その三十五 人質となる修道会と街
みすぼらしい男とジャセイのやり取りを、そばにいた修道長は難しい顔で見ていた。その修道長に、ジャセイが振り向いて言う。
「それでは修道長、この者たちを奴隷小屋へと案内してください」
「……かしこまりました、ジャセイさま」
うなだれている男へと修道長が近付いていき、その腕を取って立ち上がらせると、広間の一方にある扉へと連れていく。
……。しばらくして、修道長は広間へと戻ってくる。見ると、ジャセイはそこにある長椅子に足を組みながら横になって、組んだ手を枕にして目をつむっていた。
ゆっくりと近付いて、修道長は失礼のないように気をつけながら声を掛ける。
「ジャセイさま」
「なんですか?」
目をつむったまま答えるジャセイに、修道長は進言した。
「奴隷小屋がもうすぐいっぱいになります」
「そうですか」
「少し奴隷を増やし過ぎなのではないかと思います。これからはもうちょっと……」
「まさか、私に奴隷を増やすな……と言うつもりじゃありませんよね」
ジャセイはうっすらと瞳を開けて、鋭い視線を修道長に向けた。
慌てて、初老の男は否定する。
「め、滅相もございません。ただ……奴隷小屋にもう入りきらないのも確かで……」
「それならば、もう一軒、新しく作ればいいではありませんか。そうするだけのお金はあり余ってるでしょう」
「は……おっしゃる通りで……」
初老の男は頭を下げる。その修道長に釘を刺すように、ジャセイは身を起こしながら言った。
「忘れているようですから言っておきますが、あなたも含めて、この修道会にいる修道士たちの命は、私の心一つで簡単に奪えるのですからね。もっと言えば、修道士たちだけではなく、この街に住む人々全員ですら、私は一瞬で殺すことができる」
「は……忘れたことなど……」
頭を下げたままの修道長の額に、冷汗が浮かび上がる。
ジャセイの言ったことは単なる空威張りでも、脅しでもない。このチート能力者は確かに、この街に住む人間全てを瞬殺できる力を持っていて、機嫌を損なえば、有言実行するだけの行動力も備えているのだ。
ジャセイには、絶対に、逆らってはいけない。
(逆らえば、全てが死に絶える……私も、修道会も、そしてこの街すら……)
ポタリ。額から浮かび上がった冷汗が頬を伝い、床へと落ちた。まるで、初老の男の涙のように。
修道長に忠告して、再びジャセイが長椅子に横になろうとしたとき、修道会の入り口が開いた。男の修道士が駆けこんでくる。
「サトリのサキを見つけました……ッ!」
その知らせを聞いて、ジャセイがニヤリと笑った。




