その五十三 大切な人たちなんですから……!
「サキさん、どうして……逃げたはずじゃあ……」
かすれた声で言う少年を見て、黒髪の少女は申し訳なさそうに目を伏せる。
「ごめんなさい、ケイさん。自分でも分かっています、このようなことは馬鹿げていると。この街や世界に住むたくさんの人たちのことを考えれば、あの男にサトリの呪いを渡さないために、わたしはこの場から逃げるべきだと」
思い悩むように目を強く閉じる。
少しの間。
黒髪の少女は目を開けると顔を上げた。
「でも……!」
そこには決意をたたえた強い瞳が宿っていた。
「わたしにはできない……! ケイさんやイブさんを置き去りにして、わたしだけが逃げるなんて……二人が死にそうになっているのに、わたしだけが安全な場所で生き延びるなんてこと……わたしにはできない!」
片手を自分の胸に当てて、黒髪の少女は心からの言葉を言う。
「だって、二人はわたしにとって大切な人たちなんですから……! 会ってからまだ数時間ほどしか経っていないとしても、なくしてはいけない、かけがえのない人たちなんですから……!」
「サキさん……」
黒髪の少女は少年を見ると、申し訳なさそうに言った。
「本当にごめんなさい、ケイさん……わたしのわがままのために、たくさんの人たちの未来が危険にさらされてしまうかもしれないのに……」
「…………」
黒髪の少女はジャセイを強い目で見据えた。
「あなたの狙いはわたしでしょう……! いまわたしから一番近いのはあなたです。さあ、わたしを攻撃しなさい。その代わり、サトリを継承してもケイさんとイブさんには手を出さないと約束してください」
その言葉に、ジャセイは含み笑いをする。
(そんな約束を私が守るわけがないだろう。だがここはやつの言うことを聞くフリをするのが得策だな)
少年に向けられていたジャセイの手が、黒髪の少女へと向く。
「いいでしょう」
その手に紅色の光がまとわれていき……破壊の紅球が黒髪の少女へと撃ち出された。




