その三十二 学院の魔法実験室
黒髪少女が残したメッセージをたどって、少年は学院の敷地内に建てられている建物の前までくる。
【中に入ってください】
表示されたそのメッセージ通りに、扉を開けて中に入ると、果たして、そこには黒髪の少女と金髪の少女の二人がいた。
長テーブルのようなものに足をのばして座る黒髪の少女と、彼女の足に手をかざしている金髪の少女。金髪の少女イブが、入ってきた少年の気が付いて、手で招く。
「戻ってきたわね。お疲れさま。さっそくだけど、薬草を」
「うん」
金髪の少女まで近付いて、少年はポケットに入れていた薬草を手渡す。
「それをどうするの? サキさんの足に直接つけるの?」
少年が知っているゲームなどでは、薬草を使えば体力を回復するという文章が表示される。しかしこれはゲームなどではない。実際に傷に薬草を使うとなると、どうするのだろうか、少年は疑問に思う。
あきれたように、金髪の少女は答えた。
「そんなわけないじゃない。と言っても、異世界から来たんなら知らなくて当然か。これからこの薬草を調合して、液状にしたあとで患部に塗るのよ。あと、効果を増幅するために、水に溶かして飲むの。そうすれば、身体の外と中から、同時に細菌を攻撃できるでしょ」
「へえー。でも、調合って、どうやって?」
「それだけどね。ここに来るまでは修道会に一度戻らないとって思ってたけど……ここに来たのは好都合だったわね」
「どういうこと?」
意味が分からないという少年の問いに、金髪の少女は周囲に首を巡らせる。
「ここは学院の魔法実験室みたいでね。魔法具や魔法薬を作るためのフラスコとか大鍋とか、すりこぎ棒とか、いろいろなものがそろってるから。これだけ道具があれば充分よ」
薬草を受け取った金髪の少女が、黒髪の少女に言う。
「サキだっけ、少し待ってなさい、すぐにあたし特製の薬作ってあげるから」
「あ、ありがとうございます」
次に少年の方へと向いて、
「ケイっていったっけ、あんたは扉の近くにいて。誰か来たら、すぐに教えるように」
「うん、分かった」
「それじゃあ、始めるわよ」
勢い込んで、金髪の少女は薬作りに取り掛かり始めた。
――
イブに言われた通り、少年が扉の近くまで、向かってくる。
扉の外で様子を窺っていた修道服の男は、少年が扉に近付く前に、彼に気付かれないように、そっとその場を離れた。




