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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】

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88/325

その八 ゼント、垣間見えた過去


 床に倒れた拍子に黒髪の少女がかぶっていたフードがはだけて、苦しそうに息を荒げている彼女のその顔を見た瞬間、少年は息を飲んだ。


「……っ⁉」


 露わになった黒髪の少女の片側の目元から頬、首筋を縦断するように、いくつものひし形を連ねたような奇妙な刻印が浮かび上がっていた。それはまるで二重らせんのようにも、あるいは鎖のようにも見えた。


 いったいいつから浮かび上がっていたのだろうか。フードをかぶっていたから気が付かなかった。


 そしてその刻印は顔だけでなく、黒髪の少女の片手の甲にも浮かび上がっていて……少年がとっさに彼女の袖をまくると、その刻印は手首にも現れていて、おそらくはその先の肩のほうにまで続いているようだった。


 少年が黒髪の少女とともにこの部屋に来たときには、こんな模様はなかったはずだ。


「イブさん! 早く回復魔法を!」


 振り返りながら少年は叫ぶ。


 この奇妙な模様がどのようなものなのかは分からないが、見たところ怪我のようには思えなかった。もしかしたらこの世界での何かしらの病気なのかもしれない……昨日の細菌感染症が完全に治癒しておらず、何らかの合併症を引き起こしたといったような……。


 そう思って少年は助けを呼んだのだが……金髪の少女は青ざめた顔をして黒髪の少女のことを見つめているだけだった。


「イブさん!」


 少年はもう一度名前を呼ぶが、金髪の少女は絶望をにじませるようにつぶやくだけだった。


「……これは……できない……っ……!」


 そこで少年は思い出す、回復魔法には大別して治癒魔法と浄化魔法の二種類があり、金髪の少女は治癒魔法は使えるが浄化魔法はまだだということを。


 少年は今度は修道長に振り向いた。


「修道長さん!」


 黒髪の少女のそばに来ていた修道長は、彼女の容態を見るや、金髪の少女と同じように顔を青ざめさせた。……そして回復魔法を施すわけでもなく、やはり金髪の少女と同様に、床に倒れる黒髪の少女をただ見つめているだけだった。


「修道長さん! 早く! お願いします!」


 少年の再度の呼び掛けに、修道長は首を横に振るだけで……。


 黒髪の少女を挟んで少年の対面側に来ていた青年が、見かねたように床に倒れる彼女へと手をかざす。


「じいさんでも治せねえくらいの難病ってこったな。だったら俺に任せろ。『バイオ』!」


 それは彼が手に入れたばかりのジャセイのチート能力。


 あらゆる怪我を治し、あらゆる病気を癒し、ときには生物に対して圧倒的な威力を誇る、回復を司るチート能力。


 この『バイオ』にかかれば、治せない怪我や病気などない……そのはずだった。


 しかし……かざした手のひらから淡い水色の光を輝かせていた青年は……少しして信じられないというような、驚愕に満ちた顔を浮かべた。


「なんだこりゃ……治せねえ……⁉」

「え……?」


 少年の耳に、ありえないと言いたげな青年のつぶやきが聞こえてくる。


「これは病気じゃねえ……怪我でもねえ……『バイオ』じゃ治せねえ……これは……っ……⁉」


 修道長が静かに、悲しげに、そして恐ろしさを込めてつぶやいた。


「……呪いだ……」



 その後、意識が朦朧としているらしい黒髪の少女を少年が抱き上げて、金髪の少女の案内のもと、近くの空き部屋のベッドまで黒髪の少女を運んでいった。


 そしてそのベッドの近くに椅子を持ってきて、少年はそれに腰を下ろす。少年が様子を見守るためにベッドに横たわる黒髪の少女の手を取ったとき、同じようにそばに置いた椅子に座った金髪の少女がひとりごとのように話し始めた。


「修道士はみんなが安心して暮らせるように、修道会に入って回復魔法や薬草の作りかたとかを専門的に習うんだけど……サキの『サトリの呪い』だけは解けないの……いえ、解呪の方法が分からないの……」

「…………」


 少年は静かに金髪の少女を見る。


 金髪の少女は黒髪の少女を見つめながら続ける。


「前に修道長から聞いたことがあるんだけど、ずっと昔にある男の人がこことは別の街の修道会に助けを求めたことがあるらしいの……自分たちの一族にかけられている呪いを解いてくれって……」

「その男の人って……」


 サトリの呪いは母親から継承したと黒髪の少女は言っていた。この呪いが彼女とその母親が宿す血統に受け継がれているということは……。


「……たぶんだけど、サキのおじいさんよ……」

「…………」


 少年はちらりと、部屋のドア近くの壁に佇む修道長に視線を向ける。初老の男は沈黙を貫いたままで……その様子が、金髪の少女の言っていることが事実だと、無言のうちに肯定しているようだった。


「事情を聞いたその街の修道会の修道士や修道長が呪いを解こうとしたんだけど……全然手が付けられなかったの……それでもなんとかしようとして当時の本部の司祭長さまも来てくれたんだけど……やっぱりダメで……」


 ベッドを挟んで、少年と金髪の少女の向かい側には腕を組んだ青年が壁にもたれていて、彼のそばには依然として無表情の白髪の少女が佇んでいた。彼らもまた言葉を発することなく、静かに金髪の少女の話を聞いている。


「そのときが、修道会が『サトリの呪い』と初めて出会ったときで……それ以来、みんなは『サトリの呪い』を恐れるようになってしまったって……修道会でも手に負えない、あらゆるすべての秘密を暴いてしまう呪いとして……」

「…………」


 少年は瞳を閉じている黒髪の少女を見つめる。さっきまでの荒かった息遣いは落ち着いていて、片方の目元から首筋にかけて浮かび上がっていた連鎖のような刻印は嘘のように消えていた。


 いまの黒髪の少女のその様子はまるで安らかに眠っているように見えて……けれど、少年が握る彼女の手の甲にはいまだに鎖模様の一部が残っていて……その痕跡が、いままでのことが嘘でも夢でもないことを残酷なまでに証明していた。


 彼女の手をぎゅっと握りしめて、彼女の寝顔を見つめながら、少年が問う。


「そのあとどうなったの……? その男の人は……」

「それは……」

「彼がその後どうなったのかについては、私から話そう。彼に最初に助けを求められた修道士こそ、私なのだから」


 初耳だというように金髪の少女が修道長を見る。彼女のその視線を受け止めつつ、修道長は語り始めた。


「確かに彼の呪いを知った修道会は彼のことを恐れるようになった。しかし当時の司祭長さまを始めとして一部の修道士たちは、あくまで恐れるべきは呪いであって彼自身ではないと言い、彼の呪いを解くための方法を模索し続けたのだ。ほんのわずかでも呪いを解く可能性が見つかるのならと、彼自身もその街に滞在し続けた」


 当時を思い出すように初老の男は目を閉じる。


「彼は自らをゼントと名乗り、代々魔導士の家系に生まれて、自らも魔導士として日々魔法の研究に励んでいたと話していた。『励んでいた? いまはもう研究していないのか?』……私がそう尋ねると、彼は悲しげに、『この呪いを継承した以上、いままで通りの生活はできないだろう』……そう言っていた……」


 少年たちは初老の男の話に静かに耳を傾けている。


「彼がその街に来てからしばらくの時間が経ったが、それでも呪いを解く方法は見つからなかった……そしてあるとき、私は疑ってしまったのだ、もしかして彼が呪いと言っているのは嘘で、本当は彼が魔導士としての自分の力を示すための魔法なのではないか……と」


 初老の男は首を横に振り、静かに目を開ける。


「私がそのことを問いただしたとき、彼は何も答えず、ただ悲しそうに私のことを見つめるだけだった。私がなおも問い詰めようとしたとき……暴動が起きたのだ」

「「「…………!」」」


 少年と金髪の少女、青年の三人が目を見開かせる。


「彼の呪いを恐れた者たちが彼を亡き者にしようとしたのだ。彼は自らの魔導士としての力を使って、何とかその暴動から逃れたようだったが……それから先のことは私にも分からない。分かることがあるとすれば、サキさんにその呪いが継承されている以上、彼はいまはもう生きていないということだ……」

「「「…………」」」


 分かっていたはずだ……その男の人がすでに他界しているということは。いや彼だけでなく、母親も、それ以外の血縁関係者も、すでにいない……黒髪の少女は天涯孤独の身ということを……。


 彼女自身が以前そう言っていたのだから。




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