その三十一 学院へ
――
二人の少女が待っているはずなのに、いない。
「サキさん? イブさん? どこにいるの?」
室内を見回し、声を掛けるが返答はない。少年は二人がいた作業台まで近付くが、やはり影も形も見当たらない。何が起きているのか、二人に何があったのか、少年の心に不安が芽生えていく。
そのとき、作業台の近くで淡い光の窓枠が浮かび上がった。以前見たことがある、黒髪の少女が呪いと言っていた、あのメッセージウインドウだ。そこには簡潔に、こう記されていた。
【悪いチート能力者がわたしたちを探しているので、学院まで逃げます。このメッセージが案内するので、ケイさんも来てください】
メッセージが流れて、新たに【→】と表示される。その矢印の方向に目を向けると、同じように矢印が表示されている、別のメッセージウインドウが出現していた。これをたどっていけば、二人の少女の元までたどり着けるらしい。
矢印に従って、少年は走り出す。工房の裏口から外に出て、曲がりくねった街路を通り、木製の大きな門がある建物へと。
(サキさん、イブさん、無事でいて……)
その最中、少年は二人の少女の安否が気にかかっていた。そしてもう一つ……。
(悪いチート能力者って……?)
メッセージに表示されていた、その単語。いままでに出会った悪いチート能力者といえば、紅蓮のショウと絶対命中のミョウジンの二人くらいだ……が。
そのとき少年の脳裏に閃いたのは、一人の人物の名前。実際に会ったことはない。会話の中でしか聞いていない。しかし絶対に関わるなと忠告された……その名は。
(……ジャセイ……)
勲章の男は言っていた。どんな病気も怪我も治せると。
仮面の剣士は言っていた。回復魔法に該当する力が使えると。そして、最強、無敵、不死身に近いとも。
少年は建物の門の前へと来る。メッセージウインドウがまた表示され、その建物の外周に沿うように矢印が表示された。それに従って進んでいくと、建物を囲む木の柵の下部に、人間が一人通れるくらいの穴が開いている。
周囲には細かい木の破片が散らばっていて、まるで小さな爆弾で爆破したかのようだ。
(この先に、二人がいる)
木の柵の穴を潜り抜けて、少年は学院の敷地内へと入っていった。




