その十二 歓喜の声
「もう少しで彼らが住んでいるところに着きます」
しばらくして、歩きながら修道長が言う。
そのとき思い出したように青年が少年に言った。
「そういえばよ、黒髪ちゃんがジャセイを倒す協力をしたこと、ユウナさんには知られちまってるけど、それはいいのか、少年?」
「あ……」
いま気が付いたというように少年は小さな声を上げる。
そんな彼に代わって、修道長が応じた。
「ユウナさんにはあとで私から伝えておきましょう」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。まあ、彼女のことだから、無闇に誰かに話すようなことはしないと思いますがね」
そして少年たちは修道会の敷地の端のほうに林立していた、まるで家畜小屋のような、あるいは貧困街のような住居群の前へとやってくる。
それまで少年たちがいた建物はレンガ造りでしっかりとしたものだったのに対して、そこに並んでいる家屋はまるでベニヤ板のような木造で、地震や台風が起きれば崩れてしまいそうなくらい粗末なものだった。
それらの住居群には多くの人々……ジャセイに奴隷にされてしまった人たちがいて、彼らが着ている衣服もまた、つぎはぎだらけの粗末なもので、まるで囚人なのかと錯覚してしまうほどだった。
「これは……」
いま自分が目の当たりにしている光景に、少年はそれだけしか言うことができない。
青年もまた、
「…………」
真剣な瞳で黙ったまま何も言わない。
修道長も心苦しいように目を伏せていた。
そんな少年たちに気付いて、何かしらの命令や労働を強いられると思ったのだろう、ある者は恐怖に満ちた瞳を浮かべ、ある者は逃げるように住居のなかに隠れ、またある者は小さな子供を抱きしめていた。
「……ケイさん、彼らが、ジャセイに奴隷にされた者たちです。彼らのなかに植え付けられている『ガン』を、あなたの力で消し去ってください」
「…………」
修道長の言葉に少年はうなずく。
それから修道長は大きな声で人々に事情を説明する。
「みなさん、ジャセイは倒されました。これからみなさんの身体に埋められているガンを消し去ります。それが済んだあとは、みなさんは自由の身です!」
だがにわかには信じがたいのだろう、修道長の説明を聞いても人々は困惑したような顔を浮かべていた。
その様子を見て取って、青年が口を開く。
「とりあえず、少年がガンを消すところを見せればいいんじゃねえの」
「……そうですな……ケイさん、お願いします」
「はい」
修道長が手近にいた者を示し、少年を先頭にしてその者に歩み寄っていく。その人物の身体に少年が手を触れたとき、その人物の身体をいくつもの小さな光の粒子が包み込んだ。そして一瞬後、その者の額に浮かび上がっていた十字架模様は跡形もなく消え去っていた。
自分の額に手をあてたその者が、十字架模様のあざが消えたことに驚きと感激の声を上げる。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
その感情の波紋が周囲へと伝播していき、希望に満ちた声が人々から発せられていった。
またいまの様子を見ていた青年も、少年が使った能力とその結果に、感心したような口笛を吹いた。
そして我先にと少年に群がろうとしていた人々に、
「順番に並んでくだされ。全員必ず奴隷から解放しますから……!」
修道長が声を張り上げる。
それから一人また一人と少年は人々をジャセイの負の遺産から解放していく。何人目かの解放を終えたとき、何かを思いついたように青年が少年に声をかけた。
「なあ、少年は一人ずつにしか能力を使えねえのか?」
「え……?」
「いや、いま思いついたんだけどよ、みんなで手をつないで、そのうちの一人を少年が触れば、一気に全員のガンを消せるんじゃねえかって思ったんだが……どうだ?」
「どうでしょう……そういうのはまだしたことがないので……」
「んじゃ、やってみようぜ」
青年の提案で、ガンを植え付けられている残りの人々の全員が手をつなぎ、そのうちの一人に少年が手を触れる。すると人々全員を光の粒子が包み込み、一瞬後にはすべての十字架模様が完全に消滅していた。
人々の歓喜の声が湧き起こる。その勢いはとても大きく、少年を胴上げせんばかりだった。
その様子を眺めていた修道長が、
「良かった……本当に良かった……」
と心の底から胸をなで下ろす。
青年もまた息を一つついて、
「チート能力を無効化する『チートレイザー』か……俺のチートギャザラーの天敵みてーなチカラじゃねーか。敵じゃなくて本当に良かったぜ……なあ、アス」
傍らにいるはずの白髪の少女に視線を向けて……その姿がないことに気が付く。
「あれ、アス?」
青年は首を巡らすが、どこにも見当たらない。
「どこに行きやがったんだ、あいつ。つーかいつからいなかった?」
――ま、そのうち戻ってくるだろ……あいつなら心配いらねえし……。
人々の大きな歓喜の声は周囲の修道会の建物のなかにも響いていて……その建物の窓から、一つの人影が彼らとその中心にいる少年の姿を見つめていた。
「…………」
静かな雰囲気をまとう修道女……ユウナだった。




