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異世界チートレイザー  作者: ナロー
【第四幕】 【王都】

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83/325

その三 二つの世界の共通項と差異項


 先を歩く黒髪の少女に追いついて、少年は話しかける。


「お昼ご飯かあ、そういえばずっと寝てて朝ご飯食べてないから、お腹ぺこぺこだよ」


 少年をちらと見た少女の顔色はもういつもの様子に戻っていて、彼の言葉に微笑を浮かべた。


「わたしもさっき起きたばかりなので、お腹がすいています。ケイさんと同じですね」


 彼女の様子に少年は安心して、


「なにが出るのかな? こっちの世界のご飯は二回目だから、楽しみ半分、怖さ半分ってところだけど」

「ここは修道会ですので、おそらく豆類や麦、野菜などを使用した食事だと思います」

「へえー」

「お肉や、ネマーなどの麺類は出ないかもしれませんが……」

「ネマー?」

「昨夜わたしたちが食べたものです」


 言われて、少年は昨日の夜食べたラーメンのような食べ物を思い出す。昨日の今日とはいえ、ここに来たばかりだし、他にもいろいろなことがあったので、食べ物の名前を覚えている余裕などなかった。


「あれかあ……あれはおいしかったね、ラーメンみたいで」


 黒髪の少女は少しだけ首をかしげて、


「らあめん? とはなんですか?」

「俺がいた世界の食べ物のことだよ。昨日食べたネマーに似てるんだけど、豚骨とか塩とかしょうゆとか、いろいろな種類があるんだ」

「そうなんですか……あ」

「どうしたの?」


 会話のなかで何かに気付いたように、少女は口を開く。


「らあめん、という食べ物は初めて聞きましたが……豚骨や塩、しょうゆというものはこの世界にもあります」

「へえ、そうなんだ」

「それにさっき、わたしは野菜やお肉などと言いましたが、ケイさんはそれがなんなのか理解してましたよね」

「うん、それがどうしたの?」


 少年にとってその会話は何気なく交わしたものだった。疑問符を浮かべる少年に、黒髪の少女は言う。


「ケイさんにとってこの世界は異世界になりますが、肉や野菜、塩などといった『概念』的なものの名前は同じということです。ところで、ケイさんの世界にこの街の名前と同じ『ノドル』という街や、この街で使われている『ロッド』という貨幣単位はありましたか?」

「え? どうかな? もしかしたら世界のどこかにはあるかもしれないけど……俺は知らないなあ」

「それでは、この街があるこの国の名前は『ジーン』というのですが、それはありますか?」

「いや、俺が知る限り、そんな名前の国はなかったと思うよ。それにジーンっていったら、俺の世界では『遺伝子』って意味の外国語になるし」

「……。……そうですか……」

「でも、それがどうかしたの?」

「さきほども言いましたが、ケイさんの世界とこの世界では『概念』的な部分は共通しているようです。反面、国や街や貨幣単位などの『固有名詞』的な名前は違うみたいです」

「そう言われれば、そうみたいだね」

「それにケイさんは異世界の民で言語が違うはずなのに、こうやって問題なくわたしと話せていますし……」

「うーん……」


 真面目な雰囲気の黒髪の少女につられて、少年も腕を組んで考える素振りをするも、すぐに何でもないことのように、


「別に気にしなくていいんじゃない、それくらい。これはなに、あれはなに、っていちいち聞かなくて済むし」

「それはそうかもしれませんが……」

「それに俺はうれしいよ」

「え……?」


 隣を歩く黒髪の少女に笑いかけながら、少年は言った。


「だって、サキさんとこうして話せるんだから。言葉やものの名前が全部違ってたら、こうして普通に話すこともできないからね」

「…………!」


 ただこうして話していること、少年はそれをうれしいと言う。彼のその言葉に、黒髪の少女はとっさに顔を背けてしまう。


 彼女のその様子に、少年は内心慌てる。


「あ、あれ、俺いま変なこと言った?」

「ケ、ケイさん……」

「は、はい」


 聞こえるか聞こえないかというくらいの声で、黒髪の少女は言った。


「わたしも、その、うれしいです……ケイさんとこうして話せて……」

「ほ、本当……?」

「はい……」

「よかったあ」


 彼女の言葉に、少年はほっと安堵する。


「わたしもよかったです、本当に……召喚されたのがケイさんで……」

「え?」

「あ、あそこですよ、お昼ご飯を食べる部屋は。さあ、早く行きましょう、イブさんたちが待っています」


 視界の向こうに見えた部屋を、黒髪の少女は取り繕うように指さして、心持ち早足になる。その様子は恥ずかしさを隠すようで。


「あ、待ってよ、サキさん」


 言いながら、少年は彼女を追いかけた。


 ただ話すことさえできるのなら、二つの世界の違う部分と同じ部分のことなど、彼らはもう気に留めていないようだった……。



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