その四十二 逃げなければ
突然現れた金髪の少女の姿に、修道長と修道士の男は驚きの顔を浮かべるが、ジャセイは、
「……ほう」
と少しだけ声を漏らしただけだった。とはいえ、まったく驚いていないわけではなく、瞳を少しだけ見開いている。しかしそれも一瞬のことで、すぐに普段の落ち着きを取り戻して、ジャセイは金髪の少女へと声を掛けた。
「サトリ……では、ありませんね」
その言葉に、ようやく我に返った修道長も金髪の少女へと声を上げる。
「イブ! まさかおまえがサトリに手を貸すとは……! 失踪したおまえの家族がこのことを知れば、さぞかし悲しむに……!」
金髪の少女を連れ戻そうと、彼女へと向かおうとする修道長を、ジャセイが手で制する。
「まあまあ、落ち着いてください、修道長」
「しかし……」
「イブさんのことはあとでもいいでしょう。いま大切なのはサトリのことです」
彼らのやり取りを聞きながら、物陰に隠れていた黒髪の少女が、そばにいる少年にささやきかける。
「イブさんがあの人たちの注意をひきつけているいまのうちに、逃げましょう、ケイさん」
「……やっぱりおかしいよ。イブさんを置いて、俺たちだけ逃げるなんて……」
思い切ることができないでいる少年に、黒髪の少女は諭すように言った。
「ケイさん、分かってください、イブさんの気持ちを。いまわたしたちは、逃げなければいけないんです」
無理矢理するように、少しだけ明るい調子で、
「それに、イブさんは修道会の人です。修道長さんもいるのですから、ジャセイというかたもイブさんを傷付けるようなマネはしないはずです」
「……でも……」
「このチャンスを見過ごせば、もう逃げられないかもしれません。イブさんの気持ちを無駄にしないためにも、お願いですから……!」
「…………」
必死な瞳で、まっすぐに見つめてくる黒髪の少女。
少年は瞳をぎゅっと閉じて、少しだけ顔をうつむかせて、奥歯を噛みしめる。ほんのわずかな沈黙のあと。苦渋の決断というように……少年はようやくのことで首を縦に振った。
「…………、分かったよ、サキさん……」
そして二人はジャセイたちに見つからないように、決して音を立てないように気を付けながら、魔法実験室の出入り口へと近付いていった。




