その五十 おまえは俺が倒してやる!
魔法実験室の入り口の前まで戻った少年が見たのは、ジャセイに首を絞め上げられている金髪の少女の姿だった。
片手で首を絞めながら、ジャセイは宙に持ち上げている金髪の少女に言う。
「そこまで私の邪魔をするのであれば、地獄の苦しみを味わわせながら殺してあげますよ」
「やめろ!」
少年の叫びなど意に介することなく、ジャセイは金髪の少女の首を絞める手に力を込める。その途端、その手から淡い紫の光が発せられて、金髪の少女の全身の皮膚がおぞましい紫へと変色していった。
「やめるんだ!」
ジャセイがやっていることを止めるために駆けだした少年に気付いて、ジャセイが彼のほうへと金髪の少女を放り投げる。
「イブさん!」
地面に倒れる金髪の少女に呼び掛けるが、彼女の口から発せられたのは、全身を蝕む苦痛に対する、いまにも死んでしまいそうな絶叫だけだった。
「彼女の身体には猛毒を与えてやりました。死んだほうがマシだと思うような激痛を味わいながら、あと一分もしないうちに死ぬでしょう」
あざ笑うかのようなジャセイの声が降る。
「あなたはサトリと一緒にいた者ですね。そんな助からない彼女のことなど放っておいて、サトリの居場所を教え……」
「イブさんは死なせない……!」
少年の返答に、ジャセイが訝しげに眉を動かす。
少年は金髪の少女へと屈みこんで、彼女の頬にそっと触れた。
その瞬間、金髪の少女の全身を蝕んでいた紫色が、跡形もなく消え去っていく。
荒い息を吐いていた金髪の少女の呼吸は緩やかになり、その表情も穏やかなものへと落ち着いていった。
「なっ⁉」
ジャセイの目が驚きに見開かれる。
ジャセイだけでなく、その近くで全身を恐怖に震わせながら成り行きを見ていた修道長と修道士の男もまた、驚愕の表情を浮かべていた。
「何をしたのですか⁉ 答えなさい!」
問うジャセイの声に、少年は答えずに立ち上がり、ジャセイへと正面から向き合った。
少年の瞳に宿っていたのは鋭い光だった。
この世界に来てから初めて、少年の心に怒りの感情が沸々と湧き出していた。
「おまえは俺が倒してやる!」




