その三十 メッセージ
黒髪の少女の元まで戻った金髪の少女が、外に聞こえないように小さな声でささやく。
「ここを離れるわよ」
「え? なぜですか?」
「ジャセイがあなたを探してる」
「ジャセイ?」
聞き慣れない名前に、黒髪の少女は小首をかしげる。彼女の腕を自分の肩に回しながら、金髪の少女は短く言う。
「悪いチート能力者、って言えば察しはつくでしょ」
「あ……」
黒髪の少女は気が付いて、金髪の少女に言われるままに、作業台から降りる。足を床につけたとき痛んだのか、
「……っ……!」
我慢はしたものの、わずかに顔をしかめる。金髪の少女が言った。
「痛いだろうけど、我慢してね。裏口を出て少し行った先に、学院があるから、そこに向かうわよ」
そこで気が付いたように、
「あ、あと、ケイだっけ、あいつが戻ってきたときのために、別の場所に移ったって書き置きしておいた方が……いや、ダメか」
思い直したように、金髪の少女は首を横に振る。
「そんなもの残して、修道会のやつらに見つかったら移動した意味がないし……かといって何もメッセージを残さなかったら、あいつが分からないし……困ったわね……」
金髪の少女は考え込む。
「あいつにだけ見えて分かるようなメッセージがあればいいんだけど……そんな都合のいいものなんて……」
「……あります……」
「え……?」
金髪少女が黒髪の少女を見る。黒髪の少女は作業台に手を触れた。すると、呪いの力であるメッセージウインドウが出現する。しかし文章は現れず、淡く光るウインドウは空白のままだ。
「この呪いは残留思念みたいなものも表示できるんです。これを応用して、わたしたちが移動したことを知らせましょう。ケイさんがここに戻ってきたときだけ、自動で出現するように設定して……」
文章が表示されたあと、メッセージウインドウは淡い光を残して消えていった。
目を丸くしていた金髪の少女が、神妙な顔に戻って言う。
「ケイってやつも言ってたけど、確かに呪いじゃなければ、便利な能力かもしれないわね……」
「……本当に……そうだったら良かったんですけど……」
悲しげに黒髪の少女はつぶやく。
そして二人は工房の裏口から外に出て、近くに建てられている学院へと向かった。




