その四十五 『困っているものには救いの手を』
床に手をついている金髪の少女の額に脂汗が浮かぶ。炎の壁を生成し、ジャセイたちを足止めすることに成功したというのに、その表情には険しさがにじんでいた。
(もって……数分ってところかしら……)
金髪の少女は修道士見習いだ。回復魔法に関しては治癒魔法は使えるものの、浄化魔法は未熟のまま。攻撃魔法だってまだまだで、さきほど見せた小さな火球をいくらかと、いまやっている炎の壁がせいぜいだった。
この炎の壁を維持し続けているだけで、金髪の少女の魔力、精神力、体力は刻一刻と、すり減っていっている。
そんな炎の壁を眺めつつ、ジャセイがあごに手を当てて、つぶやく。
「ふむ。この程度の炎くらいなら、私であれば口笛を吹きながらでも簡単に突破できるのですが……さすがに服は燃えてしまいますね」
ジャセイのチート能力は『回復』に関連したもの。生物は治せても、物体は直せない。
「服がないと困りますからね……どうしたものか……」
思案するような声を出してはいるものの、その表情にはまったく困った様子は見えない。建物を取り囲む炎の壁から視線を外したジャセイが、部屋の床に手をついている金髪の少女を一瞥する。
「ふふふふ。単純なことではないですか、あの小娘を殺してしまえばいいだけのこと」
追いつめた獲物を狙うヘビのように、ジャセイが金髪の少女へと手をかざそうとした、そのとき、それまで床にへたりこんだままだった修道長が慌てて立ち上がり、ジャセイへと声を掛ける。
「お、お待ちください……! それだけは……! 私が何とかしてみますから!」
ジャセイが修道長をちらりと見るが、そんなことには構わず、修道長は金髪の少女に言う。
「イブ! いますぐこの炎を消しなさい! どうしてサトリなど守る必要があるのだ! あんな呪われたものなど……!」
「……どうして……?」
金髪の少女が顔を上げる。炎の壁を維持し続けているからか、その表情には疲労が見て取れた。息を切らしながら、それでも炎を絶やすことなく、正面にいる修道長たちを見据えて、言葉を放つ。
「彼らが困っていたからです……『困っているものには救いの手を』、それが、あたしが理想とする修道士の姿だからです……そのことに、呪われているかどうかなんて、関係ありません……!」
「…………⁉」
修道長が息を飲む。修道長だけでなく、修道士の男もまた、金髪の少女の気迫に目を見開く。
ただ一人、ジャセイだけが薄い笑みを浮かべていた。




