信用してるわけじゃないから


「服屋に行きたいって、破けた服を直したかったのね」


 紙袋を手に提げている少年の隣を並んで歩きながら、金髪の少女が言う。


 いまは少年と金髪の少女、および青年と白髪の少女の四人で、街にある服屋やギルドへの道のりを歩いているところだ。黒髪の少女はまだ休まなければいけないし、修道長は修道会の仕事に行っていた。


 金髪の少女の言葉に、しかし少年は答えなかった。彼は何か考えているらしく、自分の足元を見ながら歩いていた。


 そんな少年の様子に気付いて、金髪の少女が彼の肩を軽くたたく。


「……え……?」


 きょとんとしたように顔を上げた少年に彼女は声をかけた。


「『え?』じゃないわよ。なに考えてたの?」

「いや、その……」


 少年は口ごもる。先回りするように金髪の少女が言った。


「もしかしてサキの呪いのこと?」

「あ……」


 図星だったのか、少年は少しだけ驚いたようだった。肩をすくめながら金髪の少女は言葉を続ける。


「さっきも言ったけど、サトリの呪いのことはサキに任せるしかないの。あたしたちにはなにもできないのよ」

「……うん……」


 少年は力なくうなずく。彼女の言った通り、いまの自分には何もできない……そのことは少年自身、重々承知していた……しかし……。


 だからこそ、少年は考えようとする。自分にできる何かしらを……自分にできることは何なのかを……。


 彼の思いを知ってか知らずか、今度は一緒に歩いていた青年が口を開く。


「つーかよ、服が破けたんなら新しい服を買えばいいんじゃねえか。気に入ってる服なのか?」


 少年は手に提げていた紙袋に目を落とす。そのなかには学生服と、仮面の剣士から受け取った外套が入っていて……そのどちらもジャセイとの戦いで破けてしまったものだ。


「学生服のほうは別にいいんですけど……外套のほうはできれば直したくて……」

「ふーん」

「それより、俺の用件のほうは後回しにしても良かったのに……」


 つぶやいた少年に金髪の少女が言う。


「服屋のほうが近いんだから、そっちから済ませたほうが効率がいいのよ」


 そんな彼女を横目で見ながら青年が口を開いた。


「つーかさ、なんでついてきてんの? 黒髪ちゃんの看病とか、修道会の仕事とか、色々忙しいだろうに」

「つーかつーかうるさいわね。ケイはまだこの街のことよく知らないし、げんに昨日の夜、道に迷ったみたいだから、道案内であたしが来てんのよ。サキはまだ休む必要があるし、修道長は修道会の仕事があって忙しいからね」

「ああー」


 と青年が納得したような声を出し、


「ははは……」


 と少年も苦笑する。


 昨夜、道に迷った少年を助けたのが青年なので、二人とも彼女の言うことはもっともだと思ったのだ。


 だがふとした疑問が出てきたのか、青年が言った。


「でもよ、だったら俺たちに任せてくれて良かったんだぜ。俺たちも最近この街に来たばかりだけど、ギルドや服屋の場所くらいは分かるしな」

「修道会と学院を間違えたやつがよく言うわね」

「あれは仕方ないだろ、暗かったんだから。昼間なら間違えなかったぜ……たぶんな」

「はいはい」


 言いながら、金髪の少女が青年に鋭い視線を投げる。


「…………。……この際だから言っておくけどね、あたしはまだあんたのこと信用してるわけじゃないから」

「…………」


 彼女の鋭い視線に、青年も無言で応じた。


「いまだってそう。あんたとケイを二人きりにしたらなにするか分からないからね。それを見張るために、こうやってついてきてんの」

「…………」


 青年は肩をすくめて、そばにいる白髪の少女をちらりと見る。


「そんならアスのことも信じてないってわけだな、『アスちゃん』とかって呼んでたわりに」

「…………あげ足取らないでくれる」

「でもそうなんだろ?」

「…………」


 鋭い視線と、それを受け流すようなひょうひょうとした態度。醸し出される険悪な雰囲気に少年はうろたえて、


「あ、あの……」


 と声を出したとき、


「……見えてきた。服屋……」


 彼らのやり取りなど全く気にしていないというような態度で、道の先に見えている衣服の絵が描かれた看板を掲げた建物を、白髪の少女が指さした。



 カランコロン。店のドアを開けると、上部についていた鈴が鳴った。


「いらっしゃい」


 服屋の奥の受付台にいた恰幅のいい男が声をかけてくる。その男は最初、見知らぬ青年や少年の姿を見て、内心訝しんでいたが、彼らのなかに金髪の少女の姿を見つけると、


「おや、イブちゃんじゃないか」

「ちゃんはやめてくださいって言ってますよね。見習いとはいえ、これでも修道士なんですから」

「はっはっは、相変わらずつれないねえ」


 恥ずかしがる様子も見せずに平然としている金髪の少女に、男は笑い声を上げた。


 そんな二人を見て、少年が彼女に聞く。


「知り合いなの?」

「ええ。修道会で着る服の仕立てや補修を頼んでるの」


 恰幅のいい男は気安そうに、


「イブちゃんのことなら小さいころから知ってるさ。なんせイブちゃんのお父さんがこの街にいたときからの……おっと……」


 つい口が滑ったというように男が口に手をあてた。


 少年と青年が、


「……?」


 と疑問符を浮かべるが、それらを無視して金髪の少女が言う。


「……だからちゃん付けはやめてください。それより、今日は友人の服を直してもらいに来たんです。ほら、ケイ」

「え、うん……あの、これなんですけど……」


 少年が受付台の上に紙袋を置いて、男がその中身を手に取る。一目見た瞬間、男は瞳を丸くした。


「こりゃずいぶん手ひどく破いたもんだな。まるでどてっ腹を大砲で貫かれたみたいじゃないか……! いったい何をしたらこうなるんだい?」


 男の問い掛けに少年は、


「えっと、その……」


 と、とっさの言い訳を考える。しかし彼が何か言う前に、金髪の少女が代わりに答えた。


「よく分かったわね。その通りよ。お腹を貫かれたの」

「は……?」


 澄ました顔で言う彼女の言葉に、男は呆気に取られてしまう。驚いたのは少年も同じことで、慌てた様子で、けれど男には聞こえないように小さな声で、


(ちょ、ちょっとイブさん、いま言っちゃっていいの……⁉)

(いいからあたしに任せなさい)


 金髪の少女はもう一度男に向いて、


「ま、相手は大砲じゃなくて魔獣みたいだけどね。彼、旅をしてるんだけど、街の外をうろついてた魔獣に出くわしたみたいで、死にそうになってたところをあたしが通りかかって助けたの。傷自体はわりとすぐに治ったんだけど、そのあと眠り続けちゃっててね」

「ああ……なるほど、そういうことか。そういや世界樹の近くに魔獣がいるとか、そんなうわさを聞いたことがあるなあ」

「で、今日破けた服を直してもらいにきたってわけ」

「ってことは、そっちにいるにーちゃんとお嬢ちゃんは、彼のパーティー仲間ってことだな」


 俺のこと? とでも言うように青年が自分のことを指でさす。


 金髪の少女は青年のことを一瞥してから、


「この女の敵は回復魔法が使えないからね」


 平気な顔で言う金髪の少女の言葉を聞いて、青年はそばにいる白髪の少女を見ながら肩をすくめるのだった。




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