その二十八 白髪蒼眼の少女
勲章をつけた男が去ったのを確認してから、青年が「ふう……」と息を吐く。それから少年の方へと向いて、
「気をつけろよ。この街の警察はいま、修道会のジャセイの言いなりになってるからな。とっ捕まったら、何をされることやら」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げる少年に、言葉を続ける。
「礼はいいから、さっさと工房とやらに向かったほうがいいんじゃないか。急いでるんだろ」
「このお礼はいつか……」
「そんなもんいいから、さっさと行け。俺だって急ぎの用があるのに、時間を無駄にしたんだからな。もう警察に見つかるんじゃねえぞ」
しっしと、邪魔なハエや蚊を追い払うように、青年は手を動かす。
それでも少年は何度も頭を下げて感謝の言葉を述べつつ、急いでさっき見つけた目印――大きな建物のステンドグラスの窓を目指して走り始めた。
その背中を眺めていた青年のそばに、足音もなく、一人の少女が近寄る。
「……終わった……?」
「おわっ⁉ いきなり現れるんじゃねえ! びっくりするじゃねえか!」
「……いきなりじゃない……いま声かけた……」
「そういう意味じゃねえって。足音とか気配を消して出てくるなってことだ」
「……べつに……消してるつもりは……ない……」
「あっそ……」
無感情に言葉を継ぐ少女に、青年は呆れたような声を出す。
少女の髪や肌は雪のように白く、瞳は海や雲一つない空のように蒼い。年齢は十代前半くらいだろうか、身長は青年の半分から六割くらいしかなく、魔導士が着るような黒いローブを身にまとっている。
あまり活発ではない性格なのか、変化に乏しい無感情的な表情をしていて、物静かな雰囲気をたたえている。青年の顔を見上げたあと、視線を去り行く少年の背中に向けて、ぼそりとつぶやく。
「……べつに……助ける必要なんか……なかったのに……」
聞こえていなかったのか、青年は自分の手のひらをまじまじと見つめていた。不審に思った白髪の少女が尋ねる。
「……どうしたの……?」
「あ、いや……」
奥歯にものが挟まったように、歯切れ悪く青年は言った。
「なんだかよく分からねえけど、あいつの背中に触ったとき、俺のチートが弱まった気がしたんだよな……」
「……」無言で見つめる少女に、青年は気を取り直して、
「いや、んなわけないか。悪い、俺の気のせいだった」
「…………」
無言で聞いていた少女は、視線を青年から走り去っていく少年へと、いま一度移して、離れていくその背中を見つめ続けていた。




