その四十四 炎の壁
「させない!」
黒髪の少女たちの背中に迫る紫色の球体へと、金髪の少女が瞬時に手をかざした。魔法の威力を上げるための詠唱も、魔法名を言っている時間もない。
金髪の少女の手のひらに紅色の小さな塊、もとい燃え盛る小さな炎が出現し、撃ち出された。とっさに防御の構えを取るジャセイ、および室内の床へと慌てて身を伏せる修道長と修道士の男を無視して、その小さな炎は紫色の球体へと直撃する。
小さな炎と球体は相殺され、その余波に巻き込まれて、
「「……っ!」」
黒髪の少女と少年は床へと倒れ込んでしまった。
ジャセイのチート能力による攻撃は、相手が生物であれば、問答無用で殺戮する。
「サキさん、大丈夫⁉」
身体を起こしながら言う少年に、黒髪の少女は身を起こしながら口を開く。
「は、はい。ケイさんも大丈夫ですか?」
「うん、俺は平気」
うなずきながら、少年も答える。
周囲の床に、小さな炎の欠片が揺らめいている。どうやらジャセイが放った紫色の球体は、破片も含めて、すべて炎に焼かれて、黒髪の少女と少年には運良く届かなかったようだ。
「早く! あたしがひきつけているいまのうちに、逃げて!」
金髪の少女が叫んだ。その言葉に触発されて、黒髪の少女と少年はすぐさま立ち上がると、部屋の扉の外へと駆け出していく。
「逃がしません!」
そのあとを追って走り出そうとするジャセイに、二発目の小さな炎が迫る。瞬時に気付き、さきほど撃ったのと同じ紫色の球体で相殺する。飛び散る炎の先で片手をかざしている金髪の少女に、ジャセイは瞳を鋭くした。
視線を金髪の少女に注ぎながら、ジャセイがかたわらにへたりこんでいる修道長と修道士の男へと命令する。
「あなたたちは早くサトリを追いかけなさい。絶対に逃がしてはいけません!」
「は、はい……!」
すぐさま立ち上がって二人のあとを追いかけようとする修道士の男に、金髪の少女が叫ぶ。
「追いかけないで!」
修道士の男へと、金髪の少女はかざした手のひらを移すが……彼女にジャセイが口を挟んだ。
「ほう、仮にも同じ修道士の仲間に攻撃しますか?」
「……っ!」
金髪の少女の手が止まる。逡巡。躊躇。修道士の男も、修道長も、チート能力を持つジャセイに従っているだけに過ぎない。修道士の男と修道長は、本当なら、サトリのサキには近付きたくもないはずなのだから。
「それなら……っ!」
金髪の少女が、部屋の床に両手をついた。その両手のひらを中心として様々な図形や古代文字の刻まれた、うっすらと光る魔法陣が描き出される。
その魔法陣が急速に拡大していき、金髪の少女とジャセイたちがいる建物を取り囲んだ。
そして魔法陣が一際強く輝いた、次の瞬間、扉の外、彼らがいる建物の周囲に、炎の壁が出現した。




