その四十六 冷水を浴びせられたような悪寒
パチパチパチパチと、薄い笑みを浮かべながら、ジャセイが金髪の少女へと拍手をする。
「それは素晴らしい理想です。感服しました」
金髪の少女は訝しげな視線を、修道士の男と修道長は呆気に取られた瞳を、それぞれがジャセイへと向ける。それらに構わずに、ジャセイが言葉を続ける。
「それでは、死になさい」
金髪の少女へと、ジャセイが手をかざす。とっさに我に返った修道長が口を挟んだ。
「お、お待ちを! いまイブの考えは素晴らしいと……」
「言いましたね。しかし、それはそれ、これはこれ。炎を消さないのなら、殺します。このままではサトリに逃げられてしまうではないですか」
「…………⁉」
どうしてこんな簡単なことも分からないのかと言いたげなジャセイに……人を殺すと、あっさりと言ってのけるジャセイに……修道長はただただ驚愕し、そして、その背中に冷水を浴びせられたような悪寒が襲い掛かった。
恐ろしい。怖ろしい。ただただ純粋に、おそろしかった。
薄い笑みを浮かべているジャセイを止めようと、修道長はジャセイの肩に手を伸ばそうとするが……躊躇した。躊躇してしまった。
いまこの男を止めれば、行く手を邪魔すれば……この男のことだ、たとえ誰であれ、それが修道長たる自分であれ、絶対に殺すだろう。
『殺される』という恐怖。『死』への恐怖。『それ』が、修道長の動きを鈍らせて……止めてしまった。
それはまた、修道士の男も同様だった。
逆らえば死んでしまうという恐怖感が、彼ら二人の、ジャセイに対する反対意見や反抗心を、ほんのわずかな欠片も残さずに、つみとってしまったのだ。
金髪の少女へとかざす、ジャセイのその手のひらの先に、紫色の球体が形成されていく。
炎の壁の維持によって、疲労が蓄積している金髪の少女には、その球体を避けるほどの体力は残されていなかった。
ジャセイの顔に狡猾な笑みが広がっていく。
彼女へと、紫色の球体が放たれようとした、その直前……どさりと、金髪の少女が床に倒れた。同時に、建物の周囲を取り巻いていた炎の壁が消失する。
極度の疲労によって、炎を維持するだけの、および起き上がっているだけの体力がなくなったのだった。




