その二十九 消えた二人の少女
大きな建物のステンドグラスの窓を目印にして走っていた少年は、一回か二回、行き止まりに突き当たったものの、なんとかその大きな建物まで向かうことができた。
数時間前に見たことのある景色に、少年はほっと安堵の息を漏らす。このあたりならばなんとか分かる。工房まではもうすぐだ。
数時間前に通った道を逆にたどるように駆けて、工房へとたどり着く。
夜明けまではまだ余裕がある。間に合ったのだ。
「持ってきたよ、薬草!」
そして勢いよく、その扉を開け放ったとき、
「……あれ……?」
工房の中に、二人の少女の姿はなかった。
――
時間は、少年が工房にたどり着く少し前にさかのぼる。
病状を少しでも遅らせるために、足に手をかざしている金髪の少女に、黒髪の少女が口を開く。
「もし……わたしが死ぬようなときには……どうか、ずっと遠くまで離れていてください……」
万が一の事態に不安になり、か細く言うその声に、淡々とした調子で金髪の少女は答える。
「安心しなさい。言われなくても、そうするつもりだから」
彼女のその言葉を聞いて、ほっと、黒髪の少女は胸をなでおろした。これで少なくとも、金髪の少女は大丈夫だ。そう安心して。
そのとき、不意に、工房の外の通りで物音がした。
「いまのは……? ケイさんが戻ってきたのでしょうか?」
「…………」
黒髪の少女が疑問の声を上げ、金髪の少女は無言で外へと通じる扉へと視線を向ける。
物音はなおも断続的に続いている。よくは分からないが、誰かが走る音や、何かを話している声のようだ。
少なくとも、少年が戻ってきたようには思われなかった。
「……。あなたはここにいなさい。といっても、その足じゃ動けないだろうけど」
金髪の少女は静かに扉へと近付き、物音を立てないように、そっと開ける。薄めに開いた視界の先には、二人の人間がいた。金髪の少女と同じ灰色の修道服を着た彼らは、何か話していた。
「やれやれ、どうして俺たち修道士がサトリのサキなんか探さなきゃいけないんだ」
「仕方ないでしょ。ジャセイさまのおっしゃったことなんだから。ジャセイさまは心優しいお方、たとえ相手がサトリでも、困っているのなら救済してあげられるんだから」
「そうは言ってもなあ……。ところで、イブはどこに行ったんだ? あいつにも手伝わせないと」
「あの子なら、どうせまたギルドでしょ。失踪した人間の、発見報告書に新しい知らせがないか見に行ってるのよ。そんなことより、早くサトリを見つけなきゃ。あなたはそっちをお願い。私はこっちを探すから」
そして二人の修道士はその場から走り去っていく。
「……」息を殺して、金髪の少女は静かに扉を閉めた。




