その五十一 ジャセイとの戦い
「それはつまり、あなたも私の邪魔をするということですね」
強い目でにらみつけてくる少年へと、ジャセイは片手をかざした。その手のひらに紫色の光がまとわれていく。
「ならば、あなたがどうやって私の猛毒を消したのかは分かりませんが、死になさい」
いままでジャセイが放っていたものよりも巨大な紫色の球体が少年へと撃ち出され、彼とそのそばで倒れていた金髪の少女の身体を飲み込んでいった。
「さて、サトリの居場所は奴隷たちに探させることにしましょうか。もちろん、この街から出られないように周囲を封鎖したあとでね」
邪魔者は瞬殺した……そう思ったジャセイが修道長たちに言葉を掛けたとき――
バシュウッ! というような、液体が瞬時に蒸発するかのような音とともに紫の球体が弾け飛び、片手を前にかざしている無傷の少年の姿が現れる。
「……⁉」
ジャセイの表情が再び驚愕に彩られた。
(偶然……ではない!)
猛毒を消したのが一度だけならば何かしらの偶然ということもあるかもしれないが、二度目ともなれば違ってくる。少なくとも、二回も同じ偶然が続いただけなどと、ジャセイは楽観視はしなかった。
(毒を消した……ということはつまり……!)
ジャセイがもう一度片手を少年にかざす。
「なるほど、解毒ですか。それがあなたの力ですね。ならば、今度は純粋な破壊をすればいいだけのこと……!」
ジャセイの手から禍々しい紅色の球体が生成され、少年へと撃ち出された。
……が。
少年は紅い球体を横に払うように腕を動かして、それを完全に消滅させる。
「なっ⁉」
ジャセイには意味が分からない。猛毒を消し、あらゆる生物を破壊する攻撃も消した。しかも少年は魔法などの遠距離攻撃で消しているのではなく、直接『手で触れて』消しているのだ。
少年が人間である以上、生物である以上、こんなことはありえないはずだ。
「何だ⁉ 何なんだ、おまえの力は⁉ おまえは本当に生物なのか⁉」
大声で問うジャセイに、少年が駆け出した。
少年の力はあらゆるチート能力を無効化できるが、それはあくまで防御や補助的な使い方くらいしかできない。いまの少年が相手を攻撃するには、近付いて殴るか蹴るくらいしかない。
迫ってくる少年に、ジャセイは両手をかざした。
「クッ……これならどうですか……!」
その両手から、紫と紅の二種類の球体がいくつも撃ち出される……が、やはりそれらは少年の身体に命中した瞬間に、跡形もなく完全に消滅していく。
一つか二つほどの球体は狙いがそれて、倒れている金髪の少女へと向かいそうになる。少年はそれらの球体も、すぐさまそばに駆け寄ると手を触れて消していった。
「うおおおお!」
そうしてジャセイの目の前に迫った少年は、声を上げながら拳を振り抜く。それは見事にジャセイの頬に直撃するも、気絶させるにはおよばず、ジャセイの体勢を少しよろめかせせただけだ。
「もう一発だ!」
再び少年がジャセイへと拳を振り上げる。二度目の攻撃がジャセイの顔面を打ち抜こうとした瞬間、
「この、ガキがああああ!」
ジャセイは少年の拳が当たる寸前でそれを避けると、とっさに少年へと蹴りを繰り出した。
ジャセイのそのキックは、さきほどの紫や紅い球体に比べれば、はるかに威力の弱い一撃だった。ジャセイ自身、球体を撃つ時間的・精神的余裕がなく、反射的に蹴り飛ばしただけに過ぎない。
だが。
そのキックの一撃が命中した少年は、身体をよろめかせて、苦痛に顔をゆがませた。
『ダメージを与えた』のだ。
(……⁉ …………)
ジャセイはその事実に気付く。
「なるほど……なんとなく見えてきましたよ、あなたの力が」
ジャセイはニヤリと笑った。




