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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】

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その五 昼食の配膳風景


「いやあ、一時はどうなることかと思ったよ」


 テーブルに座って、後頭部に手を置きながら青年が言う。そんな彼の前に、がちゃんと音を立てながら金髪の少女が野菜の盛られた皿を置いた。


「黙ってあんなところで能力を使ってたあんたが悪い」

「あれ、もしかしてまだ怒ってる?」

「証言してくれたアスちゃんとユウナさんに感謝することね。もし本当に襲ってたら、あたしがあんたを灰になるまで焼き殺してたんだから」

「おお、怖い怖い、っていうかちょっと怖すぎない。少年もそう思わない?」

「俺を巻き込まないでください」


 話を振ってくる青年に、少年は言う。少年の隣には、なおもまだフードをかぶった黒髪の少女が座っていた。彼女は自分の前に料理の皿を並べてくれている修道女に、


「あ、ありがとうございます、ユウナさん……」

「……いえ……」


 これも来客に対する務めの一つだというように、それだけ答えた修道女はテーブルのそばに置かれている配膳車から次の皿を持ってくる。


 そんなふうに黙々と作業を続けている修道女に、金髪の少女が言った。


「ユウナさん、別に手伝ってくれなくても、たった六人分だし、あたし一人で大丈夫ですよ。ユウナさんには他にやることがあるでしょうし」

「……一人より二人で配膳したほうが早く終わりますので……」

「そりゃそうですけど……」


 淡々とした調子で言う修道女に、金髪の少女が心のなかで思う。


(やっぱりこの人、苦手……)


 二人の会話を聞いて黒髪の少女が、


「あ、あの、それならわたしも手伝います」

「あ、じゃあ俺も手伝うよ」


 彼女に続いて少年も言うが、金髪の少女はそれを押しとどめた。


「二人は座ってなさい。これはあんたたちをもてなす食事でもあるんだから」

「「でも……」」

「いいから」


 金髪の少女の言葉に青年も同意する。


「そうそう、いま俺たちはお客さんなんだから、ドンと構えてりゃいいんだよ」

「あんたはむしろ手伝え」

「なんか俺だけ扱いひどくない?」


 明確に悪い意味で金髪の少女の態度が自分だけ違うということに、青年が納得していない声を出したとき、修道女が彼の前にスープの皿を置いた。


「お、ユウナさん、ありがとうございます。いやあ、それにしてもユウナさんって美人ですよね~」

「…………」

「って、ユウナさん、目元にうっすらくまできてるじゃないですか」

「……遅くまで本を読んでいたもので……」

「そうなんですか~。俺も本や新聞をよく読むんですよね~。もしかして俺たちって気が合うんじゃ……」


 楽しそうにする青年を、金髪の少女が虫を見るような目で見て、


「修道女を口説こうとするな、燃やすわよ」

「ひどっ」


 青年が傷付いたような声を出すのだった。


 そうやってテーブルの上に料理の皿が並べられていくなかで、何の感慨も込めていないような声音で、まるで世間話でもするように修道女が口を開く。


「……そういえば……さきほど、そこの彼がジャセイさまのチート能力を手に入れたと仰っていましたが……」

「「「……⁉」」」


 黒髪の少女と少年がびくりとし、金髪の少女がしまったという顔をする。彼らの動揺に気付いているのか、いないのか、相変わらずの無感情で修道女は言葉を続ける。


「……今朝からジャセイさまの姿も見えませんし……もしかしてジャセイさまは死んでしまったのですか……」


 彼女の言葉に返答したのは青年だった。


「いや死んでねえよ。氷漬けにはなってるけど……がっ!」

「メインディッシュの大豆でできたグルブをお持ちしました~」


 金髪の少女が青年の前に皿を置くのと同時に、その彼の頭を肘打ちする。痛みに悶えた青年が立ち上がって大声を出した。


「いってえな! 何すんだよ!」


 それに対して、金髪の少女が笑みを浮かべながら目を細くして、背筋が凍るほどの冷たい声で言う。


「黙ってなさい。灰も残さずに焼却するわよ」

「……はい……すみませんでした……」


 青年が元の場所に座る。


 まるで天敵に目をつけられた小動物のように震えている青年のことなど気にも留めずに、修道女は口を開いた。


「……氷漬け、ですか……」

「やだなあ、ユウナさん、本気にしないでくださいよ。いまのはこいつの冗談ですよ、冗談」

「…………」


 明らかに嘘笑いだと分かる声音で言う金髪の少女のことを修道女は見つめる。


 部屋のなかには青ざめた青年がぶつぶつとつぶやいている、


(やべえよ……やべえよ……マジ殺されちまうよ……マジやべえよ……)


 という静かなBGM以外に物音はなく、まるで真意を測るかのような修道女の視線が続いたあと……不意に横合いから、それまで黙っていた修道長が口を挟んだ。


「いや、冗談ではない。ジャセイなら倒された。ここにいる者たちによってな」


 彼の言葉に、


「「「……⁉」」」

「…………」


 黒髪の少女と少年、金髪の少女の三人は驚きの表情を浮かべるが、修道女は依然として無表情を貫いたまま今度は初老の男を見つめるのだった。


 その場の全員を代表するかのように金髪の少女が修道長へと声をかける。


「修道長、そのことは……!」


 いま言ってしまってよかったのですか……彼女はそう問おうとしたのだろう。金髪の少女の言わんとしていることを察していた修道長が彼女に顔を向けて、


「いずれは露見することだ。それにどのみち、明日には街の皆に伝えようと思っていたのだからな、いままでの真実全てを」

「修道長……」


 いままでの真実を公表する……それはすなわち、この街の修道会はジャセイによって支配されていたこと、ひいては、その修道会の長である初老の男がたった一人のチート能力者に屈服していたことを街の住民全員に知らしめてしまうことを意味する。


 もしそれらのことを街の住民が知れば、この街において修道会は信頼を失い、修道長の立場も危うくなってしまうだろう。


 だが、それでも、真実を伝えなければならない。


 初老の男の言葉の裏に潜んでいる、その決意に金髪の少女は気付く。だからこそ、彼女はそれ以上、何も言うことができなかった。


 そしてまた、無表情の修道女もただ一言、


「……そうですか……」


 そうつぶやいたきり黙り込んでしまう。その様子はまるで興味を失ったようでもあり、あるいは何かしら考えごとをしているようにも見えて……。


 そうして少しの間どこともない場所に視線を向けていた修道女は、気が付いたようにいくつもの皿の並べられたテーブルを見渡したあと、そばに置かれている空になった配膳車に顔を向けて、


「……料理を並べ終えたようなので、私は退室させていただきます……」


 部屋の外に出ていこうとする彼女に青年が声をかける。


「どうせなら一緒に食べていきませんか? お昼まだなんでしょ?」

「……いえ……私は一人で食べるのが好きなので……それにもう一人分用意していたら、皆さんの食事が冷めてしまいますから……皆さんのお話の邪魔をしてもいけませんし……」


 そう言い残して、表情に乏しい修道女は部屋の外へと出ていった。




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