その七 『能力を創るチート能力者』、人柱、溢れる呪い
少年が持つチート能力は『チートレイザー』といい、触れた対象のチート能力を無効化することができるという。
少年自身からその説明を受けて、青年は感嘆の声を漏らし、白髪の少女はまるで不思議なものを観察するように少年のことを見るのだった。
「チート能力を無効化する『チートレイザー』ねえ……どうりで俺のチートギャザラーでコピーできなかったわけだ。コピーする前にその能力自体を無効化してんだから」
納得する青年とは対照的に、白髪の少女は少しだけ神妙な雰囲気を漂わせてつぶやく。
「……能力を無効化する……まるでアレとは正反対のチカラ……」
「アレ……?」
彼女が発した言葉に少年は疑問符を浮かべる。
青年もまた何かを察したように白髪の少女を見て……そんな青年を白髪の少女は見返した。
「……ハオ……」
「……ああ……」
白髪の少女の呼び掛けに青年はうなずいた。そして青年は少年たちのほうに振り返ると、それまでのひょうひょうとした態度とは一変した真面目な顔付きで尋ねる。
「聞きたいことがあるんだが、少年たちは『能力を創るチート能力者』のことを知らないか?」
「「「『能力を創るチート能力者』……?」」」
青年からの問い掛けに少年と黒髪の少女、金髪の少女の三人は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。
……昨日この世界に来たばかりの少年はそんな能力者のことなど知る由もないし、この世界の住人である少女二人も心当たりはないらしい……。
修道長も黙ったままで、それはすなわち知らないということなのだろう。
彼らを見つめていた青年はそのように判断して、緊張を解くようにため息を一つすると、
「……いや、知らないならいいんだ。変なこと聞いて悪かったな」
「「はあ……」」
少年と黒髪の少女が声を漏らすが、金髪の少女だけは納得がいかないというように逆に青年へと問い掛ける。
「なんかあんの? その能力者と」
「いや、まあ、探してるっつーか……」
「名前とかは分からないわけ?」
「いや、それはそのだな……」
「なによ、はっきり言いなさいよ」
青年が返答に詰まっているとき、その隣に座る白髪の少女が口を開いた。
「……名前は分からない……でもあの顔は絶対に忘れない……あいつを倒すために、わたしたちは旅を続けてる……」
顔付きこそいつも通りの無表情だが、その瞳にはいままで見せたことのないような決意が宿っていて、その声音は揺るがない信念に染まっていた。
その様子から、そのチート能力者と何かしら尋常ならざる因縁があるらしいことが見て取れて……、
「「「…………!」」」
「……アス……」
金髪の少女と黒髪の少女、少年の三人は動揺の表情を浮かべ、青年は旅のパートナーの名前をつぶやくのだった。
その場にいる者たちが白髪の少女のことを見つめるなか、何か思い当たることがあるとでもいうように修道長が口を開く。
「二人の言っている人物と関係があるかは分からぬが、そういえば、ジャセイが前に言っていたことがある」
その場の視線が修道長に集まり、修道長は青年と白髪の少女に言う。
「『私のこのチート能力は王都で手に入れました。この力をくれたやつらにはサマサマですね』と、得意げにしゃべっておった」
「本当かそれ⁉」
身を乗り出す青年に、
「本当のことかは分からん。だがお主たちも知っておるだろうが、チート能力を得るためには人柱を捧げる必要がある」
「「「「…………」」」」
「人柱……?」
少年を除いた全員が黙り込む。ただ一人だけ事情を飲み込めていない少年に、この説明は自分がするべきだという顔付きで黒髪の少女が彼に向いた。
「昨日出会ったあとでちょっとだけ言ったかもしれませんが、ちゃんとした説明はまだでしたよね。それにいろいろと大変だったので忘れてしまったと思いますし」
彼女は説明する。自分の感情を挟まないように、ただ事実を事実として伝えるために。
「チート能力を付与する場合、その代償として誰かが持っているすべての魔力と魔法の才能を捧げる必要があるんです。この代償に選ばれた人のことを、わたしたちは人柱と呼んでいます」
「え……?」
少年は困惑の声を漏らす。
いや、確かに昨日の夜、黒髪の少女と出会ったあとでそのようなことを聞いた気がする。そのすぐあとに絶対命中のチート能力者やジャセイと戦ったり、死にそうになったりしたせいで忘れていたが……。
「ケイさんの場合は、わたしが人柱となりました。あの場には紅蓮のショウを除けばわたししかいませんでしたし……いえ、もし誰かいたとしてもこんな役目を負わせるわけにはいかないでしょう……。とにかくいまのわたしはもう一生、魔法を使うことができません」
「な……⁉」
この世界に住む人間にとって、魔法がどれくらい大切なものなのかは少年には分からない。
ひょっとしたら、身体の一部を失うのと同等の出来事なのかもしれない。
とにかく、それまでできていたことが、生涯できなくなるというのは……つまり魔法を一生使えなくなるということは……それも他の何でもなく自分のせいで失われたということは……少年にとって余りにも衝撃的な事実だった。
絶句している少年に黒髪の少女は柔らかく微笑む。
「心配しないでください。魔法がなくても生きていけますし、いざとなったら魔法具がありますしね」
そもそも紅蓮のショウに殺されかけていたあの状況では、あとあとのことまで考えている余裕などなかったはずだ。魔法を失わなければ、死んでいたのだから。
衝撃で停止していた少年の思考がようやく動き出して、
「でも……大事なものなんでしょ、魔法って……それが使えなくなるって……」
「そこまででもないですよ。実際、街に住んでいる多くの人たちは日常の生活のなかで魔法をあまり使いませんし、なにかあっても専門の魔導士に頼めばいいんですから」
「そう……なの……?」
「はい」
黒髪の少女はもう一度微笑む。
その微笑みが、少年にとっては無理にしているようにも見えた。安心させるための、不安にさせないための、何よりもその代償を得た少年に不必要な重荷を背負わせないための。
その場にいる者たちが黒髪の少女のことを黙って見つめ、
「…………」
少年もまた彼女のことを見つめる。そんな彼の耳に修道長の声が聞こえてくる。
「……話に戻ってもよろしいか……?」
「え、あ、はい……」
少年と黒髪の少女を含めた全員が再び前を向き、修道長が話を再開する。
「ジャセイはその人柱となった者を連れていなかった。確証があるわけではないが、もし人柱なしで能力を得ることができる方法があるのだとすれば、それこそハオさんとアスさんが言っていた『能力を創るチート能力者』が絡んでいるのではないか……と思うのだが」
「…………」
顎に手をあてて黙ったまま考え込む青年に、
「無論、チート能力を得たあとでジャセイか、その場にいた何者かが人柱となった者を殺した可能性もあるが……」
「確かにそれはある……だが……」
青年が顔を上げた。その瞳には次の目的を見つけたという気合が宿っていた。
「サンキュー、じいさん。明日にでも俺とアスは王都に行くことにする。もしかしたら、もしかするかもしれねえしな」
「そうか……。ならば、これを持っていったほうがいいかもしれない」
修道長が服のポケットから紅い宝石のついた壊れた装飾品を取り出して、青年の前へと差し出した。
少年と黒髪の少女、金髪の少女が、
「「「あ」」」
と、見覚えのあるそれに小さく声を漏らした。
「なんだこりゃ?」
壊れたその装飾品を手に取る青年に修道長が言う。
「ジャセイが持っていた魔法具のブレスレットだ。いまは壊れているがな。この修道会に来たときすでに、ジャセイはそれを持っていた。もしかしたらチート能力と一緒に、王都で手に入れたのかもしれない。ジャセイに力を与えた者を探す際の手掛かりになるかもしれないと思ってな」
「……なるほどねえ……黒髪ちゃん、ちょっといいかな?」
青年に呼び掛けられて、黒髪の少女は彼に尋ねる。
「なんですか?」
「いやさ、きみのサトリの力でこのブレスレットの情報を出してくれないかなと思ってね。もしかしたら俺たちの探してるやつの情報が残ってるかも」
「え……そ、それは……」
黒髪の少女が戸惑いの表情を浮かべたとき、金髪の少女が横合いから青年に言った。
「あんた、サキがサトリだってことは知ってたのね。ケイがチート能力を持ってるってことは気付いてなかったのに」
「そりゃまあ……黒髪ちゃんはこの辺りじゃ有名だったからな。心のなかを覗かれたくなかったらサトリのサキには近付くなって、色んなところで言われたし。似顔絵を貼ってるギルドや店なんかもあったぜ……実際に見てみたら本人のほうが美人だけどな」
「……ふーん……」
「まあ俺は心のなかを覗かれてもこんなにかわい……」
「サキを口説こうとしたらマジで焼き殺すからね」
「はいすんませんでした」
金髪の少女の冷たい殺意の視線が青年に突き刺さり、彼は即座に頭と両手をテーブルにつけて謝罪した。
それから金髪の少女はいつもの表情に戻ると黒髪の少女に向いて、
「まあ、こいつのことはどうでもいいけど、アスちゃんの助けになるんだし、やってみたら?」
「そう……ですね……」
戸惑っていた黒髪の少女だったが、決心したようにうなずくと、青年がテーブルの上に置いた壊れたブレスレットに手を伸ばしていく。
全員が彼女のその様子を見守るなか……少年の心のなかに一抹の疑問がよぎった。
(あれ……? サトリの力を使うときって、サキさんこんなに集中してたっけ……?)
ジャセイとの戦いのときでは、結構簡単にサトリの力を解放していたはずなのに……。
いま、手を伸ばしている黒髪の少女の瞳は真剣そのもので、額からは冷汗が見えるほどだった。
そして、少年のその不安にも似た疑問はすぐさま解かれることになる。
黒髪の少女の指先がブレスレットに触れた瞬間、室内を埋め尽くすほどの膨大なメッセージウインドウが溢れ出し……。
「おいおい、これじゃどれに何が書いてあるか分からねえよ……!」
「サキ……! しまって……! 早く……!」
青年と金髪の少女が言い終わってすぐに、大量のメッセージウインドウが霧を晴らすように消えていく。
それと同時にガタンと音がして……メッセージウインドウの霧の向こうから見えてきたのは、椅子から滑り落ちて床に倒れている黒髪の少女の姿だった。
「サキさん……⁉」
隣に座っていた少年が慌てて黒髪の少女に近寄って、荒い息をしている彼女の肩を揺さぶった。




